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第二八番隊  作者: 鱗田陽
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荒んだ荒野⑤

 集まった情報を前にして、第二八番隊の三人は顔を突き合わせていた。何だか事態があらぬ方向へと向かっているので、白鳥が慌てて話し合いをしよう、と提案したわけである。

 だから言いだしっぺの白鳥が咳払いをして、話を切り出した。

「ここまでの捜査内容を総括すると、犯人は恨みがある人間。しかも背の小さい」

「それじゃあ多すぎるな」

 と河津が言うと、平野も首を振った。

「無自覚のうちに恨みを買っている可能性もある」

「ええ、僕もそう思います。ただ――」

「今一番の容疑者はあの息子だ」

 と重要な部分を平野が言った。

 あの事件の日、政子の家の周囲に不審な人影はなかったそうだ。前日、あの界隈に住む夫達は、近く迫った禁裏の祝い事の準備のため、誰一人として家にいなかった。早く帰ってきた者で日が出たあとだというのだから、政子の殺害時刻にはいなかったことになる。

「問題は、夜のうちに誰かが来なかったということです」

 今のところ政子の殺害時刻は、夫が着替えるために一時帰宅した宵闇の頃から、死体が発見された日の出後までの時間だと考えられている。

 この間、あの事件現場に誰も立ち入り出来なかったと分かるのは、この日のために自警団が夜通し見回っていたからだ。

 さすがに全ての屋敷に夫がいないと分かっていたら、盗賊や、もしくは金に困った連中が押し掛けるかもしれない。それを防ぐために、近所一帯の若い衆が何組かに分かれて、ちゃんと見張っていた。一晩中煌々と火を焚いていたことも分かっていて、それがより一層、一人の少年に嫌疑を向ける材料となっているのである。

 白鳥は頭を抱えた。まさか八歳の子供を疑うことになるとは思いもよらなかったからだ。

 一体どうすればいいんでしょう、と河津を見ると、彼は怖い顔をして平野に視線を向けた。見られた彼女の方は現場周辺の地図に視線を落とし、自警団の連中の巡回経路や、もしくは駐在所の場所を確認している。

「どうですか……?」

 恐る恐る尋ねてみると、地図を見ていた平野は深々と溜息をついた。

「嘘をついたことといい、今回の件といい、ここに連れてくる理由になるとは思うがな」

「あの子供が人を殺したとお思いですか?」

「今のところはな。恨みもあるし、犯行も可能だ。しかし問題は、凶器をどこに処分したのか、ということだ」

 平野はそこで言葉を切り、朱色の墨汁で一筋の道を描いた。それは犯行現場から惣太の家までを辿る道のりで、平野はこれを指差して、その鋭い視線を白鳥と河津にそれぞれ振り向けた。

「何の取っ掛かりもなく、あの男の名が出たとは思えない。当日の状況を再現するならば、この経路は使えるはずだ」

「平野さんは?」

「私はあの子供の聴取を行なう」

「でも――」

「役目を変わってもいいが、完璧に職務がこなせないのなら相応の罰は受けてもらうぞ」

 なんて言われてしまっては仕方がないので、白鳥と河津は不承不承、番所を出て、指示された通りに道を辿ることにした。

 平野が指示した通り、この屋敷の正門から外に出た。今は昼間だから明るいが、事件当時、日も出ていない頃であったら、屋敷の門柱に付けられた提灯以外の明かりは無かっただろう。

「……こっち、ですね」

 地図をぐるぐると回し、的確な位置を見出すと、白鳥と河津はゆっくりと歩き出した。一つ、二つ、と数を数え、三つ目の角で左折。それからまた二つ隔てた角を右折。それから真っ直ぐ歩き、四つ目の角でさらに左折。

「……たどり着いたな」

 まあ、地図の通りに歩いたのだから目的地につかないとおかしいわけだ。

 しかし、平野が示した経路は、事件当時、人目が無かったであろう、と予想される道のりなのである。

 それは本当に偶然だった。自警団の連中も、あとになって指摘されて気付いたほどだ。あらかじめ提示されていた巡回経路と時間を勘案した結果、日の出の時刻に一度だけ、人目のない一本道が出来上がるのであった。

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