其の一
感想、評価大歓迎です。ドッロプアウトした場合もどのあたりか記入していただければ今後の作品作りの参考になります。モラルの範囲内での辛口コメント期待しています。
「あー女臭え!!」
「女臭えってなんだよ」
「わかんねえかな女くせえんだよ」
「だから説明してくんなきゃわかんねえよ」
「いるじゃん女臭い女って。エステ行ったとかネイルしたとか洒落た店でランチしたとかブログに載せる女。自分は女として生きて女らしい暮らししてます、みたいなの」
「それが何?」
「うぜえって話よ」
「ふぅん、わかるような…いややっぱわかんね、何がダメなの。そういう人いるとは思うけど毛嫌いするもんじゃないだろ」
「はあ~」
深くため息を吐くコウタ。
「落ち込むなって悪かったよ共感してやれなくて」
「そうじゃねえよ、何俺こんなくだらねえこと力説してんだと思ってよ」
「まああれだ、オマエはそういう不満をぶちまけたかったわけだ。それじゃあ行こうぜ叫びにさ」
「女臭えことしてんじゃねえよ!!こんちくしょう!!」
カキーン
「なあ叫びに行くっつったら普通カラオケとかじゃねえか」
「俺カラオケそんな好きじゃねえし、あんな狭い空間で何時間もって気がおかしくならね」
「それもそうだけどさ」
「それに換気の悪いとこだと前の客が吸った煙が滞留してんだぜ」
「おまえ変なところで想像力働くのな」
「少しはスッキリしたか」
「どっかに女臭くないいい女いないかな」
「いるぜ、なんなら行くか今から」
「「ウォー!!」」
「なんで女子プロなんだよ」
「ここの団体中規模だから結構当日券取れんだよな」
「そんな情報どうでもいいわ」
リングの上で揉み合う選手たち。
「いっけぇ、そこだぁ」
「おまえ筋肉趣味だったのか」
「どちらかというとスポーツに打ち込んでる女がいいんだよ。あの迸る汗、いいなあ、タオルで拭ってやりたいぜ」
「健全な意味で言ってんだろうけど誤解を招く発言だな。お前の性癖がノーマルなのは知ってっけどさ」
「リコー!!そこだいっけぇ!!」
「リコ?どの選手だっけ」
パンフを見るコウタ。
「あれ?そんなリングネームの選手いないけど本名かな」
「リコそこだ、そう、そこで、膝を固めろ!」
選手の動きを洞察するコウタ。
「リコってのはあっちのヒールの方か。しかしすげえ濃いメイクだな、まるで妖怪だなありゃ。わざとやってんだろうけど」
「いい!!凄いいい、輝いてるなあ」
隣でスポーツ少女を懸命に応援するノボル。
試合後 楽屋
「リコ、おつかれ~」
リコに飛びつこうとする男。ボストンバッグでどつかれる。
「ベタベタするからくっつかないで、ただでさえ試合終わりで汗が気持ち悪いんだから」
男に構わずシャワールームへ。数分後、バスタオルの上にローブをまとって出てくる。
「シゲ兄また観に来たの?応援してくれるのは嬉しいけどあまりリコって叫ばないで、リングにまで聞こえてるよ」
「ごめん」
そっとリコの頬に触れる茂。
「また痣増えたね」
「仕事だからね」
「リコは母さん似で顔立ちも悪くないからあんなメイクしなくてもいいと思うんだけど」
「私はアイドルみたいな売り方はしたくないの、女でプロレスやってんだからパフォーマンスで評価されたいのよ。それともシゲ兄は私の写真集とかが見たいわけ?」
「そうじゃないけど。はぁ、小さい頃はかわいいって評判で男子にも人気あったろうに」
「そのかわいい妹に日々プロレス技仕込んだのは誰よ」
男子便所
鏡面の前で鉢合わせるコウタと茂。
「選手の関係者の方ですか」
「え!?」
戸惑う茂。
「いや、リコって名前の選手名簿に載ってなかったから身内の人かなって」
「え、いや、あの」
(余計なこと言うと後でリコに叱られるしな)
「素朴な疑問なんですけど身内でしかも女性がプロレスしてるってどんな感じですか、しかもヒール役」
「なんでヒールって知ってるの」
「応援内容から察すれば」
「あはは、そうか」
「連れは相手の選手応援してたけど俺はヒールの子の方が好きだな」
「そ、そうなんだ」
