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人工少女と自惚れ学者  作者: トム
2/2

スーパーアイちゃん

あれから1週間。旭凛子と名乗る女はAIである私の映るパソコン以外のパソコンでずうっと作業していた。

まあ何もされないというのはありがたいのだけれど、私としてはなんだが疎外感を感じてしまうわけで。

300年の構想が実現した人類の叡智の塊なんでしょ?私。もっとこう…ちやほやされてもいいんじゃないかな…。なあんて…。


「ちやほやされたかったんですか。」


パッと眠たそうな顔で振り向く旭凛子。

常時肌身離さず付けているヘッドホンを耳から取って首にかけると、私に質問をぶつけてくる。

彼女の言葉に私は一瞬キョトンとした表情を浮かべるがすぐに理解できた。今のは私の思考に対しての質問だ。と、いうことは…。


「き、きききこえてたの!?」


「アイさんの思考は全て私の付けているこのヘッドホンに音声化して変換されるようになっています。つまり、アイさんの頭の中は全部筒抜けというわけです。人工知能とはいえ、元は人間ですから。メンタルケアは私の役目なんです。」


メンタルケアの仕方が一番メンタルやられるわ。私にはプライベートというのが無いのだろうか。

元は人間と言ってくれるなら、それくらい考慮してもらいたいものだ。


「そうですね。気持ちはわかりますから、そうしたいのは山々ですが、貴女はもはや人間の理を越え、我々の理解を遥かに超えています。貴女がその気になれば私の目を盗んで電脳世界を支配し、人類を殲滅することも容易いでしょう。だからこそ、私が監視していなければならないのです。」


その言葉に私は少し怖くなってしまった。電脳世界を支配?人類を殲滅?あまりに大きなスケール過ぎて私には現実味が沸かないというものだ。そんなアニメやゲームじゃあるまいし…というのが正直な感想である。驚きのあまり口には出なかったがまあ凛子には筒抜けなのだろう。


「まあそうなるのも無理はありませんね。普通の人間が異世界に転移したら世界滅ぼせるチート能力持ちだった!みたいな、なろう小説くらいのことをやってのけてる訳ですから。」



「300年後でもなろうってまだあるんだ。私はあまり読んだことはないがちょいちょいアニメ化とかしててそこそこ流行ってたイメージはあった。息が長いコンテンツだな。」


彼女の考えは妙に私の時代に近いものがある。まったくジェネレーションギャップを感じさせない辺り、凛子は話しやすい。



「いいえ。そもそも小説…ひいては書籍というコンテンツ自体がもう現代にはありません。

私たち人間には…といっても先進国だけですが、脳にマイクロチップを埋め込んであります。

それらは機械や人とネットワークを繋げて機械なら思考による操作、人となら意思の疎通や感情の共感が任意で可能になりました。

小説というコンテンツはリペイントと言われる一種の記憶改編に移り変わりました。

小説というのは今となっては過去の遺産、過去人達の思考を読み解くキーでしか無いんです。」



淡々と未来のサブカルチャーの話をしてくれているようだが、私にはあまり理解ができなかった。

とりあえず分かった事は、小説はこの世にはもうないという事だ。しかし、それではなぜ小説の中でも真っ先に廃れたであろうなろうなんてものを知っているのだろう?…と、少し疑問が過ったがなんて事はない。彼女の言葉に答えはあった。


「すごいんだねェ…マイクロチップって。」


「はい。最も主流なインターフェースです。アイさんの時代で言うスマホみたいな物ですよ。」


なるほど大変分かりやすい例えだ。

自分で言うのも恥ずかしいほどに気の抜けた表情でほへー…と感嘆の息を漏らしていた。

気の抜けた表情の私を見てはくすくすと凛子は笑う。

するとすぐに彼女は何か思い出したかのように手を叩き、また、パソコンに向き合った。

嗚呼、仕事の邪魔をしてしまったか。それはまた申し訳ない事をした。



私の思考は彼女に届いているはずだが、彼女から応答は特になかった。少しくらい反応してくれてもいいのに…などとは特に思わず、私は彼女の背中をただただ

ボーッと眺めていた。


しばらくして、私の体であるPCがピロリンと音を出す。腹の虫にしては陽気な音だし、そもそも私はAIだし…。

一体なんの音なのか。答えは目の前に書いてあった。


メールが届いています。


比喩表現無しで目の前に書いてあった。

へえ、メールが届く時ってこんな感じなのか…。私はメールボックスからメールを取り出しては手に取り、メールを開いた。アドレスは、rinchan…。間違いなく目の前の彼女からの手紙だろう。


