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9 ふふ……。フィル様もまだ、お若い


『せえぜえ頭数そろえとけやデス! 皆殺しマス!』


 などと大見得を切ったルノンだったが、ベッドに飛び込むと秒で寝落ちした。

 ガアガアとすごい寝息を立てている。

 昼間の大立ち回りもあり、疲れがたまっていたのだろう。


 どうもベッドを使うのは初めてらしい。

 フィル、これなぁに? と尋ねられて驚いた。

 11、2歳くらいだろうか。

 この歳でずいぶん過酷な暮らしをしていたらしい。


 俺は赤毛まじりの黒髪をさらりとなでた。

 獣人族は髪が細くて毛量が多い。

 ふわっふわのさらっさら。

 ああ、たまらん……。


 俺も疲れた。

 おもてなし(・・・・・)に警戒しつつ、まぶたを閉じた。

 そして、日付が変わる頃、物音で目を覚ました。


「……」


 なんか、レイピアを持った老執事が宙に浮いている。

 蜘蛛の巣に引っかかった虫みたいに。


 俺は目ヤニとよだれを拭った。

 ベッドを出て、上着を羽織る。

 爆睡中のルノンの鼻をつまむと、ンゴ、と変な寝息が出た。

 寝顔は天使だ。

 うんと伸びをしてからマヌケのところに向かう。


「バトラオ、だったか? 寝起きドッキリはうまくいきそう?」


「お、おのれ……。動けぬ」


「あっそ」


 俺は両手をこすり合わせた。

 左右の手を離すと、指から指へ、あやとりみたいに光る糸が伸びる。


「これは俺の特技でね、『魔力糸操作』っていうんだ」


 魔力を糸のように引き伸ばす技術。

 もとは魔法の織物を作るために使われていたらしい。

 俺は糸目だからなのか、魔力糸操作が超得意。

 粘度や強度を自由自在に操れる。


「これを見えにくい色にして部屋中に張りめぐらせておいたんだ。蜘蛛の巣みたいにな。俺を仕留めたいなら部屋の外から砲弾撃ち込むのがオヌヌメだぞ?」


 しゃべっているうちに目が覚めてきた。


「じいさんが俺を消しに来たあたり、やっぱりヒエルフォーナ殿下暗殺の首謀者はクッコロア家なんだな。弑逆とは大胆なことで。『灰色コウモリ』のアッシュファーデンですら主君に手をかける真似はしないぞ」


 俺は薄ら笑いを消してから問うた。


「殿下はご無事なんだろうな?」


「口を割るとお思いで?」


 バトラオは開き直った様子だ。

 俺はひとつため息をこぼした。


「じいさんは俺より詳しいだろう? この世界は命が軽い。空気の比重より軽いから、みんなポンポン天に召される。俺だって何人も手にかけている。だが、無差別ってわけじゃなくてね、殺しに基準を設けているんだ」


「ほう。わたくしはその基準で言うと、どう裁かれるのでしょう?」


「答え次第だな」


 俺はバトラオの喉笛に2本指を突き立てた。


「じいさん、剣を捨てて隠居しろ」


「お断りします。この身この命はクッコロア家に誓いを立てたその日から、わたくしのものではありませぬゆえ」


「くっ殺せ、ってか?」


「その通りでございます」


 俺は魔力糸を引き絞った。

 糸が食い込み、衣服の裂け目から血が伝い落ちる。

 バトラオは顔色を変えなかった。

 俺はにんまり笑って顔を覗き込む。


「じいさん、皇族殺しは大罪だぞ。九族誅殺って言葉、知ってるだろ? 露見すれば一族郎党皆殺し。あんたの孫娘も斬首のうえ、さらし首だ」


「てめえ、ふざけた口を利きやがる」


 獰猛な獅子が吼えたようだった。

 内心ぶるりつつ、俺はにたりと笑った。

 上まぶたに力を込め、――開眼。

 バトラオは闇の中で光る赤眼を見たはずだ。


「じいさん、殺気が強いし、そっちの口調のほうが似合ってんな。でも、アッシュファーデンは恫喝じゃ動かねえんだよ。俺らを舐めてんじゃねえ。なんなら今ここで孫の首ねじ切ってサッカーボールにしてやろうか? あァ?」


 俺はかねてより練習していたチンピラボイスでうなった。

 事実、アッシュファーデン家を動かしたいなら、金を積むか、有益な情報はなしを持ちかけるしかない。

 ウチはどこまでも現金なのだ。


 しばし、睨み合いが続いた。

 まあ、勝敗は俺が起きた時点で決まっていた。

 バトラオは震える唇から重い息を吐き出した。

 ごとり、と音を立ててレイピアが床に突き刺さる。


「ヒエルフォーナ殿下でしたら、シュヴァリッタお嬢様が廃坑にお連れしました。そこでなら、何が起きても外には漏れませぬゆえ」


 つい先ほどのことです、とバトラオは付け加える。

 俺の勘じゃ嘘はない。


「シュヴァリッタお嬢様は殿下暗殺の事実をご存じありません。すべては旦那様……シイスル様のはかりごとです」


 俺は、兵士たちと慌ただしく何か準備していたシイスルの様子を思い出していた。


「どうせ、俺の犯行に見せかけるつもりなんだろ? だから、この屋敷に泊めたわけだ」


「まさしくその通りでございます」


「ほかに知っていることは?」


「わたくしに旦那様の真意までは、とても」


 殊勝な様子でそこまで話してから、バトラオは叫ぶように言った。


「どうか孫娘だけは! ソニアだけはご寛恕くださりますよう何卒……!」


「そう思うなら、夜逃げの準備をしとくんだな」


 俺は魔力糸経由で雷魔法を流し込んだ。

 バトラオは一声上げて床に崩れ落ちた。


 気絶させたつもりだったが、さすがは剣豪。

 まだかろうじて意識があるようだった。


「ふふ……。フィル様もまだ、お若い。目の、奥に、お優しさが揺れておりました……ぞ……」


 そう言って意識を失う。

 通算30歳。

 それでも、往年の老剣士と睨み合いをするには、まだ年の功が足りなかったらしい。


 俺は魔力で筋肉にバフをかけ、寝ているルノンをぶん投げた。

 ルノンはシュタッと着地する。

 さすが戦闘民族。


「殺し合いです!?」


「そんなとこだ。本当はがきんちょのお前を連れて行きたくないんだが――」


「つれてかねえとフィルとて容赦しねえデス!」


「だよな。そんな気がしたんだ。行くぞ」


「はいです! 血祭りじゃオラア! デス!」


 俺たちは領主邸を飛び出して、廃坑とやらを目指した。


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