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Tune the Rainbow  作者: Grimgerde
8/10

【R-15】「FIVE senses」Smell&Hearing『わたしのすきなひと』

露骨な性描写はありませんが一応【R-15】指定にさせていただきました。

「もうやだ!!寿城と別れる!!!!」


開口一番、蓮美の言葉に零韻と羊は「ほぅ」と眉をひそめる。


「どうしたの、浮気されたの?」と羊。

「大学の後輩でいい子がいる。紹介しよう」とにべもない零韻。

そんな幼馴染の反応に、蓮美はうわーんとテーブルに突っ伏す。


蓮美から「どうしても聞いて欲しい話があるの!!(*꒦ິ⌓꒦ີ)」とLINEで泣きつかれ、

三人でいつも利用している喫茶店に集合したと思ったらコレだ。

「泣いてちゃ分からないでしょ…っていうか何回目よ」

「もう5回目だもん!!!」

「付き合い始めて半年で5回はキッツイな」

「でしょ?!でしょお?!」

「もぉやだぁーーー!!」と泣きわめく蓮美に羊が人差し指を立てて「シーッ」と窘める。

「んー、でもまぁ仕事なら仕方ないんじゃない?寿城の場合、人命がかかってるんだしさぁ」

羊の言葉に嗚咽混じりに「分かってるもん」と返す蓮美。

「分かってるもん…海保のお仕事がそういうお仕事だって…

でも…でも…12回中5回もデートの最中に出航命令がかかって予約していたお店、

全部キャンセルになっちゃったんだよ?!ひどくない??」

「それはフォローのしようがないな」

と、大きく溜め息をつく零韻。

おそらく寿城のことだ。

出航命令が出た埋め合わせをしようとして蓮美の為に色々と考えレストラン等を予約したのだろう。

その度に出航命令が出て目の前でドタキャンせざるを得なかったに違いない。

付け加えて一度出航すると航行任務で10日から二週間は陸に上がることはできない。

一回のデートに割ける時間は非常に貴重なものとなる。


海上保安庁の潜水士とはそういった職業だ。


巡視船艇乗組員等の中から選抜され、厳しい潜水研修を受けた後、

転覆船、沈没船からの要救助者の救出や海上の行方不明者の潜水捜索等を行い、

時には海外からの飛翔体や密猟者・密航者に対しても出航命令が出れば

恋人とデート中だろうが、家族と食事していようが出航せざるを得ない公務員だ。

それが寿城の選んだ道なのだ。

海洋アトラクションパーク・イマジンシーでドルフィントレーナーとして働き、

潜水士の資格を持っている蓮美に、その大変さはよくわかる。

いや、自分が想像している以上に過酷な仕事なのだろうと思う。

何せ人命がかかっているのだ。

殉職する潜水士がゼロではない事も知っている。

だからデートをキャンセルされた事以上に寿城の身が心配でならない。

「待ってるだけの身としては、デートすっぽかされた上に、

無事に帰ってくるかどうか心配で仕方ないわよね…」

と、優雅にレモンスカッシュをストローでちゅるると吸う羊だが、

羊とて幼馴染である寿城を心配していないわけではない。

それは零韻も同じだ。幼い頃は喧嘩友達だった零韻と寿城だ。

それなりに心配もするし、できれば蓮美をこんな風に心配させないでやって欲しいとも思う。

「この前はねっ、付き合い始めて5か月のお祝いでねっ、喫茶店のケーキでお祝いしようって話だったの!

でもっ、お仕事入っちゃってダメになっちゃって!

その埋め合わせは半年目こそちゃんとお祝いしようねって、

行きたかったイタリアンレストラン予約してたのに…してたのに!!

今日だってデートする予定だったのに直前で出航命令が出たらしくってキャンセル!!!

