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3/13

3 これは利用できるな


「俺はフィル・アッシュファーデン。趣味は釣り。特技は初見で嫌われることだ」


 俺はお決まりの挨拶で笑いを誘った。

 奴隷の少女は笑わなかった。

 なので、俺が一人でへらへらしただけだった。

 大丈夫。

 こういうのには慣れている。


「お前、名前は?」


「ルノンヴォルフ」


「ヴォルフ……ひょっとして、狂狼ヴォルフの一族の?」


「うん、そう」


 小さな頭がコクコクと動く。


 狂狼族――。

 というと、戦闘民族で有名だ。

 一騎当千の戦闘力を誇り、戦乱の世にあっては不敗の傭兵として敵味方問わず恐れられたとか。

 見たところ、首の奴隷紋は三重になっている。

 重ね掛けしても御しきれないのだから、狂狼族のヤバさが伝わってくる。


「悪いな、ルノンちゃん。普通の奴隷紋なら解呪できるんだが、三重ともなると俺には無理だ」


 俺は手のひらの上で指輪を転がした。

 奴隷を支配するための魔道具『隷握の指輪』。

 主人になる人物が定期的に指輪に魔力を注がないと、奴隷は死に至るという。

 奴隷本人の魔力では当然ダメ。


「お前が心から信頼できる相手にこれを託せ」


 ルノンの小さな手に指輪を握らせてやる。

 美少女奴隷キャラは異世界モノじゃ鉄板ヒロインだ。

 でも、実際目の当たりにすると不憫すぎて胸糞悪い。

 単に可哀想というだけでなく、社会の闇みたいなドス黒いものが垣間見えて吐き気がする。


 ガ――ッ!


 ルノンが突然俺の手首を掴んだ。

 握力強すぎ。

 ワニに噛まれたのかと思った。

 指がくすぐったい。

 見れば、指輪がはめられていた。


「じゃあ、フィルがこれ持ってて。おまえがあたしのご主人糞ね」


 狂も狼もない純真な笑顔でそう言われた。

 糞は聞かなかったことにして、俺は問う。


「俺なんかでいいのか。この顔、よく見てみろ。ほら、すげえ怪しそうだろ? 今にも裏切りそうだろ? 本性剥き出しにして高笑いしそうだろ?」


「顔はたしかに糞。とくに目つき糞」


 よどみなくそう言われた。

 本心だろうなぁ。


「でも、フィルがいい。だって、助けてくれた。信頼できるって思った」


 金の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。

 じん……。

 あれ、おかしいな。

 目頭が熱い。

 信頼できるなんて言われたのは初めてだ。

 女の子の前で泣くのはプライドが許さん。

 俺はニチャアと笑って誤魔化した。


「わかった。お前の信頼に恥じない主として振る舞おう」


 だが、左手の薬指はやめろ。

 小さい子を奴隷にして婚約指輪するとか、糸目じゃなくても社会的に死ぬって……。





 フィル・アッシュファーデン。

 皇都魔法学校を首席にて卒業。

 第三皇女付き守護騎士を拝命。

 秒で追放され、現在は無職。


 ――というのが、目下俺のプロフィールだ。

 在学中、神童とか呼ばれていただけに惨めさもひとしおだ。

 このうえ、奴隷の女の子を連れ回しているなんて噂が立てば、いよいよ詰む。


 ということで、皇都の瀟洒なブティックで小綺麗な服を買った。

 ルノンに着せてやる。

 首の奴隷紋をスカーフで隠せば、奴隷っぽさは完全に払しょくされた。

 馬子にも衣裳というが、ルノンは元がいい。

 よって、ハチャメチャ可愛い天使が爆誕するに至った。

 この世界はそもそも美少女が多い。

 最高か……!


 さて、いずれ親元に返すとして、


「ルノン、お前、行きたいところとか、したいこととかあるか?」


「したいこと?」


 少し考えてからルノンは言った。


「人殴りてえ」


「うん。だめ」


「糞戦場行きてえ」


「うん、なんで?」


「人殺してえ」


「だめ」


「ちっ」


 ルノンはさっきから通りを行き交う人々にガンつけている。

 自分から殴りかからない程度には分別がある。

 だが、もし誰か睨み返して来たら、それを口実にして殴ってやろう。

 ボコボコだ、オラァ。

 そんな下心を感じる。


 なるほど。

 これが戦闘民族・狂狼族か。

 今しがた天使だと思ったのはひどい勘違いで、赤毛まじりの黒い髪は、ともすれば、返り血を浴びた狼のようにも見える。


「えらいもん拾ってしまったな……」


 狂犬を従えた糸目キャラか。

 俺は今、どの方向に転がり落ちているのだろう。


 ルノンはふと何か思い出したような顔になった。

 ワクワクした様子で俺を見上げる。


「フィルもお姫、殺しにいく?」


「お姫を……殺しに?」


 ライデンホルン皇国。

 この国でお姫と言えば、皇女様のことだ。


 俺はスッと目を細めた。

 一段と糸目になったと思う。


「あの男たちがそう言ったのか?」


「うんそう。お姫ぶっ殺すために、あたし買ったってほざいてた」


「ほう。ちなみに、第ナニ皇女を狙うと?」


「ん」


 ルノンは俺の鼻先に3本指を突きつけた。

 暗殺計画。

 標的は第三皇女ヒエルフォーナ殿下か。

 どうしてまた狂狼族なんぞ奴隷に選んだのかと思っていたが、どうやら水面下で真っ黒な陰謀がうごめいているようだ。


(これは利用できるな)


 俺の心の中で黒い羽を生やしたフィルがそうささやいた。

 命を救われれば、さしもの第三皇女殿下も心を開くはず。

 ルノンがまさにそうだった。


 白馬の騎士になって窮地に駆けつける。

 うまく事が運べば、俺は守護騎士に返り咲ける!


(そんなのダメだよ!)


 頭に輪っかを載せた白いフィルが断固反対を表明した。


(それは皇女様を騙す行為だよ。不誠実は破滅の入り口だよ!)


 一見正論のように聞こえる。

 だが、よく見てみろ。

 白フィルは裏切りそうな顔をしている。

 こいつの口車に乗るのは危険だ。

 俺は白フィルを頭の中から追放し、黒フィルの意見を採用することにした。


「フフフフフ……」


「フィル、糞みてえな顔してる」


「生まれつきだフフフ」


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