バンド練習 To 学祭
9月の終わり頃から今日にかけての記憶が本当に曖昧だった。側に居ることが日常になりつつあったゆっこと、心の距離が遠くなるだけでこんなにも辛いとは。去年の僕には考えられなかった事だろう。
心の距離こそ遠ざかったが、先輩後輩としては、多少話せるようにもなってきていた。それでも、以前のようにとまではいかないし、その気を遣われているような雰囲気がストレッサーになって、何にも身が入らないし、思考の纏まらないフワフワとした毎日を送った。
けれども、そんなことも言っていられない。そろそろ11月初めの土日に開催される学祭に向けて、サークルも着実に動き出していたからだ。バンドも忙しくなる。
学祭は2号館の教室を一室貸し切り、常設バンド3バンドが対バン形式でライブをする。その他にもバンド同士のコラボ演奏や、学祭だけの即席バンドでライブをしたり、例年知り合いを招待する部員がいたりで、毎年1番盛り上がるイベントだ。我がサークルの師走とも言うべき時期。覚える曲が一年で一番多い事もさることながら、その設営・撤収も運動部かと思うほどの体力勝負で、終わった頃には心身共にボロボロとなる。
今日はそんな学祭に向けてのバンド練習がある。僕のバンドは大体みんなのバイト後、深夜1時頃から練習を始める。バンドをしたり、お酒を飲んだり、いつも笑いが絶えず、本当に楽しいひとときだった。
今日も練習が追いついていない僕は、バイトが終わった23時、部室に籠もって練習をしていた。
「おはよ~」
一番乗りは春樹だった。
「おす」
「今日って何合わせるんだっけ?」
「今日から通し練習でしょ?」
「そうだったっけ。マズい。一曲弾けないのある」
「まだ2時間はあるし、今からやれば間に合うだろ」
「そうかな~。じゃあ、やるか~」
そう言って春樹はスコアの棚を物色し始める。 数冊手に取ると、ベースを取り出し、練習を始めた。部室内に低音が響き出す。
少しやると、飽き性の彼は直ぐに雑談を始めたがる。
「コジローは今年のコラボ枠、何やるの?」
「えっちゃんとミチルと真成でサイサイかな」
「ああ。Silent Sirenね。コジロー好きだっけ」
「いや。えっちゃんの好み」
「ああ。巻き込まれか」
「そうそう」
「1バンド?」
「いや、あと、ナンバガとandymoriとイエモンとワンオクと、多分何か数バンドあった気がする」
「結構やるね」
「去年よりは多いかな。曲数で言えば去年の何倍かなんて考えたくもない」
僕も練習の手を止めて、雑談に意識を向け出していた。
「春樹は?」
「俺もそんなもん。マジで首が回んない」
「まあ、今人少ないしな。例年の時間やるとなると同時に負担も増えるわな」
「そうだね。しゃーないんだけど、キツいモンはキツいからな~」
「最近練習追われる夢を見るようになってきて」
僕は苦笑いを浮かべる。
「それは本当にヤバいから、休息を採るべき」
「分かっちゃ居るけど、毎日何かしらのバンドが練習入るからな」
「まあ、そうだよね。寧ろメインのこのバンドが一番心配無い」
「そりゃ、もう3年目だし、単発の即席バンドじゃない上に、今までの経験もあるしだから。そうだろ」
「まあ、そうか」
「で、曲は? 覚えたの?」
「やべ。忘れてた」
そう言って春樹は意識を楽器の方に向けていった。僕も春樹に倣って楽器を構える。
時間もさし迫り、メンバーが揃うと、スタジオに入る。
バンマスの巧が仕切る。
「じゃあ、先ずはブルーハーツでもやって肩慣らしするか」
「おいおい。そんな扱いしていいバンドじゃないだろ」
すかさず光樹がツッコミを入れる。
「それに、それじゃあ俺、ギター弾かないから指が温まらない」
「知らん知らん。じゃあ、やるぞ」
今日もいつも通りのバンド練習が始まった。数曲合わせると、直ぐに休憩となる。
「アッツ~。もう冬も近いというのに、バンド練習は汗かくね」
僕がそう言うと、
「だから、女の子に臭いとか言われるんだ」
巧が呆れたように言う。
「巧だってその一因だからな」
「わかってるって」
一同席に着くと、だれからとなく焼酎を割って飲み始める。
ワイワイと雑談が続く。そんな中で、光樹から急に話を振られる。
「コジローコラボ枠でゆっこちゃんと何やるの?」
「やらないよ?」
急に心臓をえぐり取られた。顔から表情が落ちていく感覚がした。
そう言った僕の表情が怖かったようで、光樹がビクッとした。
「怒るなよ……。仲いいからてっきり組んでると思ったんだよ。というか、そんな顔するくらい仲悪かったっけ?」
「あ、いや。別に」
最近ゆっこの事が話題に挙がらなくなってきていたから、油断していた。
急だったから、表情も作り込めなかった。
そして僕は一気に手元のコップを煽る。味のしない水に意識を奪われ、頭の中がフワフワしてくる。
この日の、この後の事はよく思い出せないけど、きっといつも通りに戻っていた事だろう。いつも通りに練習して、酒を飲んだくれて、そして家に帰ったのだと思う。
でも、僕はこのままでXデーたる学祭終わりに間に合うのだろうか。
学祭終わりに、僕は何が出来るのだろうか。
二日酔いの頭痛を抑えて朝起きると、瑞希からメッセージが送られてきていた。
引っ越し作業に追われて更新出来ないかと思った……あっぶね~。
最近重い話が続いていますね。作者も、続きをどうするか迷う毎日です。引っ越し作業やなんやかんやに追われながらですけど……。
短くてもなんでも更新は止めずに続ける決意ですので、これからもお付き合い頂けたらと思います。では、また次回で。