もおやだーーーーーー!!!!!」

駄々っ子のように泣きわめく蓮美を羊がヨシヨシとなだめながら、

零韻が「すみません、この子に桃とラベンダーのパフェをお願いします」とすかさず注文を入れる。

「…パフェ?」

と蓮美がのろのろと反応する。

「私と羊からの奢りだ。色々聞いてあげるからどんどん食べてどんどん話すといい」

スンッと鼻をすすり、蓮美が「零韻が天使に見える…」とぼそりとつぶやく。

あまり体重が増えるとイルカショーの時にイルカたちに申し訳ないなぁと思っていたが、

「こちら桃とラベンダーのパフェになります」と実物がやってくると欲望には逆らえない。

何より愚痴を聞いてもらいたかったのも事実だし、蓮美は「悪いのは寿城だもん!」と精いっぱいの言い訳をして山盛りのパフェに手を伸ばすのだった。



あれから1時間半に渡って零韻と羊にガッツリ話を聞いてもらった。

ただでさえ会えないのだから毎月お祝いくらいしたいとか、もっと一緒にいる時間が欲しいとか。

それに将来のことだって。

寿城はどう考えているか分からないが、蓮美としては幼少期から大好きだった寿城とやっと彼氏彼女の関係になれたのだ。

その先の未来を思わず想像して嬉し恥ずかしい思いだって何度かしたことがある。

羊と月翔夫婦のイチャつきっぷりを聞かされからはなおさらだ。

(寿城にとって私は…彼女止まり、なのかな…

それともまだまだ結婚なんて、私が浮かれてるだけなのかな…)

とぼとぼと夕陽が沈む帰り道で、一人くすんと鼻をすする。

蓮美21歳。寿城22歳。

年齢時にはいつでも結婚できなくはない。

とはいえ自分はドルフィントレーナーの実習が終わったばかりの新米で収入もそんなに高くない。

そもそも結婚資金があるわけもなく、結婚式は挙げたいと思っている蓮美としてはすぐにの結婚となるとかなりハードルが高い。

小児科医の月翔と、雑誌の専属モデルである羊たちの収入と比べても、思わず頭を抱えてしまう。

比べる対象がおかしいといえばおかしいが。

お金がすべてではないが、結婚して共同生活を送るとなると欠かせない問題になってくる。

(そういえば寿城とこんな話、したことないや…)

と、アパートの3階の階段を上りながらぼんやりと考える。

高校を卒業して4年間、すれ違いが重なってまったく会えなかった二人が、

恋人として新たな関係を始めて半年。

その半年もお互いの仕事の関係で会えるのは月に2.3回程度。

寂しくないはずがない。

10月も上旬、そろそろ寒くなってきて人肌恋しい季節だ。

そこで蓮美ははた、と気づく。

(私と寿城って…再会した日以来、えっちできてない…?!)

だいたいは外のデートだったし、お互いのアパートを行き来しているはずなのだが、

そんなときに限って大抵寿城の任務が入って呼び出しを食らうのだった。

(やっぱり…やっぱり寿城が悪いーーーーーーーーーーー!!!)

半分ヤケクソで自宅の鍵を開ける。

部屋に入ると、いつも通りの一人の部屋。

寿城の部屋に行くたびに「…おかえり」と照れ臭そうに呟く寿城を思い出す。

もう何ヶ月も「おかえり」を聞いていないように感じる。

そう思うとじわっと蓮美の目に涙が浮かんだ。

(寂しくなんかないもん!寿城なんていなくったって平気だもんーー!!!!)

