ゆっこのイベント
夜、乾杯と共にイベント……というか宴会が始まった。
杯を乾かすと、光樹とえっちゃんがマズ~と言っている。僕の同期も先輩もみんなこの焼酎をマズいというが、いつも買ってくる。意味が分からないが、きっとマズいというのも本当にマズい訳では無いのかもしれない。
そんなみんなを見ながら僕も緑茶ハイを口に含む。酒も飲めば酔うけど、味はしない。水を飲んでるウチに気持ちが悪くなる感じだ。
メンバーは昼の3人と主催者のゆっこ、あとは巧と2年生の菊川雅也の6人で、あとの4人はバイトだということだった。
そんな部室に声が響く。
「では、お料理始めて行きます!
先ずは回鍋肉!」
そう言って、みんなの歓声の中、フライパンを振るう。
部室にはカセットコンロを始め、歴代の先輩達が置いていった様々な調理器具が揃っている。それに大学は24時間開いているので、時間を気にすること無く飲み食いが出来るというわけだ。
出された回鍋肉にみんながガッつく。そしてたちどころにみんなが旨い旨いと言う。
それを見てから僕も箸を手に取る。
見てからじゃないと、旨いのか普通なのか、はたまた。どんなリアクションをして良いのか分からないのだ。
回鍋肉を割り箸で少し掴み、口へ運ぶ。
いつもなら、口に近づけた瞬間に嗅覚も衰え、味の全てを感じない。……はずだった。
口へ入れると、口の中にはピーマンの臭み、ニンジンの甘み、細く切った牛肉の肉汁がドバッと溢れて、味覚が濁流の如く襲ってきた。
……味が……する。
どんどんと出される食事を次々に頬張る。唐揚げは醤油の味が口いっぱいに広がり、ニンニクとショウガが良いアクセントとなっているし、肉団子はもちっとした食感と酸味が暴力的にまで味覚を刺激する。
何を食っても旨かった。
涙が出た。
言うに言われぬ達成感のような満足感が全身を支配する。涙も、旨いからなのか、いままでの辛い日々の所為なのか、その理由は分からなかったけれども、止めどなく流れてくる。
「コジロー泣いてるのか? そんなにゆっこちゃんの作るものは旨いか」
「ああ。めちゃくちゃ……旨いよ……ありがとう」
「おおげさですね」
ゆっこはそう言いながらもどこか自慢げだった。
10年ぶりの味。
味覚という感覚。
口に物を入れれば何を食べているのか分かる。
旨いと言う感動を味わった。
実に単純で……そして実に素晴らしい感覚器官。
だが、10年ぶりに五味全てを味わった僕は、脳の処理が追いつかなくなったのか、直ぐに気持ち悪くなり、部室から出て直ぐにある側溝へ胃の腑の中の物を全てぶちまけた。 友達には飲み過ぎたと言って苦笑いしておいた。
お料理って楽しいですよね。誰か他人に食べてもらえると、更においしく感じるし、嬉しさも感じるものです。それも、味覚があればこそなのでしょうね。