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「ユキ」シリーズ(ファンタジー)

ユキササル

作者: 録宮あまね

 教室の扉を開くと、窓際の前から三番目の蒼井あおいの席に、制服を着た雪だるまが座っていた。

 今は、七月の初め。目をこすってもう一度良く見たけれど、それはやっぱり雪だるまだった。私は雪だるまの前まで行き、更にもう一度良く見ることにした。

「おはよう、かなみ」

 雪だるまは私が前に回りこむ前に、私に気付き、爽やかに挨拶してきた。人間並みに大きいし、何よりしゃべる雪だるまはとても気持ちの悪いもので、私は反射的に何歩か後退った。

「何?」

 怪訝そうな表情で(それはとても人間的)雪だるまが私を見る。途端に冷静さは失われ、

「何じゃなくて、雪だるま!!」

と私は指を差し、大きな声で叫んでしまった。どうして誰も騒ぎ出さないのだろう。明らかにおかしなものが、教室に入り込んでいるというのに。

「もしかして、見えてる?」

 雪だるまは驚いた顔になって言った。

「何、朝っぱらからじゃれあってるわけ?相変わらず仲のよろしいことで」

 近くに居た朋絵ともえちゃんが寄ってきて、ニヤニヤしながら私たちを見比べる。

「朋絵ちゃん!!何言ってるの?この気持ちの悪い雪だるまをよく見てよ!!」

「全然面白くない!!蒼井は確かにユキだけど雪だるまはないでしょ!!洒落かなんかのつもり?」

「ええ!?この雪だるま、蒼井なの?」

 蒼井の下の名前はユキと言う。カタカナでユキ。人見知りの激しい私にしては、よく話す男子で、クラスの中では仲が良い方だと思う。

「ちょっとこっち来て」

 雪だるまじゃなくて、蒼井は私の手を引っ張って強引に教室から連れ出した。朋絵ちゃんはニヤニヤしたまま、ひらりと手を振る。蒼井の(雪だるま‥‥もうどっちでもいい)丸い手はもの凄く冷たく、氷を掴んでいるのと一緒だと感じる。それは長い時間掴まれていたら、凍傷になってしまいそうなくらい。


 蒼井は、私を人目につかない体育館裏まで連れてきた。

「あーー、どっかに刺さってるだろ。落とさないよう気をつけてはいるんだけど、やっぱり駄目だね。たまに勝手に剥がれ落ちる」

「何が?何言ってるの?」

「人間には見えない結晶。刺さってもあんまり痛くないから、余計厄介でさ。刺さると俺の本体、丸見えなんだよね」

「何なの?本体!?貴方、蒼井なんでしょ?蒼井って雪だるまなの?人間じゃないの?」

 質問しか出てこない。混乱している。

「人間じゃないよ。俺、あっちから来てるから」

「あっちって?」

「‥‥‥ま、それはいいじゃん。追々ね」

 そう言うと、蒼井はあからさまに視線を逸らした。


 それから彼は丹念に私の体をチェックして、太ももに刺さっていた結晶を見つけると(私には見えない)素早く簡単に引き抜いた。今まで見えていた不気味な雪だるまは一瞬にして消え、残ったのはいつもの蒼井だった。

「記憶をね、消せるけど迷ってる。こういう場合、否応なしに消してしまうものだけど、俺、かなみが好きだからさ」

 蒼井は、考えるポーズを作って続ける。

「どっちがいいかな?知ったまま俺と付き合うのと、消して付き合うのと」

「私に、付き合わないって選択肢は無いのでしょうか?」

 何故か敬語で、恐る恐る聞いてみる。

「無いよ。知ってしまって付き合わないって言うなら、速攻、記憶消すよ。俺のこと嫌いじゃないはずだし、時間をかければもっと仲良くなれると思うから。俺たち、最終的にきっと付き合うと思うよ」

 蒼井は、呆れるくらい清々しい笑顔で言った。私は、ため息をついた。


「末永くヨロシク」

 蒼井が手を差し出したので、

「とりあえず‥‥‥よろしく」

と言って軽く掴んだけれど、その手はやっぱり吃驚するほど冷たかった。雪だるまの姿の時と変わらない冷たさ。これから本格的な夏がやってくるのに、手袋が必要だと思う。

 蒼井だけじゃないのかもしれない。もの凄く手の冷たい人が居たら、その人も雪だるまなのかもしれない。

 考えたくはないけれど、もしかしたら周りは案外、雪だるまだらけかもしれない。




お読みいただき、ありがとうございました。


続編(別視点)と続編(本編)も掲載する予定です。

本編は、だいぶ後になるかもしれませんが‥‥。

興味のある方は、読んでやってくださいませ。

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