極論男プレゼンス ~田舎の交通事情~
1人の白バイ隊員の巡査が交通課課長に呼び出された。
「田中君、我が県の道路事情は理解してるかね?」
「はい課長。比較的、交通ルールを守る傾向にあります」
「その通り。だからだ。交通切符のノルマを達成しにくい。県警のボーナスが低いのに一役買っている」
「それは良い事ではありませんか」
「ダメだ。給料が低いのは由々しき事態だ。タレコミがあった。田中君、一件でもいいから田舎の更に田舎の限界集落を取り締まり、粗を探してこい」
「はっ!」
ーーその限界集落に住む、蔵田家ではニートの子を持つ親が悩んでいた。子はビールを買いに、今日も車を運転する。出かける直前にタバコに火を着け、運転席側のウインドウを開ける。すると、父親がやって来て吠える。
「どこに行くんだ!? カネはどこから出てる!? 運転中にタバコを吸うな! 働いてから吸え!」「うるせえな! 重箱の隅をつつくのは小姑の役割だろ、カマ野郎!」
「何だと!? くわえタバコはどえらい生意気に見えるんだからな!? 集落の人に、ちゃんと頭下げて挨拶しろよ!」
子は父親を無視してコンビニへ買い出しに行く。途中、集落の連中がちらほら歩いてるが、子はそれも無視していく。
ーーこの日、集落では葬式があった。それで親はピリピリしていて、世間体を守ろうと躍起になっていた。子がニートなんて、恥ずかしくて恥ずかしくて堪らない。
蔵田家の父親は葬式に行く。自分の運転で。
ーー父親は葬式で出されたビールを飲み、飲酒運転で家に帰る。先に徒歩で帰ったご近所さんに頭を下げ、パッパッとクラクションを鳴らす。
ウゥー! ウゥー! 廃屋の陰に隠れて狙っていた白バイの田中巡査が追いかける。
「前の軽自動車、停まりなさい!」
蔵田家の父親は車を路肩に停める。田中巡査は白バイを横付けして、ウインドウをノックする。
「ドライバーさん、わき見運転したでしょ。違反切符を切るから」
蔵田家の父親は困惑している。悪気は全くない。しかし、ご近所さんの目の前で無様な姿は世間体が悪い。蔵田家の父親は軽自動車を急発進させた。ガコン!
「ウワッ!」
蔵田家の父親は白バイをなぎ倒して去っていく。田中巡査は急いで立て直し、追いかける。
ーー蔵田家の父親は逮捕された。道路交通法違反、公務執行妨害と。取調室で厳しい聴取を受ける。
「わき見運転、クラクション、酒気帯び運転、公務執行妨害、殺人未遂。とんでもねえクズだな、お前」
「クズとはなんだ! 俺は悪くない!」
「何でわき見運転したの?」
「皆、やってる! 挨拶するのは当然だ!」
「飲酒運転まで、皆、やってるとは言わせんぞ」
「皆、やってるんだよ! クズなら、息子のがクズだ」
「そりゃ、あんたに育てられたら、クズになるよな」
「違うんだ! 息子はニートなんだ! 働いてないのに、酒やタバコをやり放題だ!」
「それが何なの? 言っとくけど、実刑は免れないからな」
「俺は悪くない! 実刑なら息子に代わってもらう!」
「ふ…………ふざけるな!」
ーーこうして、蔵田家の子は狂ってる親に警察を使い、リベンジしたのであった。
ーー今日も平和な一日が過ぎていくーー