涙をシャワーで流して、夕食を作る。冷蔵庫を探ると、牛肉のパックが出てきた。

寿城の大好きな肉じゃがを作ろうと思って買っておいたっけ…。

手にした牛肉のパックにポタリと涙が落ちた。

「あっ…」 拭おうとして、どんどん溢れてくる涙に、蓮美は自分で驚いた。

「平気、だもん…寿城なんて、いなくたって…いなく、ても…!」

自分でもわかっていた。ただの強がりなんだと。

「でも…だって…今ここに居ない人をどうしようもないじゃん…!」

言いたくなかった言葉が唇から漏れた。

口に出してしまうと、もう二度と寿城に会えないような気がして。

一言言ってしまうと、自分の想いに翻弄されてしまいそうな気がして。

「うっ……ううっ…うーーーーーーーーーーーーーーっ…!!!」

声を押し殺し、蓮美は泣いた。

寿城に会いたくて会いたくて仕方がなかった。

会って声が聞きたい。抱きしめたい。手に触れたい。キスしたい。


と。


ピンポーーーン。


突然鳴り響いた玄関のチャイムに、蓮美は心臓が飛び出るような思いがした。

ちらりと時計を見ると20時過ぎ。

訪問販売にしては少し時間が遅いのではないだろうか。

泣いてべしょべしょの顔で出るのも嫌だったし無視しようとすると立て続けにピンポンピンポンとチャイムを鳴らされる。

(えっ…やだ…怖い…?!)

スマホを片手に、いつでも110番できるように準備してから玄関へと向かう。

「ど…どちら様?」

震えそうな声を張り上げて問いかける。

「……俺…。寿城」

数秒の沈黙の後、聞きなれた声が扉越しに聞こえてきた。

蓮美の目が驚きで見開かれる。

聞きたくて、恋しくて仕方がなかった声。

スマホをポケットに入れ震える手でカチャリと鍵を開け、そぉっと玄関ドアを開ける。

走ってきたのか、息も荒く肩をやや上下させ、頬を紅潮させた寿城がそこにいた。

「…とし、き…」

蓮美はそう口にするのがやっとだった。

今日出航命令が出たばかりで、次に会えるのは二週間後だと思っていたのに。

「お仕事なんじゃ…」

「理由は話すよ…その…入ってもいいか」

玄関先ではご近所さんの目が気になる。

蓮美は慌てて寿城を玄関口に入れて扉を閉めた。

が。

寿城は玄関口に突っ立ったまま部屋に入ろうとしない。

「…寿城?」

「ごめん」

突然謝られ、蓮美は驚いて寿城を見上げる。

よく見ると海保のネイビーの制服に黒のマウンテンパーカーを羽織ってきただけのようだ。

寿城の乗る巡視船たぎりが停泊している基地港から着替えもせずに電車を乗り継いで、徒歩20分はある駅からの距離を走ってきたのだろう。

それだけで蓮美は鼻の奥がツンとなった。

「いつも…ホントごめん。それで…同僚が代わってくれたんだよ。

それに…あしたは、誕生日だから」

「誕生日?」

「蓮美の誕生日だから。彼女の誕生日くらい、一緒にいたい。

だから…休みと外泊許可、もぎ取ってきた」

出航命令があれば是が非でも出動しなければならないのが海上保安官だが、

公務員である為有給休暇が存在するし、返上した休日分は別の日に取る事も可能である。

寿城の場合、見かねた同僚の潜水士が出勤を代わってくれたのだ。

あまりの突然日のことに蓮美は言葉が出ない。

だって、今頃寿城は海の上で、今ここにいるはずがなくて。

きっと私の事なんてどうでもよくって、誕生日なんて忘れちゃってるに違いなくて。

なのに、どうして目の前で立って話して、声が聞けてるの?

