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味を味わう物語  作者: 暴走紅茶


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20/42

お楽しみ

 みんな死んだような顔でホテルに着くと、そのまま夕飯までお昼寝タイムだった。巧も寝てしまったらしく、夕飯ギリギリになって、みんなをたたき起こしてくれた。

 少し寝て回復したようで、夕飯はいつも通り活気のある食事会になっていた。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 巧に指名された真成が音頭を取って、夕飯が終わる。そして、みんなが部屋に戻ろうと席を立った時だった。

「あ、待って、実はこの後もう一つお楽しみがあるから」

巧が急にそんなことを言う。みんなは想定外なことに、えっ? っといった顔で巧へ視線を向ける。

「とりあえず、トイレとか済まして、さっきの川辺に20分後集合な。一応川まで遊歩道になっているとは言え、夜道だからな。気をつけて」

 みんなの頭の上に「?」が浮かんでいた。

「じゃあ、解散」


「何だろね」

 ゆっこと久しぶりに話す。少し喋っただけで、心がフッと和らぐ。心の奥にずっとあった重りが溶けるような感じがした。

「何でしょうね。去年は無かったんですか?」

「うん。去年はこのまま解散だった」

「川辺で呑むんですかね」

「そんな危険なことしないだろ。多分」

「多分て……」

「巧の事だからさ。わからんよ」

「流石にそんなことしないって信じますよ」

「そうだといいね」

 こんな雑すぎる会話さえも癒やしになって居る自分が居た。認めちゃ駄目な気がするけど、認めざるを得ない。心が安らいでいくのが分かる。

 そうこうしている内に川辺に着いた。僕らが着いたときにはみんなが揃っていて、所々にスマフォの懐中電灯が光っていた。そして、皆、巧の登場をまだかまだかと待ちわびて、そわそわとした空気が漂う。

 五分くらいして、通路の向こうから、ガラガラと台車を転がす音がしてきた。

「お待たせ」

 何やらでかいダンボールを台車で運んで来た。

 みんながざわざわする。

「いやあ、宅急便の都合で、間に合わないかと思った」

「ああ、それで昼間、フロントで揉めてたんだね」

僕は合点がいった。

「そうそう」

「で、これ何々?」

えっちゃんは興味津々だ。

「何だと思う~?」

「酒?」

春樹が少し期待を込めてそう言う。

「なわけないだろ」

 よかったと一安心。

「これは、本当に良いものだ」

 何だ何だとみんなが集まってくる。

「じゃあ、開けるぞ」

 ……

「花火だ~~~~~」

 みんなからキャーキャーと歓声が上がる。

「もう、明日帰るからな。最後の夜にはパッとやろうぜ」

 みんながどんどん開封して、各々やりたい花火を手に取っていく。

「振り回したり、危ないことはするなよ」

「はーい」

 タバコを吸う奴らに群がって、火を点けてもらう。

 みんなが自然に笑顔になって、打ち上げ花火が大きな音を立てて、暗闇を輝かしく照らす。

 僕が線香花火を手にしゃがむ。

「もう、合宿終わっちゃいますね」

 隣にゆっこが来ていた。手には線香花火が握られていた。

「火、点けようか?」

「お願いします」

線香花火の先が段々と赤くなり、丸みを帯び始める。徐々にパチパチと音を立てて火花を散らしていく。

「明日には帰る何てね。毎年のことだけど、短く感じるよ」

「そうですね。短かったです」

「そうか、まだ1年生だっけ。初めての合宿はどうだった?」

「楽しかったです。こんなに楽しいなんて思いもよらなかったです」

 ゆっこの線香花火がポトリと落ちた。

「お、僕の勝ち」

「先に私の火点けたじゃないですか。卑怯ですよ」

「知らね」

「ズルーい」

「もう一回やる?」

「次はコジローさんが先に点けて下さい」

「それだと、僕、君の花火に火点けにくくなるじゃん」

「じゃあ、私が点けます」

「だめ。危険だから、これは先輩の仕事」

「~~!!」

 ゆっこが悔しそうにする。その顔が何だか面白くて、笑ってしまう。

「なんで笑ってるんですか! コジローさんにはスポーツマンシップが無いんですか!?」

「スポーツって……。花火じゃん」

「真剣勝負ならスポーツです~!」

 ゆっこの悔しそうな声が宵闇の森に響いた。


 合宿最終日はこうして幕を閉じたのだった。


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