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2 ムカつくんだよなぁ


「うがああああああオレの指があああ! ほんぎゃあああああ!」


「死ねやおらあ! クソがよお! クソァ!」


 年中、日も当たらないだろう路地の奥。

 男が二人、大騒ぎしている。

 一人は、おもちゃを買ってもらえなかった子供Lv.100みたいなテンションで地べたを転げ回ってギャン泣きしている。

 もう一人は何か蹴っている。

 少女だ。

 年端もいかない女の子をバカスカ蹴っている。


「マジでおらァ! 獣と変わんねえぜ、くそが! 死んじまえガキゃ!」


 少女の首には紅蓮の紋様が浮き出ていた。

 男の指にはまった指輪が同じ色の光を発している。


「奴隷紋か」


 主人の逆鱗に触れて折檻されている、ってところか。

 鼻からも口からも血が出ている。

 白目で虫の息だ。


「ムカつくんだよなぁ」


 身分だったり、権力だったり、悪法だったり、腕力だったり。

 まあ、いろいろだが、「力」を笠に着た弱い者いじめをこの世界に来てから飽き飽きするくらい見てきた。

 まがりなりにも平等や公平が明示されていた世界の出身者としては思うところがある。


「今なんつった?」


 男は蹴るのをやめて俺に詰め寄ってきた。

 おっかない顔で俺の胸倉を掴んだ。


「てめえ。さっきから何笑ってやがる」


「俺が笑っているように見えるのか? これ、割とガチ目のキレ顔なんだけどな」


「ハぎャ!?」


 男は股間を押さえてぶっ倒れた。

 俺は振り上げた膝をそっと下ろした。

 この世界でも男の弱点は変わらない。


 俺は男の指から指輪をもぎ取った。

 ついでに、馬乗りになり、


「何しやがんだ、てめえ!」


 などと言わなくなるまで入念に殴る。

 力の行使ってのは自分でやる分には楽しいんだよ、これが。


「まだやるか?」


「ブぐ……。や、やらないでふズミマゼン」


「そうだよな。素直が一番だよな」


「ぞの通りでフ」


 こういうとき、俺の不気味な目と薄ら笑いは大変よく効く。

 どうも平気で人を刺す奴に見えるらしい。

 失礼だろ。

 俺はもう一回殴っておいた。


「わ、悪かった。あんたは強ぇ。降参だ。勘弁してくれ」


「奴隷は手放してもらう。いいな?」


「異論はねえよ。で、でも、このガキ、連れの指を食いちぎりやがったんだ。イカレてやがる。もとはと言やぁ、連れがガキの乳なんぞ触ろうとするのが悪りぃんだが」


 地べたで転げ回っているほうの男はたしかに手から流血している。

 少女のほうは口の中に何かくわえているようだった。


「た、頼む。吐き出させてくれ。教会に行きゃぁ、まだくっつくかもしれねえんだ」


 まあ、そのくらいなら大目に見ないでもない。

 と俺は思ったよ?

 ただ、少女のほうは違ったらしい。


 ――バキ、ボキ。

 骨を砕くような音がして、


「ぺっ」


 少女は口から赤いものを吐き出した。

 ミンチだった。

 何肉のミンチなのか。

 そこは、あえて触れずにおこう。


「信じられねえ。こいつ狂ってやがる」


「お、おでの指おぎょおおぉぉんあ……」


 泣きながら去っていく男たちを、俺は若干の同情を込めた目で見送った。


「怪我を見せてみろ」


 俺は少女の前に膝をついた。

 年の頃は11か2か。

 赤毛まじりの黒い髪に、金の瞳。

 そして、大きなケモ耳とふさふさの尻尾。

 獣人族だ。

 たぶん、狼系。

 挑みかかるような目を加味しても、はっと息を呑むほどの信じられない美少女だった。

 ただ、多重に刻まれた奴隷紋のほうに目がいってしまう。


「がるるる…………」


 小さな喉が低い音を響かせている。

 今にも噛みついてきそうだったが、治癒魔法をかけてやると少女は警戒心を解いたようだった。

 値踏みするような目で俺を見上げ、少女は口を開いた。


「おまえ、糞目つきわりぃな」


「うっわ。こいつ口悪っる……」


 聞き間違いかと思ったわ。

 それも俺のコンプレックスを的確に突きやがって。

 まあ、俺は大人だ。

 笑顔で聞き流してやろう。

 薄気味悪い笑顔で、な。


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