思い上がりと女学生
よくもまあ、あなたはそんなことが出来るものだ。
わかっているのですよ。すべて、あなたはいつも私のことが見たいがために、廊下を行ったり来たりしているのでしょう。見たいのならば、じっと止まって見ればいいのです。
そんなことで、なにも私はあなたのことをきらいになったりはしませんし、そんなにうろうろして、私をちらりと、何度も見るのは、私はどうにも好きではありません。失礼です。そんなことは嫌いです。
もっとも、卑怯ではありませんか。男らしく、私を食事にでも誘ってみなさい。返事はどうだか、果たして、閉口してしまいますが。
「男らしく」、今ではこんなこと言っては、それはもう、ジェンダージェンダーと
矢鱈に、叫ぶ方がおられるかもしれませんね。いや、この話題に、その問題は関係しません。
私は、ただ、ちらりと何度も見られることが気にいらないのです。
そもそも、あなたは、私をどれだけ知っているつもりなのでしょうか。
私の名前はご存知? 私の趣味は? 私の誕生日は? 私の性別すら、はたして、あなたはご存知?
言っておきますけど、私ははあなたのことなど、てんで、知ってなんかいませんよ。私は、或いは赤の他人に見られるのが、気に障るのかもしれませんね。
ほら、今もそうやって、ちらりとだけ見てるのだ。せめて、目線をはずすなら、わからないようにしなさいよ。
さっきから黙っていないで、なにか少しくらい、うんでもすんでも言えばいいではないですか。まるで、私が幻覚にでも話しているみたいではないですか。
――ええ。
――名前? 私はまゆみです。
――いつも私の隣にいるめがねの女の子の名前?
....自惚れていました。ごめんなさい。
女学生はただ赤面したのであった。