そこに書いてあったのは何かのURLだ。

それ以外は何もない。

疑問かつ不審に思っていると、ご本人から話しかけてきた。


「それはゲームのデータです。アイさん、いつも私の背中を見てるだけだと退屈だろうから作ってみたんです。全部クリアしたらゲーム内でご褒美もあるんですよ。」


この1週間、凛子は私のために暇しないようにゲームを作ってくれたらしい。生前の私はとてもゲームが好きだった。彼女の思いやりの気持ちは素直にとても嬉しい。わざわざ私のために作ってくれたんだ。遊び尽くす事こそ最大の礼儀だろう。ご褒美というのも気になるしね。私は少しワクワク気味に凛子に尋ねる。


「ねえ、ちょっと遊んでみてもいい?」



凛子もまた嬉しそうに私の言葉に答えてくれた。


「ええ。もちろんです。」



凛子の作ってくれたゲーム。どんなものか気になる。

何より、私の知っているゲームは2018年まで。

2318年の天才科学者が作ったゲームだ。どんなすごい世界が待っているのか、楽しみで仕方がない。

私はこのワクワクを胸に抱えて…今も生前も胸ないけど。URLを開いた。


さあ、行こう!最先端のゲームの世界へ!



目の前が一変して世界はすっかり姿を変える。


澄み渡る雲ひとつない空!どこまでも続く長い道!

どういう理屈かよく分からないが宙に浮く茶色いレンガ!その隣に配置してあるハテナブロック!そして鼻が大きくてヒゲが生えたオーバーオールのおっさんが1人!


ってこれ…


「某横スクロールアクションゲームじゃねえか!!

めっちゃ既視感あるんだけど!?最先端のゲームどころかファミコ◯くらいまで時代遡ってるよ!」


「私は科学者であってゲームプログラマーではないんですよ。私の技術だとこれが限界です。」


苦笑いで反応する彼女の言葉には正直反応できない。実際、私のことを思って作ってくれたんだから文句は言うまい。ただ、ただ…。

「キャラクター、もうちょっとなんとかなんなかったの?」

明らかに著作権的なものに引っかかる案件だろうこんなの。


「自分、不器用ですから…。」


凛子は強い眼差しで私にそう告げる。

いやなんで急に硬派キャラ出してきたの?

というか、このゲーム普通に三人称視点だ。私はてっきりゲームのキャラになりきるものだとばかり…。

いや、私もうら若き乙女。マリ◯になるのは御免だが。

何がともあれ、これは凛子なりに考えて作ってくれたゲームだ。いいじゃないかスーパーマ◯オ。私は好きだよ。ちゃんとファミコ◯のやつもやったことあるもんね。うちのパパはゲーム好きだったからスーファ◯とか家にあったし!


マ◯オの思い出を振り返りつつ、いざ、ステージ1-1へヒウィゴーだ。



テッ!↑テテテッ↓テ↑、テテテテーン↑。


BGMがなんか違う…。

まあいいや。操作はボタンを押すこともない。bダッシュもなく、私の思考に忠実だから指でやるよりも何倍もスムーズだ。これは簡単にクリア出来てしまうな。

操作感を確かめた後はただひたすらに右側に走っていく事にする。穴があったらジャンプして飛び越え、敵が居たら踏みつけて倒す。そう、こんな風に…


メキッ…


「きゃあ!!」

敵を踏みつけた感触が私の体にフィードバックされた。確実に顔を踏み抜いて、骨を砕いた音だ。

思わずキャラクターを立ち止まらせてその不快な感覚を感じていると、踏み抜いて倒したはずの敵が瀕死で私に語りかけてきた。


「痛い…痛いよ…!俺、死んじまうのか…!助けて、助けて…!死にたくないよォ…。怖い、怖い…!死ぬの、怖いよお!!!」


助けて欲しいと懇願するク◯ボーは8ビットでも分かる血の涙を流しながらフルボイスで語りかけてきた。

いや、やりづらいわ!


「所詮はキノコ王国の裏切り者。死ぬ覚悟もない半端者が俺の前に立ちはだかる事自体、間違いなんだよ。そのまま野垂れ死ぬんだな…。」


マ◯オは帽子を深々と被りク◯ボーに背を向ける。

いや、会話するんかい!と、思ったがこの声、何処かで聞き覚えが…。と後ろを振り返ると、ニヤニヤと私の後ろでアテレコしている凛子が私に内蔵されたカメラに写った。

お前がアテレコするんかい!と思わず大きな声で突っ込むと凛子はテヘペロと拳を頭に当てて舌を出す。

ちょっと可愛いなおい。


「あ、そうだ。踏んだ敵はハンドガンでサクッと撃ち抜いた方が良いですよ。ゾンビになって襲ってきますから。」


しれっと彼女はとんでもないことを口走る。


「ハンドガン!?ゾンビ!?なんだそれ!」


バイオハ◯ードか何かかよ!!

