仕込みの日―2
仕込みも佳境に迫っている。しかし、辛いばかりではやっていけない。今の時間、夜の8時。部室で学祭決起焼き肉会が開かれていた。
「じゃ……」
「じゃあ、みんなあと少しの仕込みと、明日からの学祭、頑張りましょう~!」
巧が音頭を取ろうとしたのを横取りして、春樹が杯を掲げる。
それに続いて、みんなも「かんぱ~~い」と声を上げる。巧は悔しそうだった。
ここで、グラスのぶつかる乾いた音でもしたら、きっと趣あるのかもしれないが、まだ仕込みが残っているため、コップの中身はお茶だし、そもそも紙コップである。
「酒が飲みたいところだな~」
「だな~。酒がないとタバコもなんだか味がしょぼい気がするよ」
光樹と春樹がグダグダ言い始めた。
「そんな事言わないで。さ、たべましょう」
ミチルが楽しそうな雰囲気を醸し出して、しょうもない先輩たちに生肉を見せつけている。
「に、肉……」
「ニクダ……」
しかも、まんまとつられて涎たらしてるし。
部室の真ん中に置かれたホットプレートから、ジュウジュウと美味しそうな音と煙が立ち上る。きっと今部室には美味しい香りが充満している事だろう。
僕も食べておかないと不審がられるので、少しいただく。うん。やっぱり味はしない。
いくつかに一つくらいはゆっこの手が加えられたものもあるようで、それを引いたときは何よりも嬉しかった。
みんなから少し離れたソファーに腰を落ち着けていると、隣にミチルが座ってくる。
「お肉、食べないんです?」
「食べてるよ」
「でも、こんなとこに座って」
「人が多いの苦手なんだよ」
「そんなに多くないから、今日まだ仕込みが終わってないんじゃないですか!」
「それもそうか。まあ、あれだ。今日お腹の調子が悪くて」
「ええ。大丈夫ですか!?」
ミチルは素直な子だった。
「まあ、だから、脂っこいのはちょっと気が引けて」
「それなら、丁度今お野菜が焼き上がりましたよ」
そういう問題じゃないんだけどな……。
「そっか、じゃあ、向こうに混ざるかな」
こういう時は、変に食い下がるよりも、従った方が何かと有利だ。
「ほら、焼けてますよ!」
ミチルが笑顔で野菜を差し出してくる。
「ありがとう」
慣れた笑顔でそう対応する。
「宴もたけなわだが、後半戦始めるぞ」
そんな巧の号令が第二部の始まりだった。ステージは組み終わっているし、各部屋も完成している。機材も運び込んだから。
「じゃあ、第二部な。
雅也とミチル、えっちゃん、コジロー、雪利で卓側の配線。
残りはステージ側の配線を頼む。
じゃあ、解散!」
「おう!」
さっきまで4人しか居なかった教室もみんなで作業すると、心なしか少し狭くなった様に感じる。
僕も作業しないとな。
後輩に指示を出しながら、自分の作業も進めていく。
配線は後輩主導で進めたため、たくさん戸惑いながらも、1時間かからず終わった。
だが、作業はここからが難しい。全体の音量バランスをとっていくわけだが、これも後輩主導でやらせているため、全く進まない。
ステージ側担当のみんなは先に切り上げて、部室に個人機材を取りに行っている。
そんなみんなも一旦帰り、ミチルとえっちゃんも一度帰らせた22時。やっとそれっぽくなってきたので、後は明日にしようと、作業を切り上げた。
きょ、今日は疲れたな~。
「じゃあ、解散で。巧が言ってた通り、明日は9時に集合だから遅れないようにな」
「はーい」
雅也と雪利を帰らせると、僕もシャワーを浴びに一度帰った。
学校に戻ってくると、同期の面々が控え室で酒盛りを始めていた。
「おっ。コジロー! お疲れ様」
と、春樹。
「なあ、僕ずっと疑問なんだけど、なんでウチの代って、卓側僕だけなの?」
「そりゃあ、お前、一個上がほぼ卓側で、1人入れればOKだったからじゃん」
「そうだっけか……」
やっぱ一個上碌でもないな。分散しろよ。
なんて思ってみても、取り返しがつくものでもない。
「あと、後輩たちは?」
「みんな疲れて寝ちゃったよ。まあ、俺たちもかなりくたびれたから、ぼちぼち休むかなって、話してた所なんだけどさ」
「しょうがないよな。楽しみたいけど、入部以来最少人数だもん」
「そうだな。回すだけでも疲れるのに、自分も実働隊だからな」
光樹と巧が辛そうにそう言う。
「あ、そうだ聞いてよ。そんな事言ってる巧がさ~」
「おい、辞めろ」
なんて、そんなこんなで飲み続けた。
僕はちょっと頭がふわふわしてきたくらいで抜け出して寝た。
疲れた。限界だった。
学祭は明日からだと言うのに、体は悲鳴を上げていた。
明日からどうなる事やら。
社会人生活も1ヶ月立ちました。
働くのは疲れますね。
ウチもコロナでてんやわんやしてます。
皆様もどうかお体をご自愛してくださいね。




