ハルトレント / はじまり・2
「はあ…」
くそダサい【若葉の服】を装備。広場っぽいところに。
つまりこの姿を晒すってことだ。いや、もう晒している。正確には5分前から。
一通り見ても広場っぽいところは、冒険者ギルド本部と噴水の間のここしかなかった。場所は間違ってないはずだ。
でもさっきから、ある人は温かい目で、またある人は同情的な目で、また別の人からは可哀そうなものを見る目で見られる。
(うわぁあの子【若葉の服】着てるー)って言ってるのも聞こえた。会話公開範囲を調整せずわざと聞こえるように言ってるとしか思えない。
(初心者じゃねーか。お前行けよ)なんて聞こえたから、情報も場所も間違ってはいないと思いたい。
そもそも幸恵は嘘なんて基本的には言わないはず。最後についた嘘は前回のエイプリルフールだったからその辺のモラルはきっとある……のか?
勝手に人のケータイいじって着信音は変えるし、パスコード変えても何故かすぐにバレるし。
本当に不思議なのは、いつだったかテキトーなパスコードにしたら私もわからなくなったとき。
幸恵の見えるとこにケータイ置いといて、私は席外して。戻ったら着信音が変わってた。
んで「41200だったよ~」なんてまったりと言って。
◇
このダサいカッコを晒し始めて10分経った。
もう私は十分頑張った。なのに未だ声をかけてくれる勇者であろう人はいない。
周りに十何人かいるのに、こっちチラって見ながらヒソヒソ話してるだけで誰も来ない。
もうきっとやめていいはずだ。でもここから離れたところでどこで着替える?
くそダサくて目立つかっこだ。周りに人もいる。ここで着替える?その着替えた後の服で分かる。移動して着替える?十二分に顔バレしてる。もういっそ一からアカウント作り直すほうがいいのか?
「あのースミマセンが」
いやもう少し勇者を待ったり?
「あのー」
タイミング悪かったか?
「俺の声聞こえてます―?」
勇者来たれり。
ナイスだ。ちょっと?微妙に?ゴツめな優男で、ちっちゃい女の子はオジサンって呼びそうなお兄さんPC。
「あ。すみません、今気づきました。」
「良かった。設定間違ってるかと思いました。あ、自分の奴のです。」
丁寧。好感度アップ。
「そうですか、ありがとうございます。声かけてくれたのも。」
「いえまぁコッチにもちょいあったので」
照れくさそうに笑うお兄さんPC。かわいい。好感度アップ。
「えとソレ、【若葉の服】着てるってことは初心者だよね?付き添い誰かいないの?」
「今日から友人とやるつもりだったのですが、その友人が予定を忘れてドタキャンで。一人で始めて一人でここまで。」
「あらら」
「チュートリアル後、最初に多分ここでこの服でこうしてれば良いと言ったので」
「間違ってはいないけど初めたてでソレさせるって結構な友人だね」
「多分そういう友人で間違ってません」
やっぱり幸恵は幸恵だった。でも知らない人からこう言われるって結構じゃないの?
会話が数秒止まる。ここで私から聞いてみる。
「それでここで何があるのですか?」
「え~と、多分パーティー組んで教えてもらえでイイと思うよ。他にもあるけど話聞く限りきっと」
「なるほど。」
他にもある が気になるが今は別にいいか。もしかしたら幸恵はそっち目当てかもしれないが。
今はとにかく、この親切なお兄さんPCを狙う。
「良ければキミ、一緒にパーティー組まない?今日だけでいいから」
おう先に攻められた。でも断る必要もない。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。それでお兄さんのお名前は?」
「言ってなかったっけ?そもそも見えない? って初心者か、分からねーよな。俺はロナトナン。ちなみに名前はココ」
このゲームの惜しいとこまだあった。開示される情報の位置と色が。分かるか。見えねーよ。
ロナトナンさん、ソードマンのレベル78か。
って周りの人ちょっとザワってした?今気づいたけどロナトナンさんと話してから人数減ったみたいだけど。
「あ、私はハルトレントです」
「ハルトレントね。長いからハルでいい?」
「別にかまいませんが」
「ハル、後でオプションからいじっといたほうがいいぞ。使い辛いから」
「ありがとうございます」
「さて、パーティー組むならもう一人くらいは入れたいが。ハルはそれでいいか?」
「よく分からないのでお任せします」
「そうか。そんじゃ失礼」
「スミマセーン!初心者付き添いパーティー誰か入りませんかー!?」
ロナトナンさんは大きめな声でそう言った。
そしたら割とすぐに、
「わたしやります」
って女性の声がしたと思ったら、周囲の人も空気もピリって締った。
何となくロナトナンさんを見たら、あちゃあって顔してた。
やってきた女性PCは茶色いポニーテールで見た目は十代後半くらいか?
名前は……『ナナト』さん。ソルジャーの93レベか。
誤字・脱字などありましたら教えてください。