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#04 勇気の試練

パワポはパワプロとは別物。

 次は赤い光の部屋だ。

 うーむ、目に悪い。


『ここはあなたと、あなたのゴブリンの勇気を見るための試練です』


 おっ、どうやらこの試練では、ついに俺も参加するみたいだ。


「望むところです!」

『頼もしい限りです。期待していますよ、挑戦者さ……』

「レイジです。レイジ・マクスガム。それが俺の名前です」


 前から自己紹介してなかったな~と思ってはいたので、ようやくここで俺は女神ルーヒューに自己紹介した。


『レイジさん。この試練を超えれば、餓鬼の道具、――あなた方がゴブリン装備と呼ぶモノはあなたとあなたのゴブリンの物です』


 女神ルーヒューは、そう言うとキラキラと光を放ちながら天井から降りてきた。


「こうして顔を見せるのは、なかなか慣れませんが。とにかく私がルーヒューです」


 ▽


 女神ルーヒュー。

 純白の外套、天使の羽根、そしてさらっさらの肩まで金髪。


 ほとんど女神ホワイトルに瓜二つだ。


「あの、女神ホワイトルをご存知ですか?」


 俺は思わず、そう聞かずにいられなかった。


「いえ。女神は元々、一人の神格を得た女性から分かれた存在。ですからその姿が別の女神に似ていても不思議はありません」

「そうですか」


 そして女神ルーヒューは自らの右手に翼の杖の大きいバージョンみたいな杖を出した。


「あなたたちへの最終試練。……それは私を捕まえることです!」


 そして杖をかざした途端、女神の背中の羽根がとんでもなく大きくなった。


 女神ルーヒューはふわりと宙に舞うと、他の試練部屋より広めの室内を優雅に舞い始めたのだ。


 ▽


「そんな高く飛ばれちゃあ無理難題ですよ!」


 どう考えても届かないほど、女神は高い所を飛んでいた。


「捕まえてごらんなさい」


 カップルなら嬉しいであろうセリフも今のシチュエーションでは、ちっとも嬉しくない。


 彼氏ではないからだ。


「はあ。とりあえずゴブぞう、よろしく」

「〈ウナギ食いてえ〉」


 ゴブぞうは空を舞う女神ごときに動じはしない。なぜならウナギ食いてえからだ。


「捕まえてごらんなさーい」


 心なしか女神が調子に乗っている感は否めないが、ゴブぞうはそれでも動じない。


 なぜなら、ウナギ食いてえからだ。


 ▽


 ただ、ゴブぞうがいくら空飛ぶ女神に動じないからって何も解決してはいない。


 特に捕まえるためのヒントが出されるでもなく、女神はとっても上機嫌で空を飛んでいる。


「くっ。一体、どうすれば女神に近付けるんだ」

「〈ウナギ食いてえ〉」

「それは分かったから、たまには何かを考えてくれ……」


 せっかくここまで来てゴブリン装備が手に入らないのがイヤな俺は、ついつい大人げない態度をゴブぞうに取ってしまったのだ。


「〈ウナギ食いてえ!〉」


 なんと、ゴブぞうが【書】に帰ってしまった。


「えっ、そんな。おい、おいゴブぞう?」

『あーあ。ご主人様、らしくない行動をするから。ゴブリンは見た目よりデリケートなんですぜ?』


 ▽


 さらに【書】にまで怒られてしまった。

 そんなに俺、悪いことしたかなあ?


「仕方ない。ゴブミーだ、ゴブミーを呼んでくれ」

『ご主人様……アンタ、変わっちまったな!』


 こんなに【書】に怒鳴られて、俺は初めて何か大切なことを忘れていることに気付いた。


「ご、ごめん」

『ごめんで済んだらゴブリンはいらないんですよ。アンタ、本気で反省してんのかよ?』

「してる、めちゃくちゃ反省してるよ俺。だからこの通りだ。やっぱりゴブぞうを呼んでくれ。頼む!」


 俺はおそらく、人類で初めて魔導書に土下座した男だろう。

 そう。俺は【魔物の書】に土下座したのだ。


『ま、待ってくださいよレイジさん。それじゃ俺様が悪者じゃん』


 ▽


 レイジさん。

 今までは俺をご主人様と呼んでいた【書】は、俺の人としてのランクを数段、低くしたらしかった。


「ご、ごめん」

『はあ。今まで俺様も【書】の中の魔物たちも、言いたいことをどれだけ我慢してきたか分かってないから、謝れば済むなんて簡単に思えるんですぜ?』

「えっ。そんなに俺ってひどかったのかよ」


 全く気付かなかった。

 なんなら俺には人より魔物の気持ちが分かっていて、みんな俺に着いて来てくれているとさえ思っていた。


『もう帰りましょう。今のアンタに必要なのはゴブリン装備じゃない。もっとその手前にある、魔物をいたわる心だ』

「俺は、……俺は……」


 急に目の前が真っ暗になった気がした。

 実際、俺はショックのあまり土下座の姿勢から、気を失ってしまったのだ。


 ▽


 しばらく俺は、現実と妄想の狭間みたいなところにいた。


(何がなんだか分からない。何もかもに見放された気分だ)


