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#02 知恵を示すために

フランシスコ・ザビエルの頭を1分間見つめてほしい。

 第一の試練を突破した俺は、青々とした光に照らされた部屋に辿り着いた。


 どうやらここが第二の試練の場所のようだ。


 俺が部屋に入ると、入り口にまた結界が張られて通れなくなった。


 ふと俺は「詰んだら、どうやって出るんだろう」と思ったが、そうなったら【書】にでも聞けばいいやと思い直した。


 それからしばらくは真っ青な景色を楽しんでいた俺だが、試練の内容が書かれた石板が見当たらない。


 すると今度は石板に指示が書かれているのではなく、声が聞こえてきた。


『私は試練の女神ルーヒュー。汝、餓鬼の道具を求めし魔物師か?』

「えっ。まあ、そうっす」

『……まあ、良い。では汝に試練を与える。一に三を加え、六にせよ』


 そこで声は終わった。


「一に三を加え、六にする?」


 俺は試練の女神と名乗る声の言葉を、そっくりそのまま繰り返した。


 わけが分からない。

 一に三を加えたら、一たす三だから四だ。


「仕方ない。【書】に聞くか」


 俺は【書】を呼び出した。


 ▽


『いや、俺様も四になると思いますがね。その試練の女神とかいうヤツがとんでもなくアホなんじゃねえです?』

「おいおい。でも、そうなのかな?」


 だとしたら、この試練はそもそも無効なのでさっさと次に進ませてほしいものだ。


「おーい、試練の女神様。答えはナシ。問題の出し間違えだ」


 すると女神ルーヒューの声が聞こえてきた。


『そうではありません。正しい答えはあります。しっかり答えを考えてくださいね』

「そ、そんなあ」


 俺の不満をよそに、女神ルーヒューの声は聞こえなくなってしまった。


「おい、【書】よ。答えがあるらしいから、お前も少しは考えてくれ」

『えー。俺様が試練の結果に直結するレベルの手助けをするのは、なんか違わないですかね?』

「ご主人様呼ばわりする割には、結構、非協力的じゃん!」


 ▽


 それでも【書】はゴネ続け、妥協点として【書】の中の魔物に聞くという選択肢を提案した。


『ご主人様。実は会話だけなら、召喚しなくても出来ますぜ』

「えっ、どういうこと?」


 よく分からないので、俺は試しにゴブぞうと会話だけしてみることにした。


「もしもし。ゴブぞうか?」

『〈ウナギ食いてえ〉』


 どうやら【書】にゴブぞうの人格が宿ったらしく、【書】の見開きいっぱいにゴブリンの顔と「ゴブぞう会話中」の文字が表示された。


 なんだかテレビ電話みたいだ。

 ゴブぞうのわずかな表情の変化が、余計にそんな印象を俺に与えた。


「ゴブぞう。一に三を加えて六にしてくれ」

『〈ウナギなら、そうなる〉』

「いや、多分だけどならねえよ!」


 ▽


 だがそこで俺は、はたと考え直した。


(待てよ、もしかして……)


 思う所がある俺は「ルーヒューさん、分かりました!」とルーヒューを呼び出した。


『はい、ではお答えください』

「ウナギです。ウナギを包丁で切っていくと、一切れ、二切れと分かれていきますよね。つまりウナギなら、一匹のウナギを三切れに切り分ければ一が三となり、他に三切れを加えれば六切れになります!」

『……』


 女神ルーヒューは黙ってしまった。

 あれ? なんか俺、間違えたか?


『それはそれで正解です』

「えっ。や、やったあ!」


 言い方が引っ掛かるが、どうやら正解っぽいみたいだ。


「じゃあ、次の試練への道を開けてください」

『それは、なりません』

「えっ、話が違わないですか?」


 どうやら女神ルーヒューが用意した答えでないと、先へは進ませてくれないみたいだ。


「えー、めんどくさ」

『そ、そう言わないでください。発想はもっと簡単なので……』


 ▽


 こうして、俺と不可抗力との戦いの火蓋が切って落とされた。


「はあ、仕方ないな。じゃあ【書】よ。今度はゴブミーを呼んで」

『〈ふぐが食べたいの〉』


 ゴブミーは、クイズとかなぞなぞが大好きらしい。


「なるほど。この試練がそういう系のヤツなら、お前に向いてるってことになるな」

『〈はい。ですから、ふぐをください〉』

「えっ。ごめん、今はちょっとそれどころじゃ……」


 露骨にゴブミーががっかりした顔が【書】の見開きいっぱいに表示された。


 どんだけ好きなんだよ、ふぐ!


