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味を味わう物語  作者: 暴走紅茶


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38/42

僕が口火を切るまで

 ピンポーン

 無機質なチャイムの音が虚空に響く。

 人の居る気配がしない。

 しまった。行き違ったか?

 何度か押しせども、返事はおろか物音一つしない。ひょっとして怒って居留守決め込まれているのか?

「ははは……。上手く行かないな……」

 そのままへたり込んで座り込む。

 こうなるんなら、ちゃんと傘を差してきたら良かったし、あんな資材乗り越えずに回り道したら良かった。こうやって身勝手に突っ走るから、こんな風に行き違って、独りよがりに落ち込んで……。

 泣きそうだった。それでも体はこんなに濡れているのに、涙の一つも零れてこない。

 だが、きっとそれでいいんだ。まだ何も始まっていないのに、泣いてなんか居られない。


 ……どのくらい経っただろうか。自分の周りに滴り落ちた雨水が水たまりを作り出していた。

「え? コジローさん?」

 耳に心地よい声が聞こえる。

 顔を上げると、そこには待っていた人が。

 僕は嬉しさの余り頭が真っ白になり、何を話して良いか分からなくなった。ショートした頭は挨拶もままならず、どもりながらも、ここに来た理由を伝えようとしていた。

「や、やあ。君に話が――

 けれども、君は僕の話なんかちゃんと聞いてなかった。

「びしょ濡れじゃないですか! 私に話? 昨日来てくれなかったのに? ああ、そうじゃない。え~っと、話はちゃんと聞きますから、とりあえずシャワーでも浴びて来て下さい! 風邪引きますよ! その後で、ちゃんと家に入れてあげますから!」

 彼女は僕の話をちゃんと聞かず、矢継ぎ早にまくし立て、僕を心配する。

 きっといつもの僕だったら、話を聞かない事へ突っ込みを入れるだろう。それでも、今は只心配されるだけで嬉しかったから、僕は反論もせず、その言葉に従った。


 自分の部屋に戻ってシャワーを浴びると、再びゆっこの部屋を訪れた。

呼び鈴を押すと、直ぐに扉が開かれる。

「お邪魔します」

 久しぶりのこの部屋。数ヶ月前には当たり前の様に来ていたのに、今じゃもう、懐かしさすら感じる。

 僕は席に着くと、

「昨日待っててくれたんだよね……。ごめん、ちゃんと今日だって言わずに曖昧にして」

深々と頭を下げ、そう謝った。

「いえ、ちゃんと確認しなった私にも落ち度がありますから……。この件はお互い様ということで、頭を上げて下さい。それで、話というのは?」

「ありがとう。本題に入る前に……というか、これも本題なんだけど。僕の過去の話をさせて下さい。きっとそこから話さないと、上手く伝えられないと思うから……」

 僕のその言葉を聞くと、ゆっこは腰を持ち上げる。

「分かりました。長くなりますよね。その前にホットミルクでもいれますよ」

「うん。ありがとうな」

「いえいえ」

 暫くすると、電子レンジの駆動音が聞こえてくる。そして、それに続くようにチーーンという音。そして、ミルクが暖まる甘い香りがしてきた。

 ゆっこが席に着くと、僕はゆっくりと口を開く。

 ちゃんと伝えられるかな。伝わると良いな。

 

「僕は、僕には味覚が無いんだ」


 話の口火を切った。


こんにちは。紅茶です。

お気づきの方も多いと思いますが、次回から過去編です。

コジローの過去、ちゃんと書き切れるでしょうか? 不安が大きいです。

そして、過去編はやっと話の本題、核心に迫ります。

乞うご期待。

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