正義と悪は大抵、知り合い
「最近、恐喝事件、闇サイトによる詐欺が多発しております」
「最近のヤクザ、暴力団は巧妙な手口です」
ここは警視庁。住民の詐欺対策による講義を行なっていた。
「そこで今日は特別講師。警視庁、”特別警官”を勤める鯉川友紀さんに来てもらいました」
「どーも」
呼ばれて出てくる、鯉川友紀という婦警。彼女の登場に講義を受けるまだ若手の警察達は驚いていた。
「あ、あれが噂の”特別警官”の1人。鯉川か」
「若っ、可愛い」
「俺達と歳に差はねぇのに、警視庁の重役を任されてるんだよな」
「ただの身体能力のみで犯罪者を悉く捕まえている、戦いのプロ。女でも、今の俺達が束になっても敵わねぇらしいぜ」
警視庁、”特別警官”。組織の中でも、非常に特殊な人材に与えられた地位と称号であり、鯉川の場合は高い戦闘能力に特化している。凶悪犯罪や重役の護衛、警察という強い武の象徴も兼ねた者。
……あれ?そんな彼女が、こんな講義の先生で大丈夫なの?
「ぶっちゃけ、私。実践専門なんで、プロの方に来てもらいました。沙耶ちゃーん。来てー」
本人、自覚があって言っているのか。それとも、パイプを繋げるのが役目だと思っているのか?
鯉川に呼ばれて、次に入って来たのは。鯉川より小柄ながらも頬に生々しい火傷を持ち、威圧感と来たらこの場で誰よりも凶悪。そんな彼女はそれでも気だるげ。
「あのさー、鯉川……」
「紹介するわ。この子。山寺沙耶ちゃん。鵜飼組の、”用心棒”のお1人。餅は餅屋ってね!本物を連れて来ました!!」
…………………
「ちょっと待って。今、鵜飼組って言った!?」
「暴力団関係のトップじゃねぇか!!その幹部を連れてきたの!?」
「そいつを捕まえろよ!!」
講義する側じゃなくて、講義される側になっとる……。
しかし、鯉川はど天然なのか。ボケてるのか。
「実は沙耶ちゃんは、私の後輩でーす」
「そんなのあんまり重要じゃねぇ!!」
「っていうか、後輩にどんな指導したの!?なんでヤクザ家業に行かせちゃったんだよ!止めろよ、先輩!!」
「もーっ、そんなに騒がないの!じゃ、沙耶ちゃん。お願ーい」
講師として呼ばれてるのに、別の講師役をご用意
「うっせ。馬鹿」
沙耶ちゃん。律儀に来たけど、
「僕はこの手の事に詳しくないぞ。それと、人に教えるなんてできない」
「えーっ?なんのために来たの?」
「お前が僕達を呼んだんだろ!?」
沙耶ちゃんは溜め息をつき。鯉川がこーいうアホな先輩である事を見抜き、講師を呼んでいた。
「おい。朱里咲。出てこい。お前、教師だろ。教えるのは上手いだろ」
「やれやれ。沙耶が言うもんだから、何かと思えば来てやったが」
沙耶に呼ばれて登場したのは、木見潮朱里咲。鯉川と沙耶と違って、ちょっと年齢がヤバイ感じの。まぁその、年齢が乗ったお姉さんといったところか。
「紹介しよう。僕と同じく、鵜飼組の幹部を務める婆だ」
「沙耶。お前な、自分が若いからって、婆にならねぇと思ったら大間違いだぞ。それとな、警察の若いの諸君!私は言いたい。良い就職先だからと言ってな、この場にはイケメンが少ないと思うんだ!私はな!それを上の連中に抗議しにきた!それと鯉川、婦警だからってミニスカ止めろ。ムカつく。20超えてミニスカとか恥ずかしくない?」
「ちょっとちょっと。沙耶ちゃんも朱里咲さんも、何しに来たの?」
お前が言うな。鯉川!!
つーか、どんな説教と講義!?朱里咲の言葉、今。漢字が違ったよね!?
「私はお前達の先生もできるが、詐欺関係はそこまで詳しくない。私も沙耶も、鯉川と同じく武力がメインとなっている。格闘技ならお前達が死ぬレベルで教えられるんだがな。残念」
いやだから、あんた達。なんでこんなグダグダやってんの!?今日のテーマ、詐欺対策なんですけど!
「だが今度は確かに!本物の詐欺師の連中に来てもらった。鵜飼組自慢の諜報部隊。大野鳥!入って来い、お前達全員がやれ!」
「はーい」
あれ?警察だよな。俺達。今、こいつ等を捕まえた方が詐欺対策になるんじゃない?
「大野鳥夜枝です」
そうして入って来たのは、これまた美人な女性さん。鵜飼組って女性ばかりの組織なのかと、ちょっと鼻を伸ばしてしまう警察官達。あんまり悪い奴等でもないのかもしれない。
しかし、
「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」「大野鳥夜枝です」
…………………
あのっ
「大野鳥夜枝です」×40
何人、同じ人間がこの部屋に集まって来てるんだーー!!?どーいうことこれ!?
「朱里咲さん、まだ部屋に入れない大野鳥が沢山いるんですけど」
「そうか。1人に対して2人の講師をつけるビッグサービスをしてやろうと思っていたんだが」
「警察の数ぐらい把握しとけよ」
「あはははは、聞いてなかったー」
というかこの人数を、何事も無く警視庁に連れてきちゃう当たり、どーなってるんだこの組織。警察もだけれど!
そーいう疑問を一掃してくる。最後の講師、大野鳥夜枝。その1人が壇上に立って、皆に伝える。
「私達は近日、電子マネーを利用したポイント詐欺を始めるので、警察の皆さんはこーいう対策をしてください」
詐欺手口を警察に売り込み始めたーーー!?
そりゃ詐欺の手口を編み出すより、対策を講じる方がよっぽど難しいけど。
「警察の信頼を買ってあげるのが、我々の務めでもある」