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花鳥風月

作者: 丸と罰

 人工的な光が鮮やかな色彩を放ち、まるで夢の中にいるような風景を演出した。そこは遥か昔山だった場所で、今は大きな公園だった。夜になると、イルミネーションが七色に輝き、公園を光の王国へと誘う。

 我はその景色を見てもなんとも思わない。人間たちはクリスマスの時期になると、必ずこの仕掛けを施している。誰が考えたのかも分からない。何のためにあるのかも分からない。もしここに、山があったら人間たちは見に来るのだろうか。我には見当もつかない。ただここまで晴れやかな表情を山に作れるのかと言ったら微妙なところだ。

 男と女は接吻をした。抱き合い、腰に手を当て、笑顔を見せた。木々が風に揺られ、葉っぱが舞った。鳥たちは煌びやかに光る街頭を避け、凍えるような夜空を旋回した。

 パシャア、パシャアと音がする。スマートフォンを片手に写真を撮る女の子グループだ。その子たちに声をかけるチャラチャラとした男たち。それを見ることしかできない男性二人。更にその光景を見て、指を指して笑うカップル。

 警察官はあくびをして、辺り全体を見渡した。レシーバーであれやこれやと連絡を取り合っている。白い息が煙のように漂う。むろんここは禁煙だ。

 人の集まるところにろくでもない輩が現れるのはこの世の性である。投げ捨てられた空き缶を誰も拾おうとしないで、人工的な光に目移りしている。その空き缶を蹴って、子供が笑った。その親は子供の手を引っ張って、空き缶から遠ざけた。

 我は複雑な心境だった。イルミネーションを否定し、自然の風景の方が美しいと決めつけるのは簡単だ。しかし、我は知っている。この景観ができるあがるまでに流れた汗と涙を。人間は些細なことに本気を出し、些細な幸せを提供する生き物だ。そして、些細な満足感を得て、今までの苦しみや辛さを乗り越える。

 今宵も人間たちは笑顔だ。この景色こそが我にとって、花鳥風月である。色落ちない人々の破顔に感慨を覚え、我は今日も俯瞰する。

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