サトウさん
「貴方はサトウというお宅をご存知ありませんか?」
見知らぬ男性が、私に話しかけた。
それは黄昏時。買い物帰りのとこだった。 ありふれたサトウの姓に思い当たる家をしらない私は、分かりませんと答えたのだ。
「そうですか、実は僕サトウなんです。どうやら道を間違えたみたいで。自宅までの帰り道が分からないんですよ」
男性は困っているようだ。道は人通りの少ないところだし、冬も近いので肌寒い。このような夕方だとなおさらだろう。
少しでも力になれないかと考えた私は、あることを思い付いた。
「覚えているところまで行ってみましょう。○○地区内ならなんとかわかります」 私の提案に、男性がありがとうございますと感謝の言葉を述べた。
知らない人について行ってはいけないということを忘れた訳じゃない。それを言ってしまうなら、困っている人に優しく出来なくなってしまう。
そうして、私はサトウさんについて行った。
しばらく歩いて踏切まで来た。
日が沈んでしまった後なので、随分暗い。 先を歩くサトウさんが立ち止まった。
「ここから先は、自信無いんです。」
私はまだ分かる道だった。しかしこの先の情報がないならば、住所を聞いてタクシーなりで送るしかない。タクシー代が困ったな。サトウさんは荷物を持ってないようだ。おそらく財布も。
あれ?
サトウさん、なんでこんなに寒いのに半袖なんだろう。
「寒くないんですか?」
思い切って訊ねると、サトウさんはゆっくり振り返った。
「あなたが 次の サトウさん 」
ぐちゃぐちゃに崩れた顔の サトウさん が、そこにいた。
全国のサトウさんごめんなさい。