ベースボール in 賽の河原
〇賽の河原
打席に立っている前川が大きく空振りをする。
審判のアウトという声の後、へらへらした表情で前川はベンチに戻る。
入れ替わるように、諏訪が打席へと歩いて行く。
前川「おっす、お疲れ」
斎藤「おっつー」
田辺「いやー、あっけなく三振しちまったわ」
斎藤「見てた見てた。お前、手抜いてただろ笑?」
田辺「しょうがないだろ。だって、このゲームが始まってからもう三日も経つんだぜ。中だるみもするわそりゃ」
斎藤「まーそりゃぁな。気持ちはわかるわ。正直、ホームラン打とうって本気になってんるのなんてさ、今打席に立ってる諏訪くらいだろ」
田辺「そりゃ、最初の方はやる気あったけどさぁ。相手ピッチャーが強すぎんだもん。ちょっとくらいこっちにレベルあわせてくれてもいいのにな」
前川「アクエリ、冷えてるけど、飲む?」
田辺「おっ、サンキュー」
田辺がアクエリアスの入った水筒を手渡す。
前川は水筒を受け取り、それを飲む。
斎藤「いつまで俺たちこんなくだらないことやってるんだろうな。いくら親より先に死んだからって、こんなことやらされる意味がわかんねえよ」
田辺「ま、いいじゃん。よくある話じゃ、親より先に死んだ子供は石積みを延々とやらされるんだろ? それと比べたらましだって」
斎藤「そうだけどさぁ」
カキンという快音。
前川「お、いい当たり」
田辺「あー、いや。全然伸びない。ライトフライだわ」
斎藤「惜しいなぁ。さすが立川ベアーズの四番だ」
前川「あ、ライト、落とした。ヒット」
田辺「おいおい、そんなの関係ないだろ。ホームランじゃないとダメだっていうルールなんだから」
前川「まあ、そうだけどさ、あっち側もエラーするんだって思って」
田辺「次、斎藤だろ? 諏訪と変わって来いよ」
斎藤「俺じゃないって。前川だろ?」
前川「そうだっけ? ま、別にいっか」
バットを手にし、前川は打席へと歩いて行く。
斎藤が大きくため息をつく。
斎藤「はー。こんなことなら、座席通り2号車のバスに乗ってればよかったなぁ」
田辺「お前、二日前もおんなじこと言ってたぞ」
斎藤「何べんだっていってやりたいわ。だって、結局人が死んだのは、俺たちが乗ってた2号車だけだろ? 全く、ほんとついてねえわ」
バットを持ったまま、ベンチへ帰ってくる前川。
斎藤「あれ、諏訪とチェンジじゃないの?」
前川「いや、今調子がいいから、変わりたくないってさ」
田辺「俺たちの中でホームラン打てそうなのはあいつくらいだしな。期待期待」
斎藤「おっと、俺だって一応、ベアーズ不動の二番バッターだぜ。そこを忘れてもらったら困るっての」
前川「でも、斎藤って、試合でいっつも送りバントしてるイメージしかないわ」
田辺「あー、言えてる。監督も、斎藤のバントはいっつも褒めてたな、そういえば」
前川「次の打席さ、試しにバントやってみてよ」
田辺「お、いいなそれ。久しぶりに見てみたいわ笑」
斎藤「しょうがねえなぁ。じゃあ、いっちょバントでホームランを狙ってやりますか」
真剣な表情でバントのジェスチャーをする斎藤。
前川と田辺は愉快そうに笑う。
前川「そういえば今日って、あと何時間で終了?」
田辺「さあ、あと一、二時間じゃね」
斎藤「ま、今日も無理そうだな。また明日頑張ろうぜ」
カキンという一際甲高い快音。
田辺らは一斉にグラウンドへと視線を向ける。
諏訪が打った球がぐんぐんと飛距離を伸ばしていく。
田辺「お、今日一の当たり」
斎藤「おー、飛んでる飛んでる。飛んで、飛んで……え、入った?」
田辺らはお互いに顔を合わせる。
田辺「入ったよな」
前川「入ったね」
斎藤「入ったな」
田辺「え? じゃあ、これで終わり?」
斎藤「わかんねぇ。打った諏訪もなんか呆然と立ち尽くしてるし……」
田辺「ちょっと俺、聞いて来るわ」
田辺がベンチから立ち上がり、ゆっくりと相手側ベンチへと歩いて行く。
諏訪は審判に促され、バットを地面に起き、ベースを走り始める。
斎藤と前川は田辺と諏訪を交互に見つめる。
田辺が斎藤らが待つベンチへ戻ってくる。
田辺「なんか、これで終わりだって」
斎藤「あ、そうなの?」
田辺「なんか、各自の荷物を持って、あっちの桟敷近くに集合だってさ」
ベンチに置いていた荷物を整理する三人。
諏訪は二塁をまわり、三塁へと走っている。
田辺「あ、諏訪の荷物ももっていってやらなきゃ」
前川「この白のボストンバックだっけ」
斎藤「それそれ。じゃあ、いっちょホームベース近くで出迎えてやろうぜ」
田辺「あー、やっと終わったー」
三人は各自の荷物と諏訪の荷物を持ち、ホームベースへと歩いて行く。
(終)




