警備員とお客(さま)
昨日は嫌なことがあって、仕事帰りにいつもの居酒屋へと駆け込んだ。
トロッと優しい甘さを称えた吟醸酒たちが、俺のトゲついた心をなだめてくれる。
相性がいいと頼んだのは、塩味の効いたスルメ。
だが、それぞれはすごくうまいけど、強い塩味と吟醸酒の甘味がケンカしてしまって、残念ながら素晴らしいマリアージュとはならなかった。
優しく癒されたはずなのに、酒も本調子でなかったので、いつもの8割くらいしか楽しめなかった。
くそっ!むしゃくしゃする!
それもこれも、全部あの客のせいだ!
・・・という訳で、今回は俺らと切っても切れない存在、「お客さま」について話そうと思う。
警備員にとって、お客さまという存在は2種類いると俺は思っている。
ひとつは会社と契約している契約先。
今の俺で言うと、デパートの管理事務所の人たちだな。
俺らの場合は警備員の詰所が管理事務所から見えないし、わざわざ詰所になんて滅多に顔を出すこともない。
だからなおさら仕事で立っている時の姿を厳しく見られている気がするな。
また、月に1回くらいで管理事務所の人との会議がある。
そこには、デパートの関係者として管理事務所の人に加えて、設備管理を任されてる会社、清掃を委託されている会社、それと俺ら警備員の代表、だいたい隊長が出席する。
だいたい業務報告になるんだっていうけど、会議の後に隊長の顔が険しい時は要注意だ。
警備について何か言われたんじゃないかな?と勘繰ってしまうし、大抵その予想は当たっている。
まとめている立場からすると、他の隊員の素行や態度のことでお叱りを受けるのは、管理能力に問題ありと思われちゃうから、嫌なんだろうな。
俺らに「管理事務所からこういうことを言われた」と、指導という形で朝礼なんかで話してくる。
隊員各々が何を考えているかはわからないけど、こうした指導が入ると、数日間はちょっと見た目や態度がいい感じになるのは間違いない。
まあ、全体に伝える情報はそんなもんだろう。
まずいのは、隊長かサシで話そうと言って来た場合。
それは個人の名前が出されて、「この人どうにかならないの?」と管理事務所からイエローカードが出された時や、「もう、この人うちの仕事無理なんじゃない?」とレッドカードが出された時だ。
普段の受付の対応がよくなかったり、見回りの時の態度や姿に問題があるな、なんて俺らが思っている奴に、的確にカードを出してくる。
管理事務所の人は、基本、警備のこと、ましてやひとりの警備員については、滅多に口を出してこない。
でも、やっぱり見てるところは見てるんだなぁ、と。
雇い主としてひとり当たり数10万円の賃金を支払ってるんだから、給料分の仕事はするべきだと思っているし、「これだけ払っているんだから」と、求めてくるレベルもかなり高い。
立ってるだけに見える警備員になんて、1円たりとも払いたくない、できるだけパフォーマンスの高い警備員を使いたいと考えるのは、お金を出す立場からしたら当然だと思う。
変な警備員ばかりだと、その建物のイメージを大きく損ねてしまうし、店のお客さまからもクレームになりやすいだろうからな。
俺らをプロスポーツ選手に例えれば、管理事務所はいわばフロント。
選手を評価してそれに見合った年俸を決める立場だ。
彼らが納得してお金を払ってくれるように、日々の仕事をしていく、ということなんだな。
さて、そろそろ終わり、晩酌の時間だ。
次の話はもうひとつの「お客さま」について話そうと思う。