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#01 いざ試練へ

バームクーヘンとカステラとバナナロールの生地の差みたいなモンだよ。何事もね。

 ゴブリン装備をゲットするため、俺はマスターと共に初心者の洞くつにやって来た。


 おー、いつもの洞くつだ。


 スライムがわらわらしている。

 不死の俺でなくても大してダメージはないので見ていて癒されるかもな。


(いつか、ルルエナさんと……)


 俺はルルエナさんの愛に答えないとならないからな。

 デート・スポットと呼ぶには微妙だが、ま、スライムをゴリ押ししていけばなんとかなるんじゃないか?


 ルルエナさんって、気丈そうな割に押しに弱そうだし。


「で、マスター。試練ってどこでやるんでしたっけ?」

「ふむ。多分、あれだチ」


 多分かよ。まあ、いいや。

 俺の目線の先には、下り階段があった。


 そういえば、ゴブぞう育成の時にやたらと近寄らないようにマスターにキツく言われてたんだった。


 ▽●○●○


 俺は階段を下りた。


 すると、その先にはなんとかつての仲間であるツシュルがいたのだ。


「あれっ、ツシュル。なんでAランクのお前がここに?」

「まあ、嬉しいわ。アタイをAランク魔法少女なんて言ってくれるの?」

「違うし。冒険者ランク!」

「へっ、あ、ああ。そっちね」


 俺がパーティー追放されてからも唯一まともに会話できるのは、ジルのパーティーではコイツだけだ。


「まあ、あれよ。アタイって禁じられた魔法をよく使うでしょ。実はアレってランク初期化案件でさ。だからあなたが知らないだけで、アタイはここのスーパー・スライムの魔核でAランクに毎回復帰してるってわけ」


 なるほど、よく分からん。


「まあ、アレだ。大変なんだな!」

「え、ええ。もしかしたらあなたって知力が低そうだから、意味が分からなかったらゴメンなさいね……」


 ▽


 あれ。俺、知力Dなんてツシュルに言ったかな?

 まあ、いいか。


「なんたらスライム狩り、頑張れよ!」

「うん。ありがとね」


 笑顔で手を振りながら、ツシュルは魔法で張られた結界を何らかの道具で解除した。


 どうやら下り階段に続く道の結界のようだ。

 そして、そのままツシュルは上り階段のすぐ近くにある下り階段を下りていった。


「知り合いだチか?」

「はい。ツシュルって言って、俺の仲間だった魔法使いなんです」


 仲間だったなんて、自分で言うのはなんだか情けない。

 でも本当だから仕方ないんだ。


「レイジ。強くなりたいチか?」

「えっ、マスター。急になんです?」

「れ、レイジ。パーティー追放されて悔しいとかないチか?」

「ああ、まあ、そうですね。なきにしもあらずです」


 ▽


「なきにしもあらず。そんなんじゃまだまだチ。悔しい気持ちを忘れては、人は強くなれないチ」

「いや、そうだとしても今はゴブリン装備ですし」


 うん?

 なんか今日はマスターと温度差があるな。俺が冷たすぎるのか、マスターが熱すぎるのかは分からないけどな。


「はあ。……まあ、いいチ。初心者の試練は長いけど、準備は万全チか?」


 長いの?

 聞いてない。長いなら事前に言って欲しいけどな、割に。


「万全かはよく分からないですけど、まあアレです。不死だからなんとかなるかなって気はしますよ」

「ふーん」


 聞いておいてリアクション薄いの何?


 でもとりあえず試練を始めていくしかないので、俺はゴブぞうを召喚した。


「〈ウナギ食いてえ〉」

「ウナギ食いてえな」


 ▽


 扉も何もない入り口を抜けると、魔法の結界が張られて戻れなくなった。


 マスターは取り残され、ぽつんとその場にいる。


 だがまあ、何と言っても試練だしな。

 つまり試練を出すがわとしては、一人で突破してくださいってコトなんだろう。


「マスター。俺の声は聞こえますか?」

「ふむ。特に問題ないチよ」


 良かった。

 最初の試練に関してだけは外部から助言をもらえそうだ。


 すると、正面に見える石版に試練の内容が記されていた。


 第一の試練。

 それはなんと〈ゴブリンをのべ三匹、召喚すること〉だ。


「……マスター。我々は舐められているのでしょうか?」

「ふむ、それは違うチ。初心者の試練を越えた先にあるのはゴブリン装備。だからゴブリンを召喚できるテイマーじゃないと無意味なんチよ」

「な、なるほど」


 なるほど。意外と考えられているのか。

 ただ、のべって何だっけ?


