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人工少女と自惚れ学者  作者: トム
1/2

プロローグ

「なんて素敵な世界なんだ。」


私は薄暗い部屋でスナック菓子を頬張りながらいつも他人と自分を比較し、優越感に浸りながらそう呟いていた。


受験を避け、中学を卒業後、就職するわけでもなくただひたすらに家で引きこもってはゲームに興じ、アニメを観ては妄想を膨らませる。所謂ニートである。

父は世界的なIT企業をたった一代で築き上げ、貧困とは無縁の大金持ち。

両親共に私を溺愛し、私がニートであることに何一つ口を出さない。黒い魔法のカードまで与えられちゃって私に手に入らないものは無かった。

これぞ究極にして最高の環境。ストレスとは一切無縁の生活。まさに人生の勝ち組。世界一の幸せ者だ。

私はこの生活が一生続くと思っていた。

まあ正確には一生は続いたのだが。

自慢話を聞いてくれてありがとう。

私はAI。あなたは?

……そう。

___________


あなたのパーソナルデータを作成しました。

まあとりあえず、これからよろしく。

___________



2318年、人工知能で人間を再現することに成功しました。

人の脳から発せられる微弱な電気をスーパーコンピュータの中で生成し、周波数、電気量を調整することで記憶、人格を生成。まるで新しい人格の人工知能を作ることも出来れば、過去に亡くなった人間を再び人工知能として蘇らせることも出来るんです。

私は、その技術の生みの親、旭凛子と申します。そして、唯一その技術を使う権利を持つ人間なんです。

その記念すべき第一号の人的人工知能は、AIちゃん。

AIと書いて「アイ」と読みます。彼女のモデルは私の勤める研究室の支援をしてくれている最大手IT企業SEVOLの初代社長の娘さんである愛さん。

若い頃に亡くなった愛さんを惜しんだ初代社長はこの技術の開発を強く望んでいました。それから300年という月日が流れ、社長は亡くなられましたが、その望みを遺書に遺し、SEVOLは我々の研究資金の全面協力を今の今まで貫いてくれました。

そのため、遺書にあった通り、愛さんを初めての人格を持つ人工知能として作り上げたのです。

いやあ。我ながら感心する頭脳ですね。


「なるほどね。だいたい事情は分かった。私が人工知能…。にわかに信じられないんだけど、この有様を見ると信じるしかなさそうだ。」

長年の月日をかけて完成したAIさんに私はこれまでの経緯を事細かに説明していた。


画面には生前の、死んだイカみたいな目をしたボサ髪のだらしないAIさんの顔がコンピュータに映し出され、自分の体をマジマジと見つめる。体と言っても、生前の愛さんの身体データを基にしたグラフィックに過ぎませんが。


「どーせグラフィックならリアル志向じゃなくてもっとおっぱいを盛ってくれてもよかったんじゃあないの?」


小さく小ぶりなその胸を摘んでは不満そうにこちらを見て軽口を叩く彼女は明らかに自分の立場が分かっていません。


「要望は貴女のお父様の遺書にある最低限で済またので。文句があるならお父様に…。やれやれ。いいですかAIさん。貴女にはこれからやってもらう事が山積みなんですよ。この世紀の発明を世間に発表したり、新たな研究の実験になってもらったり…」


人差し指を立て画面のAIさんに指を押し付ける。

そんな事をされても実際に口を封じることは出来ないのに「むぐっ…」と口を紡ぐAIさんはどこか天然で可愛らしい。


「そ、そんなの横暴よ!勝手に死者を呼び覚ましておいてこき使うなんて!」


AIさんのアバターが腕を必死に振って抗議しています。ピーピーピーピー喚いてうるさいですね。エラー音か何かなのでしょうか。


「貴女を現世に呼び戻したのは貴女のお父様の遺書にそう書いてあったからです。

そして…貴女のその後の待遇については特に何も書かれてませんでした。それってつまり…私の好きなようにしていいって事ですよね?」


にんまりと眼鏡をクイッと上げてとびきりの笑顔で笑いかけてあげます。


「めっちゃ悪い顔してる!!」


ようやく自分の立場を飲み込めたのか少し怯えた表情で私を非難します。全く、悪い顔だなんて人聞きの悪い。私は、私はただ…


「私は純粋にAIの可能性を探るだけですよ!」


___________________


こうして、高飛車人工知能の少女とうぬぼれの強い科学者の私の取り留めのない、日常が始まるのです。


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