お楽しみ
みんな死んだような顔でホテルに着くと、そのまま夕飯までお昼寝タイムだった。巧も寝てしまったらしく、夕飯ギリギリになって、みんなをたたき起こしてくれた。
少し寝て回復したようで、夕飯はいつも通り活気のある食事会になっていた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
巧に指名された真成が音頭を取って、夕飯が終わる。そして、みんなが部屋に戻ろうと席を立った時だった。
「あ、待って、実はこの後もう一つお楽しみがあるから」
巧が急にそんなことを言う。みんなは想定外なことに、えっ? っといった顔で巧へ視線を向ける。
「とりあえず、トイレとか済まして、さっきの川辺に20分後集合な。一応川まで遊歩道になっているとは言え、夜道だからな。気をつけて」
みんなの頭の上に「?」が浮かんでいた。
「じゃあ、解散」
「何だろね」
ゆっこと久しぶりに話す。少し喋っただけで、心がフッと和らぐ。心の奥にずっとあった重りが溶けるような感じがした。
「何でしょうね。去年は無かったんですか?」
「うん。去年はこのまま解散だった」
「川辺で呑むんですかね」
「そんな危険なことしないだろ。多分」
「多分て……」
「巧の事だからさ。わからんよ」
「流石にそんなことしないって信じますよ」
「そうだといいね」
こんな雑すぎる会話さえも癒やしになって居る自分が居た。認めちゃ駄目な気がするけど、認めざるを得ない。心が安らいでいくのが分かる。
そうこうしている内に川辺に着いた。僕らが着いたときにはみんなが揃っていて、所々にスマフォの懐中電灯が光っていた。そして、皆、巧の登場をまだかまだかと待ちわびて、そわそわとした空気が漂う。
五分くらいして、通路の向こうから、ガラガラと台車を転がす音がしてきた。
「お待たせ」
何やらでかいダンボールを台車で運んで来た。
みんながざわざわする。
「いやあ、宅急便の都合で、間に合わないかと思った」
「ああ、それで昼間、フロントで揉めてたんだね」
僕は合点がいった。
「そうそう」
「で、これ何々?」
えっちゃんは興味津々だ。
「何だと思う~?」
「酒?」
春樹が少し期待を込めてそう言う。
「なわけないだろ」
よかったと一安心。
「これは、本当に良いものだ」
何だ何だとみんなが集まってくる。
「じゃあ、開けるぞ」
……
「花火だ~~~~~」
みんなからキャーキャーと歓声が上がる。
「もう、明日帰るからな。最後の夜にはパッとやろうぜ」
みんながどんどん開封して、各々やりたい花火を手に取っていく。
「振り回したり、危ないことはするなよ」
「はーい」
タバコを吸う奴らに群がって、火を点けてもらう。
みんなが自然に笑顔になって、打ち上げ花火が大きな音を立てて、暗闇を輝かしく照らす。
僕が線香花火を手にしゃがむ。
「もう、合宿終わっちゃいますね」
隣にゆっこが来ていた。手には線香花火が握られていた。
「火、点けようか?」
「お願いします」
線香花火の先が段々と赤くなり、丸みを帯び始める。徐々にパチパチと音を立てて火花を散らしていく。
「明日には帰る何てね。毎年のことだけど、短く感じるよ」
「そうですね。短かったです」
「そうか、まだ1年生だっけ。初めての合宿はどうだった?」
「楽しかったです。こんなに楽しいなんて思いもよらなかったです」
ゆっこの線香花火がポトリと落ちた。
「お、僕の勝ち」
「先に私の火点けたじゃないですか。卑怯ですよ」
「知らね」
「ズルーい」
「もう一回やる?」
「次はコジローさんが先に点けて下さい」
「それだと、僕、君の花火に火点けにくくなるじゃん」
「じゃあ、私が点けます」
「だめ。危険だから、これは先輩の仕事」
「~~!!」
ゆっこが悔しそうにする。その顔が何だか面白くて、笑ってしまう。
「なんで笑ってるんですか! コジローさんにはスポーツマンシップが無いんですか!?」
「スポーツって……。花火じゃん」
「真剣勝負ならスポーツです~!」
ゆっこの悔しそうな声が宵闇の森に響いた。
合宿最終日はこうして幕を閉じたのだった。