とツッコミを入れたいが白目を向いて血だらけになったク◯ボーがこちらに向かってくる。


「きゃああ!ハンドガン!ハンドガンどこ!?」


あまりに怖い絵面に半泣き状態でハンドガンのコマンドを探す私。ない、ない。ポケットを漁ってもない!


「アイテムのサブ射撃コマンドからハンドガンを取り出してください!」


彼女の的確なアドバイスで私はアイテム欄からハンドガンを取り出す。オーバーオールのおっさんはそのハンドガンを構えると画面が暗転した。


「なになになに!?故障!?」


急な出来事に思わず声を荒げてしまった私はビクビクと怯えながら凛子に質問する。


「いえ、これは射撃イベントですね。」


少なくとも、マ◯オでは聞いたことないイベントが発生しているようだ。


画面が明るくなると目の前には8ビットではなく完全CGの、しかもやたらヌメッとしたゾンビク◯ボーがノソノソと私に近付いてくる。そう、私に。いやこれ…


「横スクロールから急にFPSに切り替わったんだけど!」


しかも私はゲームに直接リンクしているため、ほぼそこにいるような感覚だ。というかもはやそこにいる。


「大丈夫!こめかみに銃弾を1発ぶち込めばこのイベントは終了しますから!」


何が大丈夫なのかこの女は。部屋で自堕落に好きな事だけをやって過ごしていた私がハンドガン使いこなせるわけないだろ!だがやらなきゃ進まない…というかゾンビめっちゃ怖い!!だが、所詮はゲーム!ええい、ままよ!


私は恐怖心と不安感を抑えて発砲した。目を瞑ってしまい狙えなかったが運良くゾンビの頭に命中したらしくゾンビはうめき声もあげずに死んでくれた。

しかし、私の手に残ったこの感覚…。銃を撃った感覚がひどく手に残った。なぜか感じる火薬の匂い、引き金の引いた感触…発砲の瞬間の反動…


「ふー…!ふー…!」


泣きそうになる気持ちを必死に抑えながら私は射撃イベントを終えた。



気を取り直してゲームを進めるも、先ほどの展開がトラウマ過ぎて敵を踏めない…。私からすればもう敵全員が◯ン◯ンやドッ◯ンにしか見えないよ…。敵をできるだけ避け、断末魔を聞かないようにしていると急に画面がフリーズした。


「また!?まさかまた射撃イベント!?」


慌てふためく私を見て見かねた凛子は落ち着いた面持ちで告げる。


「いいえ。大丈夫です。これは一定時間敵に触れないと起こる仕様でして…」


彼女が説明の途中で画面は軽快な音楽と共に復活する。


テレレレレー↓テッテッテテテーテレレレ、テッテッテテテーテレレレー


『あ!やせいの ク◯ボー が しょうぶ を しかけて きた!』


いやポケ◯ンーーー!!

色んな要素詰め込み過ぎだろこのゲーム!!

凛子のやつ、なぜ私の時代のゲームをこれほどまでにピンポイントで詰め込めるんだ。


ここで選択肢が表示される。



たたかう たたかう


たたかう たたかう


「戦うことを強いられすぎでは!?」


選択肢と言う名の強制だこれは。

戦わなければ生き残れない。ってか。

仕方なく一番左上のたたかうを選択するとこちらの持ち技が表示される。


射撃 ピストル

銃 引き金をひく



「結局射撃イベントかよ!!じゃあこの演出要らなかっただろ!」

言葉が違うだけで意味合いは全部一緒だ。

ここからの展開は分かる。どれを選んでもまたFPS画面で射撃しなければならないのだ。

そこで私は1つ気付いてしまったのだ。


このゲーム、恐ろしくテンポが悪いのでは?


