~並々ならぬ営業努力により神官に転職させられました~
田間神社、ピーナッツが特産の都道府県にある神社だ。
銀太郎の実家は、近くにある、ほしの美洗舎というクリーニング屋である。
そこから歩いてすぐの神社は、銀太郎にとっては、お宮参り、七五三参り、お祭り等の年間行事参加に加えて、ちょっとした遊び場でもあったので、幼少期の銀太郎の、思い出広場である。
遊びにいったり、お参りするのも当たり前の事だったのだ。
おばあちゃん達が残したクリーニング店を、守っている両親は、元気の無い息子に、安心して遊んでこい疲れたら帰ってこい。
お前達位養ってやれると、なんともまあ、親バカな返答が返ってきた。
おばあちゃん達の仏壇に挨拶したあと、土産物と母の漬けたぬか漬けをつまみに、緑茶を嗜んでいた銀太郎は、自分の娘が将来誰かと結婚でも就職でもして家を出て、なにかを抱えて戻ってきたときは教科書の沢山入ったランドセルをおろす手伝いを、当たり前にやってしまうのだろう。
親というのはそういう生き物なのだ。
父親の親バカな発言に苦笑しながらも、今は大丈夫だがダメなときは頼むと甘えに、乗っかってやった。
これで+10年は寿命が延びるに違いない。
ある程度談笑しているところにクリーニング店に、幼馴染みの水上夫妻が生まれたばかりの子供をつれて、やって来た。
泥はねした着物のクリーニングをお願いしにきたのだ。
せっかく晴れた日にお宮参りにいった帰りに水溜まりの上をバイクが通過し泥水を跳ね上げたらしい。
奥さんに抱かれている小さな寝息が、まあ、いいか。と、怒りも程々にさせてくれるのは幸せな魔法にかかっているとしか言いようがない。
そんな光景を見ていたら、保育園に行っている優里に無性に会いたくなった。
柔らかい頬にむちゅっとしてやりたくなった。
そんな気持ちを胸に、神社に報告しに行ったら家に帰ると実家を後にした銀太郎であった。
「もしもし?光?昼飯食べてた?ん?これから?タイミング良かったな....うん。今実家に来てるんだけど...うん。仕事の話ししに来ててさ、うん。ありがとう。ちょっとお参りいって、お土産買ったら、優里迎えにいくよ。うん。任せといて。じゃあ、午後も頑張れよっと。おう、Thank You♪」
妻に連絡して、意気揚々と銀太郎は手や口を浄め
鳥居を潜り、石階段を上る。
「よっし、転職することにするぞ!誰がなんと言おうと転職だ。
光も賛成してくれるみたいだし、後は引き継ぎだな面倒なのは。
次の仕事は...考えものだな。」
ぶつぶつと、独り言を言いながら、上って行く銀太郎。
「ほほう、銀太郎は転職を希望かの?」
「?ん?(誰だこのじいさん....)私の名前を知っているという事は、お会いしてますよね?すみません。どちら様でしたっけ?」
石階段を上っていると、横から、白髭のおじいちゃんが話しかけてきた。
「銀太郎は、どんな職種につきたいのかね?」
質問に答えないおじいちゃんは、尚も話しかけてくる。
「私は若干何でもこなせる、器用貧乏でして、出来ればその能力を活かせる職業ですね。」
仕方ないのでおじいちゃんに話を合わせながら、上って行く。
「ほほう、銀太郎は、賢者になりたいと申すか?」
「はっ?」
(何を言ってるんだ、このおじいちゃん)
「そうですね~なれたらいいですね~」
曖昧な答えに切り替え、会釈し石階段を上りきった銀次郎の目の前には、見慣れた、歴史のある神社の拝殿ではなく、石作りの神殿だった。
「へっ?」
辺りを見渡すと見慣れない土地だった
「こ、ここどこ...」
「ここは、転職を司る、神殿。職業を変えたいものが来るところじゃ。」
「さっきのおじいちゃん。」
「ふぉふぉふぉ。賢者でよかったかのう?」
「は?うう?え?ちょっと事態が飲み込めないんですが、いつ田間神社は、神殿になったんですか?苔むした狛犬さんたち、どこ行った(゜Д゜≡゜Д゜)?」
「レベル1に戻り、修行しなおす覚悟もおありじゃな?」
「え?別部署移動みたいなこと?いや、それよりここどこ?」
「今までの自分に敬意を払い、祈りなさい。」
「ん?おじいちゃん、何を言ってるのかな?」
その瞬間目が眩むほどの光に包まれた。