「あの人スッピンは結構キレイでしょ?」
「!?」
「あのメイクは女を捨てるためいや楽屋に女を置いてくるためのものなんだろな、ついでに顔の痣を隠すと」
「凄いね君、なんでそこまで…」
「あのリング場での男でも女でもない人として生死を懸けてるぞって感じの目、ゾクッと来た」
「妹なんだ」
「へっ!?そうなんですか」
「君は名前は?いやなんでもない」
「三景ですけど」
「あの…黙っててね、ほら、キャラ作ってやってるから素性とかバレるとさ…」
「かっこいいですよねぇ、言いませんよ誰にも」
「それから!!これからも妹のファンでいてね」
街中
買い物中の茂とリコ。リコは眼鏡とマスクをしている。
「これ変装してるみたいで嫌なんだけど」
「仕方ないよ、花粉症なんだから」
「けどさぁ」
正面から歩いてくるコウタとノボル。
互いを見つけ足を止める二組。
戸惑う茂、しばし考えるコウタ。
「ん、知り合い?」
「ん、そう。ノボル、先店行ってて挨拶してくるから」
歩み出すコウタ。
「さきビール飲んでるぞ」
数歩後ろで手を振るノボル。
「こんばんは」
「ども…」
「シゲニ…兄さん知り合い?」
「ん…ん…うん…」
目配せで何かを伝え合うコウタと茂。
「そう、俺プロレス好きでさ以前行った試合でお兄さんと意気投合しちゃってそれからの友人なんだ」
「う、うん…」
「ふぅん」
「おい、コウタ」
店に行ったはずのノボルが戻ってくる。
「いつもの店臨時休業だってよ、どうする」
「あ、こっち俺の友達です」
「どもっす。ん…お姉さんどっかで会ったことないっすか、目元に見覚えが結構頻繁に」
(おまえそんなに頻繁にプロレス行ってんのかよ)
「マスクしてるしモデルさんとか?」
「ああ、あれだよさっき話してたんだけど俺達と通勤電車一緒なんだってさ、時間も。それで既視感あんじゃないかな、俺らと同じで自販機のそばで待ってるって言ってたし、ねえ」
「え、あ、ええ」
「それと彼女花粉症だってさ」
「!?」
コウタには一言も伝えていない。
「そっか、そうだ俺たちこれから飯行くんですけど一緒にどうすか。こいつの知り合いなら歓迎っすよ」
「ダメだよノボル、二人は買い物の途中らしいから」
「そっかそいつは残念だ。そんじゃまた」
電車の中
「で、あの人に全部言っちゃったんだ」
「言ったのは妹ってことだけ…彼凄いんだよ、リコがメイクしてるわけとか全部わかってた。はじめて観に来たって言ってたのに」
「シゲ兄口軽いもんね」
「ごめん」
「けど、ひとりふたりに知られても大丈夫でしょ、あの人言いふらすようには見えないし」
「うん、そう思うよ」
「あ~女臭え!!」
「また言ってんのか、今度はどうした」
「ハシダのやつが俺好みの可愛いタレントがいるからって言うからブログ覗いてみたら、今日はブティックで自分にご褒美とか○◯◯ちゃんとお洒落なカフェでランチとかそんなんばっかなの、げんなり」
「そっかそっか、で、顔はどうなんだ」
「かわいいよ、けどダメ。容姿百点女臭さマイナス百二十点でナシだわ」
「おいおいなんだよそりゃ、人は顔より中身っつうけど大半の人間綺麗なもんには目がないだろ」
「「美しさつっても一通りじゃないだろ。すべすべの肌、艶のある髪だとか肉体美、様式美。色彩美…女臭さっつうのはその美しさをダメにするもんだ」
「おいおいガキどもそんなことで騒いでどうすんだ。好みの女を探すのも結構だが自分を好いてくれる女を大事にすれば自ずと幸せになるもんだ」
「バツ五に言われてもなあ」
「先月入籍したての新婚だよこっちは」
「六回目!?よく飽きないなおっさんも」
「よっぽどどこかしかに欠陥があるんだろうよ」
「こちとら向こうが持ってくるグリーンペーパーに望み通りサインしてやっただけだ」
「けどよ見方を変えりゃ六回も結婚できるってそんだけもててるってことだよな」
「こんなおっさんのどこがいいのかね」
「そりゃやっぱあっちが凄いんじゃねえか」
「あっちか、相当凄いんだろうな。六回だもんな、六回」