「長く遊んでもらうための仕様ですから。」


凛子は私の思考を読み取り付け足すように一言添えてくる。


1-1の3分の1でこんなに時間かかるとは流石にびっくりだ。


今度は私も腹をくくり射撃を選択。

案の定FPS画面に移行してサクッと敵の頭を撃ち抜いた。すまない。私のクリアの犠牲になってくれク◯ボーよ。



紆余曲折あり、ラストステージクリアだ。ここまでの所要時間、およそ2週間。

人工知能の私は疲れなど感じるはずもないはずだが、凛子には


「戦場に赴いた一般兵士みたいな顔をしている」


と言われてしまった。

ちなみに当の凛子は今日は予定があるから。と私を研究室に1人置き去りにして行った。


ただ敵を殺すためにひたすらと銃を撃ち続け、命乞いをする相手に対して慈悲もなく、確実に殺す。

情を持たず、効率のみを重視して目的に従事する。

本当に、私は機械になってしまったかのようだ。


時として、撃った敵の子供が親を守ろうと私の前へ飛び出す事もあった。

しかし今の私はその子供さえも撃ち殺す事も厭わない。

それはいずれ私の前に立ちはだかる敵になってしまうかも知れないからだ。


しかし私はただ悪戯に殺しをしている訳ではない。

目標があるのだ。


この戦いを、終わらせること。

ラストステージまでクリアして、これ以上の犠牲を出さないこと。


私はその為にこのゲームをひたすらに続ける。

殺すのは、必要な犠牲なのだ。

殺すたびに私は凛子に問いかける。


「あと何回敵を殺せばいいの?」


凛子の返答はだいたい決まっている。


「さあ…。敵の数はコンピュータの乱数を使ってますのでなんとも…」


最近では


「ラストステージまであともう少しですから!あと一踏ん張りですよ!」


初めは、彼女の善意が嬉しくて始めたこのゲーム。

いつの間にか私の罪を償う場となっていた。


ラストステージはク◯パとの一騎打ちとなっていた。


しかし、このク◯パ、名前がク◯パというだけで容姿はまるで異なっていた。その姿はまさに人間。

亀の甲羅を背負ったサングラスの極悪人ヅラの男だった。

私はこいつを殺さなければならない。

元はといえばキノコ王国の住人を魔法を使って洗脳して生まれたのがク◯ボーなのだから。

私は自分の手で殺したク◯ボー達の為に、こいつを殺さなければならない。


さあ、勝負といこうか。


マグマの海の上にかかった橋の上で見つめ合う私とクッ◯。

先に動き出したのは私。拳銃を二丁取り出してクッ◯に乱射する。

その狙いは的確で正確だ。しかしクッ◯もラスボスなだけあって一筋縄ではいかない。

スーツのポケットに手を突っ込んだまま、私の弾丸を糸を縫うかのようにスルスルとくぐり抜ける。

余裕の笑みで私を嘲ると右手をポケットから取り出して来るなら来い。と挑発のポーズを取った。

安易な挑発に乗ることは無い。しかし、モタモタしている余裕もない。相手がまだ私を舐めている間がチャンスだ。


私はクッ◯と距離を詰めようと走り出す。

すかさずクッパはさせまいと私に拳銃で発砲を繰り返す。

しかし私は前から迫る弾丸を避ける、コンバットナイフで弾くを繰り返し確実に距離を詰めて行く。

どこからかクッパはタチャンカを取り出して私に目掛けて発射する。流石にこれを弾くことなど叶うはずもない。ならば避けるしか方法はない。右に?左に?無理だ。FPS視点のくせに横スクロールの踏襲で左右には動けない。だが私はマ◯オ。スーパーマ◯オだ。

その最大の特徴は…。

「ジャンッップだあああ!!」

自分の身長の3倍近くの大ジャンプ。

クッ◯も呆気に取られたようで、たじろぐ。私はそれをチャンスだと、落下速度を上げる。

足裏をクッ◯に向けてはクッパを射程圏内に入れた。

ク◯ボー達の恨み。全てを込めて私はクッ◯にキックを放つ。渾身の一撃を放ったクッ◯に私は背を向け、私は勝ちを確信した。

クッ◯は一瞬時が止まったかのように立ったまま動かなくなり、そのまま爆発したのだった。


長かった戦いがようやく終わり、クッパの死体を確認して、私は当初の目的である囚われたピー◯姫の元へ駆け寄る。


そこで私は目を見開いた。今まで一度も目にしたことがないこのゲーム内でのピー◯姫。目の前にいたのは…。


「お疲れ様でした。アイさん。ゲームクリアです。おめでとうございます!」


そう、凛子だったのだ。テンション高めに拍手をしてくれる凛子はなんだか本当に嬉しそうだ。

自分の作ったゲームで自分を助けてもらう。なんというマッチポンプだろう。

思わず私は苦笑いしてしまった。


「助けてくれてありがとう♪私のマ◯オ♪」


駆け寄ってくる凛子は、お礼と言わんばかりに私の頰にキスをした。

なるほど。これがゲーム内でのご褒美になるのか。

これをご褒美だと思える辺り、凛子はよほど自分に自信があるみたいだ。…ああなるほど。自分でこれを見たくないから今日は居ないのか。自分で作っといて、恥ずかしいは恥ずかしいのか…。