「う、じゃあいつかは食べさせてあげるけど、今はクイズに集中してくれ」

『〈分かりました。ふぐのために頑張ります〉』


 ゴブミーって名前や言葉遣いからしてメスっぽいと俺は思っていたが、画面ごしにも可愛らしさを追求したと思われる仕草がよく見られたので多分、メスなんだろう。


 ▽


 まあ、そんなことより今は試練の時間だ。


「一に三を加えて……」

『〈あ、それは聞こえてたので大丈夫です〉』


 別に呼び出してなくても、会話という会話は【書】の中でも聞こえてくるらしい。


「じゃあ、ゴブミーの答えを聞かせてくれ」

『〈ふぐですね〉』


 お前はゴブぞうか!

 そんな感想を抱いた上に、なんとなくイヤな予感が止まらない俺である。


「ふぐがどうした?」

『〈ええ。一匹のふぐでも、包丁で切り分けていくと……〉』

「うん。それ、さっき俺がウナギで考えたのと一緒」

『〈え、ええ、まあ。ウナギだからダメという可能性は……〉』

「ない、ない」


 ゴブリンだからか分からないが、メンタルの強さが尋常じゃないと俺は思った。


 ▽


「ゴブミー。もう答えがないなら、ゴブリダルに代わるけど悔いはないか?」

『〈ま、待ってください〉』


 コイツ、ふぐのために必死なんだろうな。

 俺は意外に庶民的なゴブリンたちを結構、気に入り始めていた。


「分かった。じゃあ俺もしばらく答えを考えるから、何か閃いたらいつでも答えを聞かせてくれ」

『〈はい。ありがとうございます、ご主人様〉』


 ご主人様か、と俺は切なくなった。

 だって俺は所詮、マスターからたまたま【書】を譲り受けただけの不死チートなテイマー。


 そんな俺を【書】や魔物たちはご主人様と呼び続けてくれているんだと思うと、複雑な気分だ。


(俺が天才だったらこんなに苦労させないのに。ゴメンな、お前ら)


 ▽


『〈ご主人様、どうかしましたか?〉』


 まるで俺の思いを察したかのように、ゴブミーは俺を気遣った。


「ゴブミー、お前にとってのご主人様は俺で良いのかな。本当はマスター、つまりミュスさんが良いなら言ってくれ」

『〈そ、それは、その……〉』


 あ、やっぱりかい。

 そうだよな。ゴブぞうばっかり使って見向きもしない俺が主人では、さぞかし不満だらけだろう。


「悪かった。都合の良い時しか頼らない、ダメな魔物使いだよな。本当、俺ってそうだ。ゴブミー、戻って構わないぞ。後は俺がなんとかする」

『〈ご、ごめんなさい〉』


 ゴブミーは謝ったものの、【書】に戻っていった。

 マジか。普通はもうちょっと粘らない?


 ▽


「よ、よし。じゃあゴブリダル、応答してくれ」

『〈フカヒレが食いたいんだ〉』


 だよね。


「まあ、お前が答えを持たないならスライムとかに聞いていくんだけど、どう?」

『〈えっと、おそらくですが漢数字かと。一と三を漢数字にして、その部分部分を一本のマッチ棒に見立てます。すると、四本のマッチ棒なので、それを使って漢数字の六を作ります。こんな答えだと思いますが、いかがでしょうか?〉』

「あ、それっぽいね。ありがとう」


 漢数字はこの世界にもある。

 それを忘れていたわけではないが、どんだけ冴えてるんだよゴブリダルと思いながらも俺は女神ルーヒューを呼び出した。


「……と、こんな答えになります!」

『お見事です。知恵を示した挑戦者よ、次の試練へと進みなさい』


 お、なんか正解の判定になったぞ。

 もしかしたら別の答えだったのを大目に見てくれただけかもしれないが、とにかく俺は次の試練へと進んでいった。

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