運命という名のラズベリージャム 4
「何だよ、オメーまた来てんのかよ」
むっ、何よ、また来てんのかよ、って。
でろり、とカウンターに寝そべっていた私はがばっと起き上がり、キッと睨んだ。
「いいじゃない、また来たって、まぁちょっとはお店に迷惑かけてるかもしれないけど、大人しくしてるし」
私が女だからって、イチャモンつけて来る人は少なくはない。
でもそんな人は無視しちゃうもん。それになによりオネエが庇ってくれるもん。
「まぁ、ここに来るって事はオトコがいないって証明してるもんだよな」
哀れなもんだよ、と鼻で笑いながら一つ間を開けてカウンターに落ち着く。
ムッカー!何よ哀れってっ
確かにオトコはいませんよーっだ。
本当の事だけに何も言い返せないから、ブーっと膨れて睨んだら、ふふんと鼻で笑われた。
ムッキー!何よっ、その態度!
「あら、仲が良いのね。妬けてきちゃう」
オトコ、早瀬大地の前には置いたのは、私と同じハイボール…じゃなくて、ただのジンジャーエール。
背が高くて男前のクセに、唯一の欠点が、酒に弱いのだ。
ケーッケッケッケ、ざまぁみろ。
カッコ良くてモテるはずなのに、こういったバーで男を口説く事もできないのだ。
まぁ、潰れてた客であるコイツに手を出すオネエもオネエだけどね。
何で知ってるかって、私その場に居たもん。
見るからにオネエ好みの良いオトコが座った目で酒を頼んでグラスの半分も飲まない内に潰れちゃって、大丈夫かな?って思ってたら、遅くなるといつもオネエのウチに泊めてくれたのに、今日に限ってダメって言われて、タクシー代掴まされて追い出されたんだもん。
あの時、彼の行く末を祈らずにはいられなかたわ。
でも、フタを開けてみると…
私が心配しなくても、いや寧ろ私の心配しろよって位ムカつくオトコだった。
その上、何時の間にかラブラブなバカップルに成り下がりやがっていた…
店にいる時はそんなにベタベタしてなくてこれまた普通な感じだけど、店を一歩出たら、目も当てられないわよ。
後ろからついて行く私の身にもなってくれっていつも言うけど、鼻で笑われる始末。
キー!ムカつく!!
思い出したらムカついてきた。
何か言ってやらないと気が済まん!と意気込んでいると、オネエがカウンターから身を乗り出してヤツに耳打ちしていて、ヤツは私の顔を見てニヤニヤしている。
あぁ、みっちゃん好きそう…
BL好きな友人のみっちゃんこと山本美智子はこのバカップルのこういった場面を見るためだけに月一でこのバーに通っている。
彼女の隣にいると、「今の場面を写真におさめたい!」とか、聞いているとお酒を吹き出しそうな言葉をブツブツ呟いているのだ。
いつも、自分の中のカメラだけにおさめといてください、って言ってるけど。
まぁ、それが彼女の活力になってるっていうなら何も言わない。
彼らの一挙一動にワーキャー言っている彼女を見て、そう思う事にしたのだ。
にしても、
…嫌な予感がする。
アレだ、アレ。私がほんの一瞬忘れていて、一生思い出したくない、例の石黒くんの話をしているに違いない。
コイツだけには知られたくなかった。
でもオネエがいるかぎり無理な話なんだよね…
もう本当、勘弁してほしいよ。
二人に何と言われるか、げんなりしながら残りのハイボールをあおった。