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レディ・シャーロットの幻想事件録  作者: 橘 千秋
Case1 連続令嬢駆け落ち事件
5/9

令嬢たちの消失 ⑤


 学園での情報収集……と言っても、十日以上も前のことだ。生徒たちの記憶は薄れ、正確性にかける。さらにイゼット学園の生徒は箱入りのお嬢様が多く、日が暮れ始めてから街に繰り出すようなお転婆は少ない。


 結果、学園での情報収集は難航した。



「ねえ、ハンナさん。十一日前の放課後……学校を出てからリディアに会わなかった?」



 もう何度生徒たちにしたか分からない質問を同じクラスのハンナにする。



「シャーロットさんとリディアさんがカフェに誘ってくれた日ですよね」


「ええ。あの後、家の用事が急にできて、カフェには結局行けなかったの」


「次の日からリディアさんずっとお休みしていますよね。風邪にしては……長い気がします」


「ええ。質の悪い風邪にかかっているだけだとは思うけれど、もしも何か事件に巻き込まれたらと思って……」



 シャーロットを除いて、リディアに最後に会った生徒はおそらくハンナだ。何か情報があればと思ったが、彼女は申し訳なさそうに首を振った。



「ごめんなさい。教室で別れた後、街には行かなかったのでリディアさんには会いませんでした」


「……そう。ありがとう」


「でも心配ですね。あの……変な噂もありますし」


「噂って?」



 シャーロットが疑問符を浮かべると、ハンナが周りの目を気にしながらそっと耳打ちをする。



「最近は貴族制度も見直されて、平民でも出世しやすくなったでしょう。そのせいか、身分という意識も低くなったようで、その……令嬢が駆け落ちすることが多くなっているようなんです」


「……駆け落ち」



 シャーロットの胸がドクンと跳ねる。


 ハートリー家のメイドたちによると、リディアは使用人と駆け落ちしたと言っていた。しかし、シャーロットはそれを認めたくはなかった。



「あっ、別にリディアさんが駆け落ちしたとは思ってませんよ。でも、結婚で悩まれていたのかもしれないなって。気丈に振る舞っていても、本当は愛する人と逃げたくて仕方なかったんじゃないかって……」


「……リディアの悩みに気づけなかったのだとしたら、わたしは友人失格ね」


「だ、大丈夫です! きっとただの風邪ですよ。用心して長く休んでいるだけでかも。意外と、お家の中で暇しているのかもしれません」


「そうね……きっと」



 リディアが風邪ではないことをシャーロットは知っている。慣れない愛想笑いを浮かべながらハンナと別れると、シャーロットはジョンの運転する車で大通りへと向かう。



 学園での情報収集には期待できない。故にシャーロットは、方向性を変えてみることにした。


 リディアの実家は成金と揶揄されるほど裕福で金払いが良く、王都の大通りにあるような店にとっては上客だ。当然、彼女の顔は真っ先に覚えようとするだろう。


 シャーロットは学園の生徒たちに人気の雑貨屋に入ると、店主の男にリディアの特長を説明する。



「探しているのは、18歳の女の子です。肩で切り揃えられた紅茶色の髪に藍色の瞳で、私より背の低いです。十日ほど前にこちらに来ませんでしたか?」


「ああ、あの金払いの良いお嬢様だな。来たよ」


「どんな様子でしたか?」


「どんなって……いつも通りだったぜ? お付きの兄さんに大量の荷物を預けて、優雅に買い物だ。友だちとお揃いで付けるんだと、ちょっと大人っぽいデザインのペアブローチを二つ買っていったな」


「……ブローチ」



 リディアは結婚、シャーロットは就職。学園を卒業すればふたりはまったく違う環境で生活することになる。そうなれば、今のように頻繁に会うことは難しいだろう。


 だから、リディアはふたりでお揃いの物を買いたいと言っていた。異なる環境でも、歳を取ってもお互いに身につけていられるようなものがいいと……。



「そうですか。ありがとうございました」



 シャーロットは丁寧にお礼を言うと、店の前に止めていた車に戻る。



「……確信したわ、ジョン。リディアは駆け落ちなんてしていない」


「これからどうするんだ?」


「もちろん、ハートリー卿に会いに行くわ! ジョン、彼のいるところへ車を走らせて」


「仰せのままに。俺のシャーロット」



 ジョンは口角を上げると、ハートリー家へ車を走らせた。





 ハートリー家ではいきなり現れたシャーロットの対応でてんやわんやしていた。


 当主は不在だといくら言っても「ハートリー卿がいるのは分かっています。お取り次ぎをお願いします」の一点張りなのだ。高位の令嬢ということもあり、追い返しにくい。


 シャーロットは何食わぬ顔でそれにつけ込み、ハートリー家の応接室でひとり紅茶を飲んでいた。



「お待たせいたしました、シグルズ公爵令嬢。どうやらメイドとの行き違いがあったようで、私が不在だと思っていたようです。申し訳ありません」


「謝るのはわたしの方です。先触れを出さずに屋敷へ来てしまい、申し訳ありませんでした」


「リディアのお見舞いですかな。生憎ですが、まだ体調は戻っていないようでして……」


「嘘はやめてください、ハートリー卿。リディアは風邪なんて引いていません。だって、この屋敷に十日以上も帰っていないんですから」



 確信めいた顔でシャーロットが言うと、ハートリー卿の目が細くなる。



「……メイドが言ったのですか? 彼女たちはお喋りが大好きで、よく話を大袈裟にします」


「リディアがいない。それは純然たる事実です」



 重ねてシャーロットが言うと、ハートリー卿は柔和な態度を消し去り、国一番の銀行の頭取らしい威圧感のある表情を浮かべる。


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