こんな日常
僕はいつも通り、お昼休みをスタジオと隣り合っている、汚いが広さは丁度良い部室で過ごしていた。手にはカロリーメイト。
味を感じない訳だし、この手の食品を食べ続けても飽きることなんて無い。だから、僕の食事は大体3食これだ。後は、サプリとか飲んでおけば、大体なんとかなる。
ただ、口の中がパサパサしてくる不快感だけは感じるので、適度に水を流し込む。
食べ始めて五分もすると光樹が彼女を連れて部室にやってきた。
「おお。コジロー、おはよう。早いな。2限無かったのか?」
「いや、自主休講」
「おいおい。お前、去年もギリギリで進級したんだろ。そろそろ頑張らないとやばいんじゃないのか~?」
「うっせ」
そう言いながら食べ終えたカロリーメイトの空き箱を投げつける。
「痛」
別に痛くないだろうに。大げさなやつだなあ。
そんな僕らを横目に光樹の彼女で大学二年、つまりは僕の後輩、梅田悦子が「ウィース」と挨拶をしてきた。
「えっちゃん、おはよ。一応僕先輩な?」
「分かってますよ」
だから何だ。とでも言いたそうに返事をしてくる。
「分かってるならさー、もっとこう、先輩に対するような挨拶あるだろ?」
「ちょっと、私の義務教育課程では習わなかったですね」
「もう一回小学校からやり直してこい」
「コジローひどいなあ。女の子にはもっと優しくしてやれよ」
「僕が悪いの? 僕が!? お前、自分の彼女だからって甘やかしすぎな」
……と、まあ、いつも通りの部室風景が広がる。
そこに遅れて身長160センチ前後と言った小柄の女の子が登場した。
「おはよーす」
「おはよー」
みんなの声が重なる。その女の子の名前は星崎夕子。二個下の後輩で3ヶ月前の4月、入部を果たしたばかりの新顔だ。
「ゆっこだ~~~」
光樹の隣に座っていたえっちゃんがゆっこに飛びついていく。
声の質と良い、表情と良い、先輩の僕とこうも扱いが違う物か。まあ、いいけど。
ゆっこはあまり表情豊かな方では無いのだが、なんだか見ていると薄いながらにある表情筋は嬉しさ半分、鬱陶しさ半分と言った感じを浮かべていた。
「あ、先輩方。今晩暇ですか? 暇なら部室で何か作りません?」
えっちゃんに解放されたゆっこがそう提案してくる。
「いいよ~」
と、みんなが口々に言う。
「とりあえず3人確保。あとはラインでも適当に流しておきますね」
「おけー」
現在この部は部員10名。そして、偶然なのだが、その10名が全員県外からの学生で、全員が一人暮らしをしている。類は友を呼ぶとは言うが、ここまで来るとちょっと怖い。
ちなみに部名を日活研究会という。なんで日活でバンドサークルなのかは誰も知らない。どうせ日活に飽きた偉大な先輩がバンドを始めたとかそんなもんだろう。
「それにしてもゆっこちゃん、イベント開くなんて初めてじゃないの?」
光樹がそう訪ねると、
「まあ、そうですね」
「先輩のイベント参加してやりたくなっちゃった?」
「いえ。……いや、まあ、そうですね」
「も~~。素直じゃ無いなあ~」
えっちゃんが頭をなで回すと、ゆっこは首が据わってないんじゃないかと思えるほどにグラングランさせている。
「おえ。悦子さん~辞めて下さい~」
ゆっこが完全に目を回していた。
イベントというのは、不定期に夜行う宴会、飲み会、映画鑑賞会等々の総称である。ついこの間も、新入生歓迎会として、ちょっとしたイベントを行ったのだ。恐らくゆっこは、それに感化されたのだろう。
「じゃあ、光樹。俺ら4限ないし、3限終わったら酒でも買いに行こうぜ。ゆっこは1人で買い出しできるか?」
「任せて下さい」
「あ~でも、荷物多くなりそうだし、私も付いてくね」
「え、あ、ありがとうございます」
「今の「え」はなによ」
「な、なんでもありません」
部室に軽やかな笑いとムスッとしたえっちゃんの姿があった。