つぅっと蓮美の右目から涙が零れた。

「…蓮美」

驚いたような、それでも労わるような優しい声。

ずっと聞きたかった大好きな声。

手を伸ばし、蓮美は寿城に抱きついた。寿城の胸に顔を埋め、その存在をしっかりと確かめる。

「うわぁああああああん!!寿城!!寿城ーーーーーー!!!!」

我慢していたものが全部堰を切ってあふれ出した。

寂しいのも、辛いのも、意地を張っていたものも、全部全部。

「馬鹿ーーー!!なんでいきなり来るのよぉーーーー!!!」

「ごめん。少しでも早く会いたくて」

「当たり前よぉーーーー!!寂しかったんだからぁーーー!!ずっとずっと寂しかったんだからぁーーーー!!」

「うん。だよな、ごめん」

寿城の両腕にあやすように抱きしめられ、大きな右手が優しく蓮美の頭を撫でる。

「…オイルの匂い…?」

「悪い。制服のまんまだったから…」

両手を上げ、離れようとする寿城を、蓮美は離さなかった。

しがみつき、寿城の顔に唇を寄せ無理やりキスをする。

ぶわっと、蓮美の甘い香りが寿城の鼻に飛び込んできた。

蓮美と会う時、いつも感じている香りだ。

シャンプーや香水の香りではない。

体臭に似ているが…違う。

もっと希薄で、それていて濃密で清廉な、澄んだ香り。

自分にしか感じることができない香りに、寿城は一瞬くらりと眩暈を感じた。

触れた唇が抗い難い微熱を帯び、寿城はもう一度蓮美を抱きしめる。

唇が離れまろやかな感触がして、蓮美の双丘が寿城の胸の上に押し付けられる。

思わずごくりと寿城の喉が鳴る。

蓮美も、久しぶりに抱きしめられた感触に頬が紅潮するのを感じた。

「…蓮美。その…嫌なら、言ってくれ…」

耳元で熱っぽく囁かれ、蓮美は自分の心臓の鼓動がどきりと跳ね上がるのを感じた。

「…今晩…その…泊っていってもいいか?」

顔を上げ、寿城と目を合わせる。

「…うん。来て、寿城。いっぱい、いっぱい抱っこして」

そう呟きながら、蓮美と寿城はもう一度唇を重ねた。




辺りはまだ暗い。何時だろうか?

干上がるような喉の乾きを感じて蓮美は目を覚ました。

隣では寿城が小さく寝息を立てて寝ている。

そのむき出しの肩にそっと布団をかけてやり、蓮美は寿城を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出す。

「うっ…寒い…」

10月上旬とはいえ、まだまだ暑さが続く関東地方では、夜でもエアコンが欠かせない。

蓮美の部屋も例外ではなく、また何度も睦み合ったこともあり、エアコンを全開にしていた。

蓮美は裸体にモロに冷風を食らい、慌てて手近にあった寿城のシャツを羽織りエアコンを弱める。

(彼シャツだ…)

