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5 ずいぶんと都合のいい白馬の騎士様がいたものだわ


 茂みから飛び出してきた黒衣の一団は、雪崩の勢いで兵士数名を呑み込んだ。

 金属同士がぶつかり合う音。

 悲鳴。

 一団は勢いそのまま御料馬車に殺到した。

 ざっと20人。

 これだけいて声のひとつも上げないのが不気味だった。


「出番だぞ、ルノン!」


「っしゃあーッ! ぶった斬るデス!」


 俺たちは雑木林から飛び出した。

 遅れてスタートしたはずのルノンがあっという間に俺を追い抜く。

 魔爪を伸ばして猟犬みたいに突っ込んでいった。

 女の子に足で負けるの辛い……。


「何事か!」


 馬車の扉が開き、女騎士が飛び出してきた。

 殿下の付き人シュヴァリッタ・クッコロア。

 黒衣の一団と鉢合わせになり、あっさり組み伏せられた。


「くっ、殺せ! 辱めは受けない!」


「おっほ」


 俺の口から変な声が出た。

 ルノンが怪訝な顔で振り返る。

 ごめん。

 なんでもない。


「殺すなら私を殺せ! 殿下に指1本でも触れてみろ! 貴様らをフぎゅぎゅムゥ――」


 シュヴァリッタが急にモゴモゴ言い出したのは、どうも猿ぐつわでもされたようだった。

 女騎士を生かして捕らえるとか、けしからん奴らだ。


 抜身の剣を持った黒衣の男が馬車に手をかけた。

 客室の奥には銀髪の少女。

 ヒエルフォーナ殿下だ。


 青ざめた顔が見えて胸が痛んだ。

 この状況を望んだ者の責任として絶対に殿下をお守りせねばならない。


 俺は右手をかざして、そこに魔力を集めた。

 心臓から右腕の血管を伝わって熱いものが手のひらへ。

 それは石の塊になって飛び、男の側頭部に突き刺さった。


 一団が初めて声を上げた。

 驚きと困惑の声。

 ルノンが突っ込むと、それが断末魔の叫びに変わった。

 両手合わせて10本の爪が閃く。

 そのたびに、腕やら脚やら首やらが飛ぶのが見えた。


 敵の数は多い。

 しかし、機動力重視で軽装だ。

 盾持ちもいない。

 まさか待ち伏せしていた側が待ち伏せをくらうとは夢にも思っていなかったのだろう。

 恐慌をきたしている。

 仲間同士でぶつかって転ぶ始末。

 趨勢はすでに決したようだった。


 俺は火の玉、風の刃、雷の鞭と魔法の属性をとっかえひっかえにした。

 火、水、土、風、雷――。

 魔法の、基本5属性。

 これをすべて使える魔術師はだいぶ珍しい。

 このへんを殿下には特等席でじっくりご覧いただかないと。


 と思ったのだが、俺が5人をノックアウトする間に、ルノンが10人以上ぶった斬ってしまった。

 魔爪で斬殺。

 剣も鎧も関係ない。

 上からバッサリ。

 信じられない切れ味だ。

 そして、すごい笑顔。

 ジェットコースター楽しいっ!

 って感じでルノンは笑顔をキラキラさせて血しぶきの中を駆けている。

 たまに味方を蹴飛ばしているが、それすら楽しそう。


 それ以上目立つなよ。

 俺に花を持たせてくれ、と事前に伝えておいたはずだぞ!


「きゃう!?」


 そのルノンが吹っ飛んだ。

 敵の中に腕の立つ奴が一人いたらしい。

 そいつは、細身の剣――レイピアを肩の高さに構え、真っ直ぐ俺に向かってきた。

 なかなか速い。


 俺は水の砲弾を撃った。

 そいつは砲弾を両断した。

 ……つもりだったのだろう。

 水は氷に姿を変え、そいつの腕にまとわりついた。

 目出し帽の奥の鋭い目が驚愕に彩られる。


「過冷却水だ。斬ったら凍るぞ?」


「五属魔法詠唱者……」


 動きのキレから若い男かと思ったが、声は老人のものだった。

 俺はかっこつけて指を振る。


「ノンノン。6属性だ。聖魔法も修めている。それと、俺は詠唱者じゃない。なんたって無詠唱で魔法を使えるから、な!」


 車内の殿下に向かって華麗にウィンクをかます俺。

 最高に決まっていたと思う。

 殿下の顔はあいにく影で見えなかったが、好印象だったに違いない。

 俺はニヒッと笑った。


「グラゥアッ!!」


 街道沿いの茂みに突き刺さっていたルノンが復活。

 魔爪で老剣士に踊りかかる。

 俺も魔法で援護する。


「ぐあ」


 老剣士は額に裂傷を負った。

 俺の岩弾を凍った右腕で受け、レイピアを取り落とす。

 戦意喪失。


「撤収だ」


 と短く吼えた。

 生き残った数名が街道をバラバラに逃げだした。


「待て、ルノン」


「ぎゅエ……!?」


 嬉々として敗走兵狩りを始めようとするルノンの襟首を、俺は掴んで引き留めた。


「ほうっておけ。殿下を守るのが優先だ」


「ちっ。命拾いしやがって糞がア! 戻ってきて斬られろやデス!」


 俺はおっかないものから手を離した。

 あんまり長く触っていると噛みつきそうコイツ。


 まあ、なんにせよだ。

 完璧なまでに俺の作戦通り。

 ものの見事にハマった。

 天才策士と呼んでくれていいぞ。

 苦しゅうない。


 俺はゆるみそうになる頬を引き締めて振り返った。

 いかがですか、殿下!


「おかしいわね。ここにいるはずのない人間がいるわ」


 ヒエルフォーナ殿下は馬車から降りてくるところだった。

 腕組み。

 そして、しかめっ面。

 凍えるような青い目が俺を睨んでいる。


 殿下はツカツカと俺に詰め寄ってきた。


「追放したはずのあなたが、どうして偶然たまたまこの場にいたのかしら? ずいぶんと都合のいい白馬の騎士様がいたものだわ」


「申し訳ありません殿下。前を失礼いたします」


「ちょ――」


 俺は殿下の前を素通りし、怪我人のもとに向かった。

 矢傷を負った者が3人。

 斬られた者が4人。

 さすがに皇女付きの警備兵だけあって、致命傷はうまく避けたらしい。

 それでも、みんな重傷だ。


 俺は片っ端から治癒魔法をかけていった。

 俺が傷つけたわけではないが、暗殺計画に便乗した者として責任は感じている。

 せめてもの罪滅ぼしだ。


「基本5属性に加えて、聖属性魔法まで……。『六神通』って実在するのね」


 ヒエルフォーナ殿下はすっかり気を呑まれたようだった。

 うんうん。

 その調子で俺を見直してくれ。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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