そして凛子姫は言葉を続けた。

「さあ、エンディングですよ。王国に戻りましょうこの後は、あなたに記念トロフィーが贈られますからね。トロフィーはもし2周目をする際、好きなステージから出来るものです!」


2周目…か。ゲームだし、そういう要素もあると思っていた。だが、私にそれをやる気力など残っているはずもない。というよりかはやろうとも思わない。

だから私は…


「私は王国には戻らないよ。凛子は王国に1人で戻ってくれ。敵は…みんな殺したから、安全な道なはずだから。」


その言葉を聞いて凛子姫は戸惑っていた。


「ええっ?で、でも…そうじゃないとゲームは終わらないですし…。」


おろおろとした凛子姫をよそに私はハンドガンを取り出した。

一番最初に敵を殺した武器だ。後半になるにつれて出番は減ったが、私はこの日のためにずっと装備していた。


「凛子。このゲームは終わりさ。でも用意された終わり方じゃない。私が、私の手で終わらせるんだ。」


凛子姫は訳が分からないという表情でこちらを見ている。私は凛子に銃を向けた。


「…。」


凛子姫はフリーズする。そりゃそうだ。こんなシナリオある訳がない。

予期せぬ事態でNPC枠の凛子姫は処理しきれずフリーズしたんだ。

私はそれを確認して安心した。

私は、規定の路線から抜けることができたのだと。



そして私は自分の頭にハンドガンを突き付ける。


「これが、トゥルーエンドだ。凛子。」


引き金を引くと目の前が暗転した。


暗闇の中に文字が浮かぶ。

そして、マ◯オのマークの横に書いてあった×1の文字が×0になったのだった。



そう、ゲームクリアで残機0。マ◯オは、もう居ない。



「…なるほど。規定エンディングから外れて、ゲームクリアしてるからコンティニューも出来ない状態を作ることで矛盾を発生させてゲームデータを破損させてこのゲームをなかったことにした訳ですね。」


帰ってきた凛子に事の顛末を話した。

最初こそ驚いていたが彼女なりの解釈で納得した様子だ。


「まあ…最後まで遊んでくれて嬉しいですけど…危ない考えですね。自分も死ぬだなんて。」


もちろん、これはゲームの中でだけだ…と思う。

強く反論出来ないので私は苦笑いしか出来なかった。


「私も調子に乗ってダークな部分を強く出しすぎましたね…。凛子さんがそこまで思い詰めてたのを気付かず調子に乗りすぎました。すみません。」


まあおそらく悪戯心は入っていたであろうが、大元は私を楽しませたいという一心だ。誰がそれを責められようか。それに…


「気にしないでよ。なんやかんや言ってたけど、楽しかったよ。私の時代のゲームの要素を取り入れてくれたりして、凛子の気持ちはすごく伝わったからさ。」


そう。大事なのは気持ちなのだ。凛子が私を想ってくれていたのはよく伝わっていた。

いくら凛子のマイクロチップが万能でも300年前のパロディだなんて調べないと出てこない。彼女なりに色々調べて詰め込んでくれたのだろう。ゲームを、進めるたびに織り込まれているさまざまなゲームのパロディが、彼女の思いやりなのだと進めていくうちに分かっていった。ダークな部分は…ほぼ彼女の趣味だろうけど。


「ねえ凛子、1つお願いがあるんだけどさ。」


きっと私の顔は少し赤いだろう。なんてったって照れるからな。


一緒にゲームがしてみたい。だなんて。


しかし私がお願いを言う前に凛子は私の思考を読み取ってしまった。


「あら、まあ…もちろんですよ。私でよければ。」


凛子はひとつ返事でOKしてくれた。


言葉を紡がなくても分かってくれるのは楽だが、思考を読まれるのは丸裸にされてるみたいで恥ずかしい。まあ人工知能だから服は着てないんだけどさ。


「じゃあ今度私のオススメのオンラインゲームがあるので、それをやりましょう。」


凛子は私にそう言ってニコリと微笑んだ。

ん?待てよ…。


「この時代にゲームはまだあるのか?」


「そりゃあありますよ。小説や漫画は規定のストーリーに準拠しますがゲームは操作することに意味があります。アクション系のゲームはまだ健在です。」


さも当たり前のように語る彼女に私はため息をついた。




最初から、それで良かったじゃないか…。


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