二日目!
目が覚めた。スマフォは正午を著している。今日の午前中は何もなかったハズだから、何かをすっぽかしたという事も無いのだろう。
起き上がるのも面倒で、ごろんと寝返りを打つと、隣のベッドでは、春樹がまだすやすやと寝息を立てていた。真成の姿は探しても見つからない。粗方、スタジオに行ってドラムの練習でもしているのだろう。
さて、僕はどうするかな。別に起きたところで何もする事は無いが……。でももう眠くは無い。酒を飲んだ日はなんだか眠りが浅くなる。
まあ、もう目が覚めたんだ。起きるとするかな。
僕は半身を起こすと大きくのびをして、ベッドから降りる。そのまま部屋に備え付けられた洗面所で洗顔と歯磨きを済ませると、部屋から出る。
廊下には見事に誰も居なかった。そういえば今日のイベントは夜の宴会か。親睦会を兼ねた10人全員での宴会。どうせ最終日に打ち上げとか言ってほとんど同じ事をするくせに、二日目にも飲み会をする辺り、頭の悪い大学生っぽくて、なんだか笑える。
何をするにしても、1人じゃどうしようも無いな……。
僕はそう思いながら、各人の部屋を訪ねる。先ずは巧と雅也の部屋。
ノックをしても返事が無いから勝手に開けると、巧が1人練習パットでドラムの練習をしていた。イヤホンをしていたからノックに気が付かなかったのか。
「うーす。巧。雅也は?」
「ああ。コジローか。くわぁあ眠い」
巧はとても眠そうだったが、部長の意地を見せているのだろうか。何かがあった時のためになるべく起きているようにしている様で、寝る間もないようだ。
「大丈夫か」
「大丈夫、大丈夫」
「雅也は?」
「う~ん。知らんが、ゆっこのケツでも追ってるんじゃないか?」
心臓に杭が打たれたような昨日の感覚を思い出した。
「ああ~。昨日の……」
「ああ。起きてからもなんか、そんなことを言ってた気がするが……。眠くてよく覚えてないな」
そういえば、昨日の夜、衝撃の告白があったんだっけか。忘れていたと言うか、忘れようとしていたな。
「そっか~」
僕はなるべく平常を装う。
「お前は何してるんだ?」
「ああ。目が覚めちゃって暇だったから、みんなの部屋でも覗こうかなって」
「なるほど。俺も体を動かしたい所だったんだ。一緒に行ってもいいか」
「おっけ。行こ」
そうして、まずは一匹目の仲間を捕まえた僕は次の部屋を訪ねる。
この部屋はノックをしたら返事があった。
「どうぞ~」
残る光樹と雪の部屋だ。
部屋に入ると賑やかなBGMが聞こえてくる。どうやら持ち込んだゲームを備え付けのテレビに接続してゲームをしていたようだ。テレビの中では狭い橋の上でキャラクターが乱闘をしていた。
「おっ。コジローと巧じゃん。お前らもやるか?」
「あ、先輩方。おはようございます」
「お前ら……。起きて早々これか~」
「いいじゃん、いいじゃん。乱闘は合宿の醍醐味だろ~」
「まあ、そうだな。じゃあ、次は俺も参加する」
「あ、僕コントローラー持ってますよ。4人でやりましょう!」
「おおっ。雪、分かってるじゃん」
「はい! なんか前に光樹さんが、大乱闘やるかも知れないから~みたいな話してて、持って行ったら役立つかなって」
「お前は偉い後輩だな~。じゃあ、コジローも参加な」
「僕まだやるなんて言ってないけど」
「いいじゃん、いいじゃん」
正直、ゆっこと雅也が本当に逢い引きしているんじゃないかと気が気でないし、それを確かめに次は女子部屋へ行こうかと思っていたが……。ここで断るのもなんか変だし、理由が女子部屋に行きたいなんて、どこか不純に思われても仕方ない。ここは乱闘しておくか。
「まあ、いいか」
今行われている雪V.S.光樹の試合が終わると、光樹が手早くコントローラーの設定をし、ベッドに腰掛けた僕らに投げてくる。
「バトルロイヤル方式で、残機3。ダメージ%方式だからよろしく」
「ようするにいつも通りじゃん」
「まあ、そうとも言う」
沢山のキャラクターに目移りするが、僕はこのピンク色のゴム鞠みたいなキャラクターしかマトモに操作できないので、このキャラにする。
「おっ。コジロー王道だね~」
「いいだろ。別に」
「じゃあ、おれはこれかな~」
各々キャラクターを決めると画面が切り替わり、ゲームが始まる。
すると、急に雪の目つきが変わった。
「……ス」
ん? 何か言ったか?
「ぶっ○してやる!!」
雪のキャラクターが、彼の感情に呼応したかの如く、キビキビと動き、他のキャラを圧倒していく。まるでハリケーンに立ち向かっている様だ。どんどんキャラクターが打ち上げ花火のように吹き飛ばされ、後には何も残らなかった。
リザルト画面が表示されて、みんなが我に返る。
「い、今何が起こったんだ……?」
巧が目にした物を信じられないというような感じで呟く。
「……」
件の雪本人は顔を赤らめて下を向いている。
「……。僕、対戦ゲームをすると豹変しちゃうっていうか……えっと、さっきは大丈夫だったんですけど、何でしょうスイッチが入っちゃって」
「そんなことある?」
事実は小説より奇なり。こんな人が現実に存在したなんて……。彼、ウチのサークルに入らず、世界目指した方が良かったんじゃ……。
そんなこんなで3回戦くらいやると、巧が飯の時間だ。みんな起こさないとと言って消えていった。僕らも食堂へ向かうことにした。
食堂に着くと、もうチャーハンが机の上に並べられていた。
みんなが好きな席に着く。その時だった。入り口の方からゆっこと雅也が同じタイミングで入ってきた。
やっぱり、2人でどっか行ってたのか……。いや、偶然か?
たまたま僕の隣が空いていた為にゆっこが隣に座る。その隣は雅也。
「午前中何してた?」
そんなことを聞いてみる。別に雅也がどうこうとかじゃあない。
「午前中ですか? 部屋でゴロゴロしたり……。あ、悦子さんとミチルさんに外の売店連れて行ってもらいました」
「おお。あそこな。ソフトクリームが旨いんだよな」
「おいしかったです」
「それはよかった」
それはよかった。なんだ。雅也とは偶然か。
「コジローさんは?」
「僕? 僕は乱闘やったよ。すこしだけど。あ、そうだ。雪がさ――
とりあえずは心配要らないようだった。
仲良く喋る僕らに向けた雅也の視線は、何か言いたげだった。
僕はどうしたらいいんだろうか。
本年(2019年)の投稿はこれで終わりです。と、見せかけて実は2話同時投稿します。年末でお忙しいとは思いますが、是非御一読下さい!