僕の過去の話 1
「僕には味覚が無いんだ」
ゆっこに分かりやすく動揺が走る。
「え? じゃあ、私の作ったご飯美味しいって言うのは……。いや、そもそもなんでそんなことに……」
「それを今から話すから、まあ、聞いてよ」
「……」
「じゃあ、どこから話すかな――
――最初から話そう。先ず、僕の父はバンドマンで、そこそこ成功を収めていた。成功と言ってもTVに出たとか、武道館ライブを成功させたとか、そんな大それたモノじゃ無く、ギリギリ音楽で食っていける程度のものだった。
僕の母はそんな親父に恋して、そして僕が生まれた。
そんな両親に、僕はこれでもかと言うほどに愛情を受けていたらしい。らしいというのも、僕には愛された記憶なんて無いから。そんな記憶、脳みそをこねくり回しても見つかりはしない。
僕は母に虐待を受けていた。
あ、待ってそんなに悲しい顔をしないで。ほら見てよ今はこうやって、五体満足で、この上なくという訳ではないかもしれないけれど、友達と育ての親と人にも恵まれて、それなりに日々幸せ感じて生きているんだ。
今から今に至るまでの全てを話すから、全部を聞き終わってから、泣いてくれるなら泣いてくれていいし、笑うならそれでいいよ。
閑話休題。話を戻すね。
そんな愛された僕だけど、それは徐々にやってきた。親父がライブに向かう途中、飛行機事故で亡くなったんだ。あれは……そうそう僕が幼稚園の年長くらいだったと思う。親父が死んだ直後母は、「私がこの子を、あの人の忘れ形見を……立派に、育てるの……」と泣きながら言っていたというくらいで、まだ母はマトモだった。でもね、事件は親父の葬式に起こったんだ。
親父の葬式は今でも少し覚えている。有名・無名関係なくバンドマンの人が大勢押しかけてきて、仲にはマスコミ関係者もいたと思う。そんな人たちがやってきて、葬式はてんやわんやしていた。葬式なのに革ジャンで来る人とか居てさ。そして、そんな時だった。
父の友人に紛れて、彼女はやってきた。名前も顔もちゃんと思い出せないし、そこでどんな会話が繰り広げられたのか、僕にはもう知る手立ては無い。けど、あの頃母が言っていた言葉や、親戚の人たちがしていた噂話から、おおよその見当はついている。
その女性は親父の愛人だった。
しかも、只の愛人じゃ無い。僕よりも年上の子供を2人連れていた。
そして、その場で凄い言い争いがあって、母は泣き崩れたらしい。
それ以上の詳しいことは分からないけど、母はその日を境に少しずつ変わっていった。
親父が亡くなって只でさえ気が滅入っていたのに、自分と結婚する前から浮気されていて、しかも子供まで……。今考えると、それで冷静を保てる方がどうかしている。
そして、壊れた人って言うのはね、人を愛せる様な余裕が無くなるんだ。
母からのDVが始まったのが小一の冬くらいだったかな。よくもったと思うよ。もっと早く壊れても可笑しくなかった。
僕の母は暴力を振るうだけじゃなく、ネグレクトも始めた。お金は月に一度3000円だけ渡されて、あとは知らん振り。明日のご飯にも困る生活だった。
給食費も支払えないから、給食にもありつけない。
給食費が払えなくて学校から督促状が来ても無視するし、家庭訪問に来ても追い返しちゃうから学校側ももう手に負えないと放置されちゃって。給食費すら払っていないんだから積立金なんて勿論払っていないわけで、キャンプも修学旅行も行けず終いだった。
そんな生活だったからガリガリに痩せて、家に貯まったゴミから移ったゴミの匂いと、水道が止められて風呂には入れない事の多かった事が重なって、出来上がった臭い僕は学校でも文字通り鼻つまみ者だった。幼稚園からの友達は離れていき、新たな友達も出来る事の無かった僕はいじめられた。どうして良いか分からなかった。学校にも、家にも、居場所なんてなかった。
でも、一度だけ、一度だけ僕は勇気を出した。学校に相談したんだ。
頑張って話した。勇気をこれでもかと振り絞って、必死に伝えた。それでも、先生は虐めにも虐待にも知らん振りで、結局何も変わらなかった。それに絶望して、学校を諦めると、児童相談所に駆け込んだ。でも、それが良くなかった。
虫の知らせがあったのか、何かがおかしいと感じた母は珍しくもその日家を掃除した。洗濯もした。そして、僕の帰りを待っていたんだ。いつも夜の仕事をして、僕とは生活時間が被らないし、家の事なんて一切しない人だったけど、その日ばかりは、本当にツイてなかったと言うか、詰めが甘かったと言うか。
で、その結果綺麗な家を見て、穏やかな母と話した相談所の人は、僕の言葉を只の親子喧嘩の延長くらいに受け止めて、厳重注意だけで帰って行ったよ。そして、その後、僕はえらく折檻されて、もう母に抵抗するのを辞めたんだ。
それが小学3年生の時で、その日から母のネグレクトは悪化、とうとう小遣いも無くなり、カップ麺すら買えない生活が始まった。
僕は空気だった。誰の目にも止まれない空気。母の隙を突いて、腐った残飯を食べるくらいしか出来ない虫けら以下の存在だった。どこにも居場所なんてなかった。
よく神社の軒下とかでうずくまったっけ。ベタだよな。
家にも学校にも居たくないから、僕は公園だの神社だの、河川敷だの、色んなところで過ごした。誰も助けちゃくれないし、そんなヒーロー、信じるだけ無駄だった。
でも、それは……その青天の霹靂たる事件は突然やってきた。
それはそう、今日みたいに大雨の降る日の昼下がりだったよ。よく覚えてる。
どうも。暴走紅茶です。
最近、天気は変だし地震は来るし、朝昼晩の寒暖差はえらいことになってて、健康を保つだけで精一杯な生活を送っています。
ついに過去編始まりました!
こんなかんじで数話続きます。皆さんもゆっこになった気持ち……でなくともいいのですが、最後までお付き合い頂けると幸いです。、




