旅立ち
ファストタウンは勇者の町
そんなファストタウンも夕方から暗闇が忍び寄る。
「ふふふ、そろそろ暗黒に包まれるな・・・
闇が広がれば我の力も増幅し、まおうに一歩近づく・・・」
少年エミルは痛い子であった
夜間に広がる暗闇の量などほとんど変わらないのに
毎日夜になると力が増幅していると勘違いをしている。
「エミル!ふざけてないで急がないと怒られるよ」
エミルと一緒に行動していた少女がエミルを叱責する。
少女の名前はフローラ
エミルとの関係は年が同じで家が隣という
典型的な幼馴染ポジションである。
「わかっている!急ぐぞ!!」
そう言って自分たちの家に帰宅するのであった。
ちょうどその頃
ファストタウンで約100年ぶりに勇者が誕生していたのであった。
勇者に選ばれたのは少年クロノス
年齢は10歳でエミルとフローラの幼馴染である。
性格は優柔不断で引きこもりがち
しかし剣術や光属性の魔法が
ファストタウンの誰よりも秀でていたため
勇者として選ばれたのも納得である。
「エミル、クロノス君が神様から勇者に選ばれたそうよ!!」
帰るなり、驚くことを聞かされたエミルは家の外に飛び出し
クロノスの家に向かう。
同時に隣の家からフローラも飛び出してきたので
二人でクロノスの家に向かうことにした。
「光が・・・すごい・・・」
フローラがクロノスの家から溢れる光に圧倒される。
クロノスの家に着くとクロノスとその両親と町長が
光に包まれた女性と話をしていた。
「どうやらあの人が神様みたいね・・・」
「だな・・・」
エミルはあまり驚いていないようだ
実は半年前にこの女神に会っていた。
クロノスが勇者に選ばれるのもその時に知っていた。
そんなエミルの所にクロノスと女神がやってくる。
「まさか、貴様が俺よりも先に選ばれていたとはな!」
「あぁ、だが俺は勇者の力よりまおうの力が欲しかったからな」
「エミル・・・クロノスもどういうこと?話についてけないよ!」
フローラが困惑する
仕方がない状況だが、内容は単純だった。
半年前にエミルが女神から勇者の信託を受けていたのだが
エミルは勇者に興味がなく、むしろ魔王になる事を望んでいたので
次の候補を探す事になっていたとの事だった。
「エミルよ、魔王になりたいというのは本当か?」
エミルが事情をフローラに話している間に
クロノスの家から来た町長がエミルに問いかける。
「あぁ、そうだよ町長」
「もしかして、6年前の事をまだ引きずっているのか!」
エミルは無言で町長を睨んだ
「6年前の事ってよくわからないんだけど・・・
だけど、魔王になったら勇者のクロノスと戦うんじゃないの?」
「あぁそうなるな・・・」
「貴様!そんなに俺が嫌いだったか!」
クロノスが今にも襲い掛かりそうな勢いでエミルに迫るが町長に制止される
「慌てるでない!クロノス!
エミルよ、ここは勇者の町じゃこの意味わかっていようぞ?」
「あぁ、半年前に準備は出来ている」
「そこまでの決意なら致し方ない、今日は一度家に帰り休むがよい
じゃが、一度家のドアを出たらこの町の住民ではなくなる、よいな?」
「時間をくれてありがとう、町長・・・、それでいい」
そう言うとエミルは家族に事情を話すため家に戻るのであった
フローラを含めほとんどの町民は話の内容に戸惑い呆然とするだけであった。
それから3時間両親といままでの経緯などの話やいくつかの約束をして
村を出ることの納得をしてもらった。
AM5:00両親と決めた出発の時間
エミルは寝ることは出来なかった
母親はいつも通り朝ごはんを作っている
いつも通りの朝だ
「おはようエミル」
「おはよう母さん・・・時間だから行くよ・・・」
「そうね・・・これだけでも持っていきなさい」
そう言うと回復薬とお金とサンドイッチをエミルに渡した。
家を出て町の入り口に到達すると父親が立っていた
父親は何も言わず、冒険者だったころに使っていた剣をエミルに渡した
「大事にしていた、剣を・・・ありがとう、父さん」
見送りは二人だけ
そのままエミルは旅立つのであった。