一日目 忙しくなる半年間
タイトルの同居はまだです、すみません。
「おーい成島君」
「何ですかオーナー」
「三上さんと呼べと言ったろ?」
「あ、すみません三上さん」
「夜勤が一人辞めただろう?」
「あぁ、その事なんですけど
この前の面接に来た女性、どうでした?」
「どうって言われても」
「接客、人当たりが良いか、要領が良さそうかだけでいいですから」
「それなら大丈夫だと思うけど…」
「何か心配事が?」
「いや、身綺麗だったし丁寧な子だったけど、
少し抜けてるというか、感情的な部分で不器用と
いうかなんていうか」
「それならもう一度俺の方で面接しましょう、
この前はすみません、熱出しちゃって代わりに
面接受けてもらって」
「いいよ、いいよ、小難しい事務作業なんかは
弟がやってるし、こんな事位しか、私が出来ること無いから」
「それでも有難いですよ」
「それじゃ、頑張れよ雇われ店長!!」
「分かりましたよ三上オーナー」
こうして美人で気さくなオーナー三上 花生と別れ、雇われ店長成島 正敬は仕事へと戻っていった。
遡ること二年半前、グリースという異世界で戦争が起きた。
天使より授かりし権能の力を持つ勇者と仲間、
そしておよそ五十万もの軍勢が、
悪魔王サタンと四天王に攻めていた。
しかし、悪魔王サタンの一撃により軍勢は破壊、
残った勇者一行が四天王を討ち果たし、
悪魔王サタンと相対する。
サタンと勇者一行の戦闘は激化する一途を辿り
お互いが足を止める。
「何故、我を滅ぼさんとする勇者ユーリィよ」
「事の発端は魔王、貴方が王都にある神聖教会を
襲撃し、それは未遂で終えたが王都を爆発したり
周辺の村々を焼き払い、魔物に人間を襲わせ、
私のお父さんとあ母さんも殺したせいでしょう!!」
「そんな事は知らん」
「魔おぉぉぉぉぉう!!!!!」
勇者は蹴り飛び斬り掛かるが難無く避ける魔王、
しかし、勇者一行の神官が信仰によって得られる神興力による祈祷術で一瞬動きを封じ、
魔王サタンはその隙を着かれ勇者に致命的な傷を
負わされてしまう。
最後の魔力を振り絞りグリースと他世界を繋ぐ
ゲートを開き、
「いつか我、戻る時まで偽りの平和を恐れながら
過ごすが良い」そんな口上を言って逃げる魔王を
勇者は迷い無く追うと、直ぐ様ゲートは閉じるのだった。
(ここは?どこだ、くっ勇者ユーリィに受けた
傷が思ったより深いようだ、何処か治療が受けら………)
「きゃー!!!」
「おいっ、どうしたんだ」
「血、血だらけで倒れてる人が」
「とりあえず救急車だ、救急車を誰か読んでくれ!!」
がやがや、がやがやと日中の駅から少し離れた
ビル街で騒ぎが起こりだす、そりゃあ血だらけの
男が倒れていたら当たり前だろう。
(んっ、また見知らぬ場所だ)
白装束を纏った男が話し掛けてくる。
「君、身分証明書とか持ってない?」
「何を言っているのだ?貴様っと癖で魔王喋りが
出ちまった」
「ん?英語じゃ無いみたいだけど言葉通じてる?
困ったな…」
(言葉が通じていないか、仕方ない、残り少ない
魔力を使ってこの男の記憶を読み取るか)
(この男の記憶からすると、さっきから言っていたのは、身分証明書という身分を証明する物って
そのまんまだな、それとこの場所は公共の医療機関で
男はそこで働く医者だと、日本語も理解したし喋って
みるか)
「あぁー、あの?」
「何だ日本語喋れるじゃない、であるの?」
「身分証明書は無いですね」
「じゃあ戸籍は?」
「戸籍も無いですね」
「困ったな、うちは慈善団体じゃ無いからお金取らなくちゃならないんだけど、しょうが無い
今回は私が負担しとくからね、返してくれるなら有難いけど、無理でも今回限りだから」
「すみません、ありがとうございます」
「そういえば名前は?」
「えっーと成島、成島 正敬です」
「随分日本的な名前だね」
「あ、はい実は母が日本人でして」
「そうなの、それとね明日には帰って貰って大丈夫だから」
「分かりました」
(取り敢えず戸籍を取得して、家を借りて、
仕事を探さないと、あの医者には悪いが
お金を返すとしても相当先になりそうだ)
(そういや医者の記憶で見えた俺は、
黒髪ショートに、金眼で顔立ちは前よりも良いな
筋肉質ではあるが細身の体に、背も176cm位は
あるんじゃないか?全体的に綺麗な体だ
今日は色々あったな、疲れた寝よ)
翌日、病院を出た魔王はそこら辺のチンピラを
ボコして手に入れたお金で戸籍を作り、
不動産屋を周り、一番安いアパートを借りて
アルバイトを探す。
六畳一間で風呂付き、トイレ付きのいわく付きな
部屋でひもじい生活をしながらアルバイトを
転々として行く日々を半年………
「もう、やってられか〜!!!!!」
「くそっまともな収入源もありゃしないし、
その上バイトは一週間で終わる」
「あぁ〜」
「んぅ〜ん?」
「あぁ〜!」
「どうしたものか」
「あぁ〜!!」
「んっ?そこの君」
「あぁ〜!!!って俺ですか?」
「そうだよ、コンビニのアルバイトを探してるん
だけど君、どうだい?」
「コンビニの名前は?」
「ミニズ・トップだけど」
「立地は?」
「ここなんだけど」
(朝から深夜まで人通りが多く、かつ周囲や
一番近い駅との間や近くに他店が存在しない)
「喜んでアルバイトさせていただきます!!」キラッ
「お、おう」
「それで商品の発注と陳列、他のバイトの人と
何時から開店するんですか?」
「明日から」
「え、」
「君以外のバイトは居ない」
「は?えっと聞き間違いだと思うんですが…」
「開店は明日からだし、君以外のバイトは居ない!!」
「oh......Jesus」
パンッと自分の頬を叩き気合いを入れる魔王。
「仕方ない、それじゃ今からレジの扱いと
接客の練習に、清掃と他の対応もやっておきましょ」
「えっと今更言うのも何だが、本当にアルバイトを受けてくれるのか?」
「やりますよアルバイト、さっき丁度アルバイトが無くなったところですから」
「それじゃあ明日は貴方も接客とか色々して貰わないと困りますから今から一緒に店行って練習しますよ」
「そうだなっと、今まで自己紹介していなかったな、私は君を雇うミニズ・トップ東京都明央町店オーナーの三上 花生だ、宜しく」
「俺は成島 正敬です、こちらこそ宜しくお願いします」
そしてこれから二人共、家に帰る日が一週間に一回
あれば良い程に忙しい日々を一年間送る事になった。