峠の宿屋-ファストガネス-
少年エミルは生まれ育った町を追放された
まだ10歳の子供なのにである。
ただ、魔王になりたいという夢を願っただけなのに
それほど勇者の町というのは闇が深いのだ
「もう町には戻れないか・・・
とりあえず道なりに進んで商業の町ガネスに行くしかないな」
少年にとって初めての一人旅が始まった
ファストタウンからガネスまでの距離は大人の足で1日程度
子供の足ではそれ以上かかる
エミルにとっては家族で買い物をするために馬車を使って移動した事しかないので
冒険初心者のエミルには正直この距離がつらいのかどうかさえ分からないが
ただひたすら歩いていく
いまのエミルにはそれしか出来ないのであった
「さすがに疲れた・・・」
半日ほど歩いたがあまり進んだ実感がない
ただ永遠と同じような景色の峠道を歩いていると疲労の他に飽きもくる
「こういう時フローラはいつも励ましてくれたっけ・・・」
ふと、幼馴染の優しさを思い出し涙がこぼれてきた
泣きながら歩いていると峠の先に宿屋が見えてきた
「もう、疲れた・・・休みたい・・・疲れた・・・休みたい・・・」
10歳の少年がそう弱音をはきながら、宿屋へ向かおうとしたが
健闘むなしく力尽きて途中で倒れこんでしまった
~1時間後~ 峠の宿屋-ファストガネス-
「エミル!エミル!!」
「嬢ちゃん、余計な心配しなくても大丈夫だ
疲れているだけだからゆっくり休ませてあげようぜ」
「はい・・・ありがとうございます」
エミルが倒れる前に見た宿屋に医者風な男と幼馴染のフローラの姿があった。
フローラはエミルが寝ている間に宿の手続きなど済ませて医者風の男と
エミルを部屋に運んだりと忙しかったためかエミルのベットに寄り添いながら眠ってしまった
「ここはどこだ?」
目が覚めたら、ベットの上にいたエミルは戸惑う
体中が痛い、特に足がひりひりする。
それと同時に手を誰かに握られている事に気が付く
「フローラ!」
不安ばかりの一人旅にひと時の安心感が生まれた
「だけど、なんでここに?」
「うん、それはね・・・」
フローラはあの晩に自分も親と旅に出ることを相談し断られたこと
だけど、エミルが実際に旅立った事でいてもたってもいられなく
ちょうど町を出ようとしていた馬車に乗って旅に出たこと
道で倒れていたエミルを見つけて、馬車に乗っていた青年と助けたことを説明した
「ありがとう、フローラ・・・」
「私も会いたかったよ、エミル!」
幼い二人は肩を寄せ合い泣きじゃくる
「若いのにお熱いね~」
と言いつつ、廊下で一部始終を見ていた医者風の男が
二人の邪魔をしないように立ち去る
翌日、体力の回復したエミルたちは医者風の男が借りた馬車を使い
ガネスへと向かうのであった。