運命という名のラズベリージャム 3
「よっっ、このゲイ殺し!!」
ニヤニヤと笑いながら、私の前にハイボールを置く男、いやオネエ。
「それ、おかしい、私は今までゲイにもてた事ない」
カウンターに突っ伏したいが、ハイボールが置かれちゃったから仕方がない、私はグラスを手に取った。
「あら、あの子ってシン君でしょ、シン君って言えば知る人ぞ知る、よ」
あれ?石黒君ってシンって名前じゃないよね。
「あんた、この界隈じゃ本名を名乗らない人は結構多いわよ」
「へーそうなんだ」
そういえば、オネエもこの店じゃ『アキラ』って名前だし。
本当のオネエの名前は『高塚竜義』っていうとっても男らしい名前を持っているのよね。
納得しつつ、オネエに作ってもらったハイボールに口をつけた。
土曜日の夕方、まだ店は開店していないが、無理矢理店に入る私。
そんな私を、仕方がないわね…と受け入れてくれるオネエ。
「で、そのシン君は知る人ぞ知るなの?」
石黒君て、けっこう可愛いからこの辺じゃ有名なのかな?
「あの子はね、魔性のゲイなのよ」
「…は?」
なにそれ、どこぞのBL漫画みたいなネーミング。
「ノンケをその気にさせるのは当たり前、受けだった子もタチにさせるほど魅力的らしいわよ」
「はぁ」
「本当にいい男ばっかりが引っかかって…それであの子をめぐって毎日何人もの男があの子を泥沼の取り合いをしているらしいのよ」
「へぇ」
本当に羨ましいったらありゃしない、なんて呟かれても、どういう返事をしたらいいの分からないわ。
というか、石黒、社外でもそうなのか!
「でも半分くらいはデマよ、やっかまれて言われた嘘に尾ひれ背びれでそうなったみたい。でも本人は気にしてないみたいね」
「ふーん」
オネエはどこからそんな情報を仕入れてくるんだか…
「あの子ってば、ウチの店に来るときはいっつもかっこいい男付きでね、本当にかわいいのよねぇ…」
ほうっ、とため息をつきつつシナを作る。
因みにオネエは『リバ』と言ってリバーシブルで受けでもタチでもいける人らしい。
聞きたい訳でもないのにベラベラと話すオネエのせいで変に詳しくなって、とっても嫌だ。
男同士の閨を詳しく知って何か良い事あるのか!と、私は言いたい。
私の某BL好きな友達は喜んで聞くだろうけどさ。
オネエと私の付き合いは、高校までさかのぼる。
同じクラスで隣の席になったのが始まり。
何だかんだ気があって、だからって好きになるとか付き合いだとか思うことのない、純粋に気の合う友達だった。
優男で女子にもてたオネエ。でも誰も相手にしなかった。
その理由を知った時は本当にショックだったな。
高校生だったけど、好きな人とか、もちろん付き合っている人もいない私には同姓を好きになるって事がよくわからなくて、
「そうなんだ」
と言ったけど、どうしていいのかわからなかったんだよね。
それでも、オネエはオネエ。どこかが変わる訳じゃない。そう思ったら、ショックは軽減された。
「まぁ、あんたも相当よ。こんなところに一人で来て酒かっ喰らってんだから」
「そうかな~」
だって、こんな所にお店構えるオネエが悪いんじゃん。
それに、ここはどの店より安心だもん。
こんな所とは、知る人ぞ知るなその道の人にはメッカと呼ばれる場所。オネエと同じ様な人がウヨウヨいる。
そんなメッカ的な場所に店を構えたオネエは、やり手なのだとか。
ヒトヅテならぬゲイヅテにきいたんだけどね。
お、我ながらウマイ!
…
気のせいじゃなければ最近、現実逃避することが多くなった気がする。
そう思いながら、本気でどこかに行ってやろうかと、カウンターにだらりと寝そべった。