 ▽


「ゴブぞう、頼んだ」

「〈オラなら、もういるぞ〉」


 お、【書】を呼び出しておきながら、いるヤツを召喚しようとするケアレスミスをやっちまったぜ。


『ご主人様。最近、うっかりが過ぎるんじゃねえですかね?』

「いや、一度の事で言いすぎだぞ?」


 というか、【書】と会話するのって久しぶりだな。


『自慢じゃねえですが、ミュス様と共に過ごして来た俺様はミュス様に匹敵する知識の持ち主。試練につまづいたら、なんでも聞いてくだされ』


 自らそんな都合の良い存在に成り下がって大丈夫なんだろうか?


 まあ、でも人間ならともなく【書】だからな。

 人格のあるアイテムが目指すべき一つのゴールではあるのかもしれない。


 ▽


 よし、次以降はいよいよ俺としても初対面の、残り二匹のゴブリンを召喚していくぜ。


 そのために、まずゴブぞうを召喚解除した。


 のべだから、こんな要領の悪い召喚でも条件は満たしているはずだ。


「ゴブミー。来い!」


 最初に【書】の使い方を学んでいた時は必死すぎて気付かなかったが、【書】に書かれている魔物の名を呼ぶとそこから魔法陣がふわりと浮かぶ。


 そして、その魔法陣から呼んだ魔物がガチャみたいにコロリと排出されてくるのだ。


 まあ、排出というと聞こえは悪いけど、感覚としてはどうしてもあんなコロリ感が否めない。


「グリリ~」


 出てきたゴブリン、ゴブミーは、ゴブぞうと微妙に鳴き声が違う。


 あるいは、俺がゴブぞうと接する時間が長くなってきて、ゴブリンの細かな鳴き声が聞き分けられるようになったのだろうか?


 ▽


「よう。はじめまして、だよな。俺はレイジ。レイジ・マクスガムだ」


 とりあえず俺はゴブミーに自己紹介してみた。


「〈ふぐが食べたいの〉」


 自己紹介で返さねえ!

 そして、ゴブリンは総じて食の話題中心なのか?


「すまねえ。俺はそんなにリッチじゃないんだ。とりあえず、シーチキンで良いか?」

「〈ふぐのシーチキンなら食べたいの〉」


 どんだけだよ。

 グルメなのか見栄なのか知らないが、ゴブリンにしては本当、ゴブぞう並みに夢見がちだな。


「ま、まあ見つけたらな。よし、戻ってくれ」


 ゴブミーとのコミュニケーションを取りたいのはあるが、まずは試練を越えていかないとな。

 そしてゴブミーは俺の合図に従い【書】から出てきた魔法陣に吸われていった。


 ▽


「さて、あと一匹。えーと、ゴブリダル、出ろ!」


 やたらカッコいい名前のゴブリンが、俺の前に姿を現した。

 まあ、見た目はゴブぞうもゴブミーも、そしてコイツもほとんど一緒だがな。


「グロ~」


 鳴き声はやっぱり微妙に違うみたいだ。


 と、その時である。

 ゴゴゴ、と大きな音を立てて石版がはめられていた壁は動き出し、新たな道が出来たのだ。


「やったぜ!」


 とりあえずその場にいるゴブリダルと、俺はハイタッチした。


 意外と通じてハイタッチを返してくれたところで、俺は忘れそうになっていた自己紹介を始めた。


「レイジ・マクスガムだ。よろしくな!」

「〈フカヒレが食いたいんだ〉」


 別格だな!

 ウナギやふぐが可愛らしく思えてきたぞ。


 俺がレベリングしてやらなかったのは悪いけど、分相応はゴブリンだとしても教えていくべき課題なのかもな。


「よし、また何かあったら呼ぶ。これからも頼むぞ。じゃあ、戻れ」


 ゴブリダルもまた、【書】に戻った。


「マスター。行ってきます」

「ふむ。くれぐれも死ぬなチよ」


 マスター。俺は不死です!

 そうは思ったが、俺はツッコミもろくにしないで次の試練へと向かっていった。

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