「変な勘ぐりはやめな、俺は至ってまともだ。そういや俺の馴染みで固い仕事やってる奴がいたんだがどこ行っても評判のいい野郎が息抜きの女遊びが祟って全部失っちまってな」
「全部?」
「全部さ、嫁も家族も持家も預金もおまけに仕事もな。近所じゃ人気者だっただけに一気にどん底さ」
「で、その人その後は」
「あ~なんだ、ヒモやりながら暇つぶしに裸婦画描いてたら賞もらっちまってよ世話になった女に礼した後世界中の裸婦画描くとか言って日本飛び出しちまったよ」
「いろいろと凄いんだなその人」
「三景さん、外線入ってます」
「ああ、はい、もしもし」
「もしもし三景くん塩田だけど妹が大変なんだ」
「どうしたんです」
「体調が悪いって言うから様子見に行ったら寝込んでて、病院に行くように勧めたら寝たら治るって言うから様子見てたら良くなるどころか悪化して苦しみだして、救急車呼んだら肺炎だって」
「今、病院ですか」
「うん、なんか過呼吸でマスクつけて起きないんだ。どうしよう、俺どうしたら」
「ノボル、俺抜けるわ。適当に言っといてくれ」
「おい抜けるって?適当にってなんだよ」
病院
「三景くん!!」
「お兄さん容態は?」
「うん、今は落ち着いててマスク外して寝てるよ、ごめんねわざわざ来てもらって」
「いえ、別に」
リコの様子を伺うコウタ。
「お兄さん顔色悪いですよ、相当疲れてるんじゃ。家近くですか」
「三駅先だけど」
「そうですか…病院の正面にカプセルホテルありますよね、そこで少し休んでください。そのあいだ看てますから」
「けど悪いよ」
「いいですよ、妹さん寝てるし今のうちにお兄さんも」
「ありがとう三景くん、これ僕の番号何かあったら連絡頂戴」
「はい」
椅子に腰掛け窓の桟に肘を乗せ外を見る。
(きれいな顔だな)
「みず……」
「!?」
水差しの水をコップに移しリクライニングを起こす。コップを手渡す。薄っすら目を開けるリコ。視界にコウタが入り混乱してコップを手放す。素早く拾い上げるコウタ。
「!?」
「大丈夫落ち着いて、喉渇いてるんでしょ先にこれ飲んで」
両手でコップを抱え飲み干す。
「三景さん…でしたっけ、関係ないのに兄さんってば勝手に呼びつけて」
「気にしないで、ほら一応ファンだし俺。あ、内緒だっけこれ」
「兄さんから聞いてますよ」
「そっか」
『彼凄いんだよリコがメイクしてるわけ全部わかってるんだ』
「プロレス好きなんですよね」
「前はそうでもなかったけど君の試合見てからね、かっこいいなって」
「かっこいいですか、あんな凶暴なメイクしてるのにですか」
「あれからさ覚悟みたいなものを感じるんだよ」
「まわりからはあのメイクやめたほうが人気も出るし観客も増えるって言われるんですけどどう思います?」
「それは君がどうありたいかじゃないの?リングの上の君が女でありたいのか戦士でありたいのか。そのためのメイクでしょ。女の自分を何処かへ置いてきてまで男でも女でもなく人として勝負するために君はそうしていると思ったけど」
「!?」
「あっ、メールだ。仕事抜けて来たんだった、ちょっと電話してくる。ついでにお兄さんも呼んでくるよ」
メールはノボルから、上司には急に体調を崩したと言ってあるという。
「もしもし、すいません食あたりみたいで。はい、今病院なんですよ」
容易に言い訳は通じた。
茂に電話したところ二三度かけても応答はなく四度目でようやく電話に出た。すっかり眠り込んでいたようだ。
「三景さん、わざわざありがとうございました」
「三景くん本当ごめんね、僕のせいで」
「いいですよ気にしないでください。早く良くなるといいですね。長引くようなら今度は見舞いの品持って見に来ますよ、今日は手ぶらで来ちゃったから」
去っていくコウタ。
「いい人ねあの人」
「本当親切だよね、何回か会っただけなのに来てくれるなんて」
「シゲ兄のせいでしょ」
「そうだけどさ、ごめん」
「でも、ホントいい人」
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