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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不幸な魔女と幸せな弟子

作者: 皇 翼

「ねえ、師匠。そろそろ俺に魔の力を与えてくれますか?」


薬の錬成中。弟子が私に後ろから甘えてくるように腕を回してきて、耳元で囁く。最近ずっとこうだ。彼はここ最近ずっと力を求めている。暫く前から兆候はあったが、最近は私に直接言ってくるのだ。“魔の力が欲しい”と。彼はまだ魔女である私の弟子で、見習いだ。だから今は私の許可が出て、やっと魔法が使えるという中途半端な状態なのである。多分、それが不満なのだろう。


そもそも魔女には幾つかの種類がある。

一つ目は世界を恨みつくし、一度死んで魔女に転生した者。二つ目が世界を恨んでいるが、死なずに魔女に拾われた者が魔女によって魔に染められ、魔女として独立する者。三つ目がこれはかなり特殊だが、魔と交わりあった末に産まれた者だ。このタイプは普通の魔女よりも魔力が元々高い。

というように、彼は今は一応、二つ目のタイプだ。



彼は今年で20になる。戦場で独り佇む彼を私が拾ってからもう10年以上経った。よほど酷い目に遭ったのだろう。最初に見た彼は、この世の全ての絶望を孕んだような私好みの瞳をしていて、一目見た瞬間に気に入った。そうしてこの家まで連れて来て、私の弟子にしたのだ。

最初は警戒心剥き出しで私を睨んで、食事すらも素直にとろうとしなかった彼。けれど、いつの間にか私にも馴染み、今ではこんなにもふてぶてしくなっていることに年月の経過を再認識する。

この十年ちょっと……長かったような短かったような。どこの国にも属さない深い森の奥の中、二人で暮らしていると年月の感覚がおかしくなってくる。ただでさえ私達――特に力が強い魔女は不老不死なのだ。数百年も生きている身では十年ちょいの時間の感覚などないに等しい。けれど振り返ってみると、ここ十年は彼のお陰で楽しかった気がする。


最近の彼の言動からして、きっと彼はここの生活ではもう満足できないのだろう。少しでも魔の力に触れたことのある者は、力を求める傾向にある。私はもう既に力などに興味はないが、魔に触れたてだと抑えきれない破壊欲求故に力を求めてしまうのだ。私にも覚えがあった。それ故、彼は力を求めているのだと思う。


魔力というのは幾つかの要素によって決まる。

第一に先天性のもの。生い立ちの不幸さだ。生い立ちが不幸であれば不幸であるほど――この世への恨みが深ければ深い程、魔の力は強くなる。魔女の中でも比較的ポピュラーなのが、無実なのに魔女裁判で拷問されて死んだという者だ。私の知り合いの魔女にも何人かいる。

ついでに彼の過去からして、この点は合格だ。今このまま魔の力を与えてやっても、それなりの地位につけるようになるだろう。けれどきっと彼はその程度では満足しない。


第二に後天性のもの。その力でどれだけ残虐なことをしてきたか、だ。例えば一つの村を滅ぼしたり、他人に魔女化するほどの不幸を与えたり。


他にも、弟子を育てた数でも力は強くなる。自分が目を付けた人一人を魔に染め上げれば、完成だ。でも、私はまだそれが出来ていない。どうしても、彼をこちら側に引き込み切れないのだ……私は彼に愛着を持ち過ぎた。いや、むしろ私は彼を一人の男として“愛して”しまっているのだ。だから、彼の幸せを願わずにはいられない。魔女のくせに情けないものだ。


こちら側に来れば、彼は望み通りの魔の力を手にすることができるだろう。しかし一度こちら側に来たら、永遠に向こうには戻れない――――人間には戻れないのだ。

私は魔の力を手にした後で、何度も後悔した……この死ぬことができない、永遠に生き続ける肉体を。だから、彼にはそんな後悔をしてほしくない。まだ間に合う。彼には“人間”として幸せになって欲しいのだ。けれど、彼は魔の力を欲する。私はほとほと困り果てていた。


「師匠、無視しないでください」

「っ!?」


ずっと考え事をしていた所為だろう。無視されたと思ったらしいこの弟子が、私の首筋にカプリと軽く噛みついてきた。甘く、痺れるような痛みに声を上げそうになるのはなんとか我慢できたが、無意識下で完成させていた薬を取り落としそうになる。一瞬ヒヤッとしたところで私は首を少し後ろに捻り、今日初めて弟子の瞳を見つめ返した。


「薬の錬成中にこういうことしてくるなっていつも言っているでしょう!?」

「だって、師匠の首筋――すっごいいい匂いがするから」

「っやめなさい!」


彼は言いながらも、犬のようにスンスンと鼻筋を擦りつけるように当ててくる。腰に添えられた手と這い上がってこようとする腕に不穏な気配を感じ、弟子の頭を思い切りひっぱたく。