大きすぎる男物のシャツは細身の蓮美の身体のお尻まですっぽりと隠す。

初めての彼シャツに、蓮美は喜々として台所に向かった。

冷蔵庫から常備している麦茶を取り出しグラスに注ぐ。

透明感あるピンクのグラスは、同じく透明感あるブルーのグラスとセットで、寿城とお揃いだ。

蓮美の部屋にある、唯一のお揃いの品だった。

麦茶で軽く喉を潤し、蓮美は静かにシャツを脱ぎベッドに滑り込む。

小さくあくびをし、再び微睡もうとした瞬間。


ピピピピ…


何かのアラームが小さく鳴った。

すると布団の中から太い腕が伸び、寿城が枕元の自分のスマホを手に取る。

迷彩色のスマホカバーに守られた無骨なスマホを探るとアラームが止み、全身を伸ばして寿城があくびをする。

「悪ぃ。起こしたか」

「ううん。私のほうも喉が渇いて起きたところだったから」

寿城はそう微笑む蓮美を抱き寄せ、優しく口づける。

「誕生日おめでとう、蓮美。ちょうど起きててよかったよ」

「えっ…もしかしてその為にアラームかけてたの?」

「お前の事起こすかもって思ったんだけど、どうしても日付が変わったのと同時に言いたくてさ…」

ちょっと照れ臭そうに笑う寿城の気遣いに、蓮美は嬉しくなってもう一度口づけする。

「ありがとう。とっても嬉しい…今日はもうそれだけでいいような気がする」

「デートの約束しただろ?」

「ううん…いつお仕事入るか分からないもん…

今日はもうずっとこうしてたい…ずっと、寿城の『音』を聴いてたい…

寿城だって、できればずっとこうしたいって思ってる…でしょ?」

素肌の胸板にぴったりと寄り添い、蓮美はその『音』に集中する。

蓮美は独特の聴覚を持っている。

生物の呼吸音、心音、血流の音、そして相手に密着することによってシナプスが弾ける音まで聴くことができるという。

その超越した聴力で、相手の思考が読み取れる時もあるらしい。

幼少期は聴きたくない不快な音まで聞こえたり、どうして自分だけがこんなに異常に耳がいいのか悩まされたが、同じくして人とは違うものが視える零韻や他人に触れることで様々な情報を読み取ってしまう月翔たちと励まし合って、ようやく自分でコントロールできるようになったのだ。

今ではだいたい半径50cm以内の人間の『音』であれば、その人間の表情から読み取れない考えがぼんやりと分かるという。

「あ、あの人笑ってるけど内心機嫌悪そう」とか「あの人、ムッツリしてるけど実は何かいい事あったのかな」とか。

蓮美は寿城の体音を聴くのが大好きだった。

「休みもらってきたから、今日はもう出動はねぇよ…今頃たぎりは太平洋の上だ」

言いながら寿城はもう一度蓮美を抱きしめる。

甘酸っぱい空気の中、何度身体を重ねただろう。

それでも物足りなく感じてしまう。今まで会えない時間のほうが多かったのだから仕方がない。

心までも蕩けそうな快楽を感じて、どうしようもなく翻弄されて、性に飢えた獣のように身体を動かして―まだ何かが足りないのだ。

身体だけでは駄目なのだ。

言っていいのだろうか。

寿城は迷った。

が、その迷いは体内の微細な音が乱れすぐに蓮美に伝わる。

「…何か、考えてる?」

「え。ああ…えっと…」

歯切れの悪い寿城に蓮美は首を傾げる。

「私との事?」

蓮美には隠し事ができないと観念し寿城はぼそりと呟く。

「………ん」

「えっ?」

「…………結婚のこと、とか」

予期せぬ言葉に、蓮美は声を失う。

もしかしたら私、オットセイのしぃ君よりも間抜けな顔をしているかもしれないわ。

ふいにそんな事が浮かぶ。

それほど驚いたし……驚くしかなかった。

「いや、もちろんすぐってわけじゃなくて…俺なんてまだ新米で給料も少ないし、

もっと昇進してからだって思ってる…最近はずっとデートもすっぽかしてて、

付き合いだして半年のお祝いもできなくて…その…でも、ずっと、お前と一緒にいたいんだ。

もっと、お前と一緒に過ごせる時間が欲しくて。

俺のアパートからお前のアパートを行き来する時間ももったいないし…

ああクソッ…まとまらねぇな…」

暗がりでも、寿城の頬が赤くなっているのが分かるようだった。

「好きだ、蓮美。これからも…ずっと一緒にいたい」

いつもの、どこか恥ずかしそうにはにかんだ顔。

ぶっきらぼうでいつも蔵人と競い合っているが、根は純粋で、

幼い頃からいつも自分の手を握っていてくれた優しい人。

それが蓮美の大好きな寿城だった。

そしてその大好きな人は、ちゃんと自分との事を考えてくれていた。

今現在のことだけじゃない。遠くない未来のことだって。

泣いてヤケを起こしていた自分が恥ずかしくなった。

寿城が選んだ選択に一緒に、隣で歩んでいきたいと思った。

ちょっと、焦り過ぎていたのかもしれない。

自分だってまだまだ未熟だ。

人間的にも、恋愛経験も。相手を愛する、ということに関しても。

もしかしたらまだその境地に至っていないのかもしれない。

信じて待つべし。

今はきっとその時期なのだろう。

蓮美は甘えるように寿城の胸板に何度も口づけした。

「大好きよ、寿城。私の大切な、大好きな人」

寿城の体温に包まれて、蓮美はもう一度目を閉じるのだった。

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