番外編 ゆっこの入部 その2
新歓二日目。今日も私は昨日と同じ時間に早起きをしました。でも、今日のオリエンテーション、文学部は11時からなのです。こんなに早く起きる必要はありませんでした。なんだか損をした気分です。それでも、他の学部は昨日と同じ時間から始まる所もあるようなので、早く学校に行って昨日の続き、新歓巡りの続きをすることにしました。
大学に着くと、昨日と同じような光景が広がっています。私は昨日巡らなかった方を見に行きました。クイズ研、声楽部、漫研、そんな文化系サークルが軒を連ねます。ですが、私は1つ失敗をしていました。昨日貰った地図を忘れてきたようです。
時計の針は早11時に差し迫ろうというとき、他県から来た私には頼れる人など居なく、キョロキョロしながら学内を歩いていると、向こうから1人頼りなさそうな、如何にも文系学生の様な男性と、活発そうで元気のありそうな女性が歩いてきました。ただ、私の目を引いた物があります。それは男性が背負っていたアコースティックギター。背負っているというよりも、背負われているというか、なんともヒョロッとした男性と正反対で、ギターがなんだか大きく見えます。その女性の方が私に話しかけてきます。
「あれ? ひょっとして1年生? オリエンテーション始まるんじゃないの?」
「はい。1年生です。道に迷いまして。何処がどこだか」
「まあ、ここの大学無駄に広いもんね。えっちゃん、案内してあげたら?」
「そうっすね。って、何サボろうとしてるんすか! コジローさんも一緒に行きますよ」
「ええ~」
何だか仲の良さそうな2人だ。言葉遣いから、男性の方が上級生だと分かる。
「君、何処に行きたかったのかな? 良かったら僕たちが案内するよ」
「ありがとうございます。助かります」
「何処に向かいたかったの?」
「2号館? です」
「ああ、2号館ね。それはね、ここだよ」
そう言ってコジローと呼ばれただんせいとえっちゃんと呼ばれた女性が同じモーションで真後ろの建物を指さします。
「あ……」
顔に熱が籠もっていくのが実感できました。カッカします。
「はは。この大学、号館標識が見にくいんだよね。最初はみんな迷う」
「そうそう。僕もしょっちゅう迷う」
「コジローさんのは迷ってるんじゃ無くて、サボりの言い訳でしょ」
「そうとも言うかも」
「ははは。お二人仲いいんですね」
「まあ、みんな仲良しだよね」
「まあ?」
「もし、又会うことがあれば、気軽に話しかけてね」
「ありがとうございます。それでは」
えっちゃんさんの言葉を最後に、そう別れを告げて、2号館に入ります。そういえば、あの二人は何処かのサークル部員なのでしょうか? 勧誘もされなかったですが、みんなと言っている事から、何人かのグループではあるようです。
仲も良さそうでしたし、楽しそうでした。ああいった楽しそうな生活こそ、大学生な気もします。
学部別オリエンテーションは直ぐに終わりました。今日はこの後、午後には身体測定があります。先ずは腹ごなしといきましょうか。でも、食べ過ぎると、体重が心配ですけどね。
食堂に向かいます。そこは人でごった返していて、どうにもならなかったので、大学生協に入ります。こちらはまだ新入生人気が来ていないようで、混んではいますが、食堂ほどではありません。
わたしはここでもまた失敗をしてしまいます。
お弁当を手に取り、レジに並び、もうすぐ自分の番と言うときでした。財布を忘れたことに気が付きます。慌てて列から抜けようとすると、後ろの女性が話しかけてきました。
「ひょっとして、財布忘れたんですか?」
「はい……。それで、列を抜けようと」
「あれ? 1年生?」
私のオドオドした雰囲気からでしょうか。1年生だと見破られました。
「はい」
「なら、奢ってあげるよ! 私、2年生になったら、後輩に奢ってあげるのが夢だったんだ!」
ちょっとおっとりしているけれども、元気のある先輩でした。でも、先輩は自分の鞄を探ると、青ざめた表情を見せる。
「あ、私も忘れちゃった」
そういって振り返ると、
「雅也~。お金貸して」
「はあ? 何で」
「部室に財布忘れてきちゃった」
「ったく、しょうがないなあ」
「あと、この子の分もお願いね」
「何でだよ!」
「だって、この子も財布忘れちゃったみたいだし、私、奢る約束しちゃったし」
「なんでそんなこと勝手にするんだよ!」
「だって~」
また仲の良さそうな二人組です。
「あ、あの、私、列抜けますんで」
そう言言いましたが、雅也と呼ばれた男性は、
「良いから良いから。ミチルの馬鹿が約束しちゃったならしょうが無い。奢るよ」
「悪いです……」
「1年生は奢られるもんだって」
「そういうもんなんですか……」
「そうそう。黙って奢られててよ」
「ありがとうございます」
会計が済みますと、ミチルという女性の方が携帯電話を見ます。すると、雅也という男性に画面を見せながら、
「やばい。集合時間過ぎて、会長カンカンだよ」
そう言うと、お礼もままならないまま、お二人は猛ダッシュでサークル棟の方へと走っていってしまいました。
またもやどこのサークルの方か分からない人から親切にされてしまいました。こんなに新歓でごった返す大学で、こんなに無欲な人たちは、本当に抜けている人か、はたまた本当に親切な人たちなのでしょう。きっと再開したいものです。
昼休みを終え、午後の身体測定に向かいます。身体測定は6号館全部を使った大がかりなもので、意外と混んでいることもあり、終わった頃には、新歓も終わっていました。今日は殆ど何処も見ることが出来ませんでした。