 でも仕方ないような気もした。

 思えばDランク冒険者に過ぎなかった俺が勇者のパーティーに入り、追放されたら今度は幼女の女神にテイマー職をさせてもらうなんて虫が良すぎたのだ。


(は、はは。作家時代と一緒。全てがたまたまで成り立っていて、俺は今までたまたまそれを見逃してもらっていただけなんだな)


『レイジさん、何してんすか。気が利かない上に情けなく気絶って何すか?』


 何か【書】が言って来ても、俺は聞こえないふりをした。


『へい、兄ちゃん。ちょっと不死だからって怠けてるからそうなるんだろ!』


 俺は聞こえないふりを続けた。


 ▽


 しばらくそうやって朦朧としながら混乱もしていた俺だったが、ようやく意識がしっかりしてきた。


「ぷっ。ダメテイマーさん、お帰りなさい」


 女神ルーヒューも、何の遠慮もなく俺を嘲笑った。


「……」


 俺は何も言い返さない。

 言い返すような言葉は、俺にないからだ。


『レイジさん。で、どうします?』


 間髪入れずに、【書】は俺に質問してきた。

 どうする、とは試練を続けるか、放棄するかということだろう。


「続けるに決まってるだろ!」


 俺はついに空回りを始めた。

 そりゃそうだ。だって俺は結局、餓死した昆布太郎だから。


 ▽


『じゃあ、来ないとは思いますけど一応は呼びますよ。ゴブぞうをね』


 そう言うと【書】はゴブぞうを呼んだ。

 いや、正確には呼んだがやはり来ないらしい。


「なんだよお」


 俺はもう繕う事も勘違いする事もなく昆布太郎全開の、間抜けなリアクションに甘んじた。


「来てもいいじゃんよお」

『くくーっ。あれ、レイジさんってそんなキャラでしたっけ?』


 別に笑われてもいい。

 レイジ・マクスガムじゃねえし、昆布太郎だし。俺、不死イケメンになっただけの昆布太郎だし。


「来い来い来い、ゴブぞう~、来い来い!」

『ぷすー。いやいや、急になんなんすかレイジさん。吹っ切れすぎですよ』


 ▽


 あれ、なんだろう。

 昆布太郎でいいやって思えてきたら、自然体になれた気がする。


「来い来い来いよお」


 そうなのか。

 自然体なんて餓死するまでは言葉でしか分かってなかったけど、自然体ってきっとこういう事だ。


「いつまでも待てるぞ俺は。俺はいつまでも待てるぞ」


 それに、繕って謝るよりずっと【書】が俺を許してくれた感じがする。

 遥か昔、クソガキだった俺が学校の友だちとケンカして仲直りしたときみたいに……。


「お前は強い、強い強いお前が好きだ。愛してるチュッ」

「〈ウナギ食いてえ!〉」


 なんか変なタイミングでゴブぞうが出てきて、俺ほんのり恥ずかしいの巻。


 ▽


「ふう。よし、ゴブぞうくんね、あの美しいお姉さんがウナギおごってくれるから頑張って捕まえる方法を考えようねえ」

「〈ウナギ、ウナギ〉」


 よし、もうね、ゴブぞうが動いてくれさえすればとりあえずオッケーだよね?


「〈ウナギ食いてえ〉」

「ふ、ふふ。レイジさん……?」


 女神ルーヒューも対応に困り出したぞ。

 あわよくばそこに一筋の光明あれ!


 でも女神なだけあり、秒で表情が女神に戻った。


「よし、じゃあもうゴブぞう。俺より腕力あるお前が俺を女神に投げつけてくれ」

「〈ウナギ食いてえ〉」


 ウナギ食いてえゴブぞうは、俺を担いだ。

 そして何のためらいもなく女神に俺を投げた。


「うおおおお」

「あひゃーー」


 俺は女神にハグするというドキドキする展開と共に、試練をクリアした。

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