「天誅」

「いってー」


こんなやりとりすらも愛おしいと思ってしまう程に私はこの弟子を大切に思ってしまっている。


どうしても……と彼が力を望むのなら――それが彼の幸せだというのなら、私は力を与えようとは思っている。けれど、私はまだ彼にそれを与えられていない。


彼が強い魔の力を手にするのは中々に難しいことなのだ。大抵の魔女は弟子に死ぬ直前まで拷問をすることによって更なる不幸を与え、弟子に完全なる魔の力を与える。しかも、それでも魔の力に染め上げられるかの確率は二分の一だ。半分くらいは、拷問に耐え切れずに死んでしまう。それほどまでに難しい事なのだ。

しかし私にはもう、そんなこと出来そうになかった。もしも彼に拷問することを耐えきれたとする。けれど、もしもそのせいで彼が死にんでしまったりしたら、私はきっと耐え切れない――――彼を失った未来で生きていくなど耐え切れないのだ。


彼に好かれている自信はある。だからもしも、本当に彼を魔に染め上げるのなら彼に私を殺せればいい。そうすれば彼は絶望に染まり、誰よりも強い魔の力を手に入れることが出来るだろう。

死ぬのなんて怖くない……むしろ死にたいと思っていた筈なのに、いざ彼に魔の力を求められると、彼との思い出が目の前にちらついて、踏ん切りがつかない。だから、私は今日も逃げる。


「もう少し大人になったら与えてあげるわ。貴方はまだまだ子供、よ」

「なんだそれ!?俺もう、大人だし!」

「口答えするところが子供!」


(もう少しでいいから……この幸せな時間にいたいという私の我が儘を許して、まだ子供のままでいて)


もう少しだけでいい。もう少しだけ子供のままでいて……もう自分が一番彼を子供だと思っていないくせに、そう思いながら私は今日も彼の頼みを受け流す。自分と彼の未来に絶望を見ながら。







***************








師匠は酷い人だ。俺の欲しいものを“まだ子供だから”と与えてくれない。もう俺は20を超える大人だ。魔力では勝てなくても、魔女とはいえ、女性である師匠を押さえつけるなんて簡単なほどに力もついている。


俺は早く力を手に入れて、師匠と永遠に共に居たいのに。師匠と暮らし始めて、もう十年だ。このままでは俺はあっという間にお爺さんだ……彼女を置いて逝ってしまう――孤独な彼女を。

だから、俺は早く力が欲しい……どうしても。けれど、師匠も人が悪い。魔女だから当然と言えば当然だが、簡単に約束を破るし、約束を破っても反省の色がない。


最初は俺が師匠の背丈を追い越したら魔の力を与えてくれるという約束だった。けれど、数年前に彼女の背丈は追い越した時には与えてもらえなかった……今度は“体は大人でも、心がまだまだ子供だから”と言われて。

それからは毎日のように彼女に懇願する。


「ねえ、師匠。そろそろ俺に魔の力を与えてくれますか?」


最近気づいたことだが俺がそう聞くと、師匠は悲しそうな、辛そうな……なんというか悲痛な表情をする。何故だろう?と思うが、それを聞こうとしても彼女は絶対に言ってくれない。でも、俺は彼女と共に在りたいのだ。


俺は魔女だろうと何だろうと、師匠の事を愛している。だから、俺は魔の力を手に入れることを諦めない――絶対に。

師匠は何かを考えこんだ様子で、俺を無視して薬を錬成する。そんな姿を面白くないと思いながらも、剥き出しの彼女の首筋に軽く噛みついた。


「師匠、無視しないでください」


彼女の首筋は柔らかくて、甘い。匂いも甘く蕩けるように俺を誘惑する。いつまでも味わっていたい程に好きだ。


「っ!?」


師匠は耳まで真っ赤にして、顕著にそれに反応を示す。僕の数十倍は長く生きているくせに、見せる反応は可愛いのだ。俺は彼女のそんな所も好きだ。


「薬の錬成中にこういうことしてくるなっていつも言っているでしょう!?」

「だって、師匠の首筋――すっごいいい匂いがするから」

「っやめなさい!」


起こっている師匠に素直に首筋の感想を言いながら、彼女の匂いを更に求めながら首筋に鼻を押し付けた。ビクリと彼女の体が反応する。


(このまま、食べてしまいたい)


「ねえ、師匠……」


腰を軽く押さえて師匠の柔らかな胸を触ろうと、腕を上まで移動させようとしたところで頭に師匠のチョップが飛んで来た。


「天誅」

「いってー」


頭に衝撃が走ると同時に思う。


(また、誤魔化されたな)


ここまでが一連の動作で、俺達の間では、ほぼほぼ習慣と化している。これ以降は師匠は話を聞いてくれない。そして、いつものお決まりのセリフを言うのだ。


「もう少し大人になったら与えてあげるわ。貴方はまだまだ子供、よ」


その言葉を聞く度に、俺は力がもっと欲しくなる。そうしていつも通り口答えするのだ。


「なんだそれ!?俺もう、大人だし!」

「口答えするところが子供!」


そんなやりとりに少し微笑みながら、俺は子供らしく師匠に抱き着く。いつか師匠に魔の力を与えてもらって見せる……そう思いながら、俺と彼女の未来に希望を抱いて。


30分くらいで、ざっと思いついたものを詰め込んだだけなので、できればツッコミはなしでお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔力の与え方が壮絶。彼は得られるのでしょうか? 続きが気になります!
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