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15 あなたの一族って本当に怪しい目つきしてるわよね


 ヒエルフォーナ殿下をアッシュファーデン領にご案内。

 実家にはなんの連絡もしていなかったのだが、馬車が領主邸の前に停まると、両親以下一族郎党全員が揃ってお出迎えしてくれた。

 正装を身につけ、庭の手入れにも余念なし。

 どうやら、クッコロア領での一件をどこぞで嗅ぎつけ、殿下の来訪を予見していたようだ。

 独自の情報網とかだろうな。

 身内ながら恐ろしい一族だ。


 整然と並ぶ使用人とニッコニコの我が両親を見て、殿下は思いっきり面食らっていた。


「あなたの一族って本当に怪しい目つきしてるわよね。なんで使用人まで糸目なのよ……」


「それは、わたくしも知りたいところです殿下」


 飼っている猫まで糸目なのだから、この地の呪いとかが原因かもしれない。


「全部あなたたちの陰謀ではないかと思えてきたわ。本当のことを話しなさい」


「失礼ながら殿下、わたくしが本当のことを申し上げても信用なさらないのでは?」


「まったくだわ」


 そのままヒエルフォーナ殿下には、我が家で数日過ごしていただくこととなった。

 その間、俺は、表では優雅な皇国紳士として振る舞い、裏では侃々諤々、喧々囂々の家族会議を繰り広げた。

 議題は、今後の第三皇女派について。

 派閥長自ら皇女暗殺に動くとか、ヤバすぎる。

 シイスルへの罵詈雑言が噴出したのは言うまでもない。


 結論から言おう。

 今回の暗殺騒動は闇に葬られることとなった。


 これには、内ゲバの露見を避けるという意味合いが大きい。

 アッシュファーデン家としては、第三皇女派の維持を最優先とした格好だ。

 シイスルは病死とし、暗殺騒動自体が綺麗さっぱりなかったこととなった。


 クッコロア領の今後についても話し合われた。

 だが、結論が出る前に、どういうわけか俺は議論の場からつまみ出された。

 代わりに、シュヴァリッタが参席することになった。


 そこで何が協議され、どう結論したのかは不明。

 枯れ鉱山の痩せた土地だ。

 どれほどの価値があるのかわからないが、シュヴァリッタは熱弁を振るっているらしく、疲れた顔に汗を浮かべている姿が散見された。

 そして、ある晩、俺はシュヴァリッタに呼び出されたのだった。


 アッシュファーデン家の二等客室。

 燭台の灯りと暖炉の火が照らす部屋。

 全体的に暗いが、オレンジ色の暖かな雰囲気がある。

 シュヴァリッタは胸が大きく開いたドレスを着て、テーブルを挟んだ向こう側で背筋をピンとしている。

 はて、妙な空気である。


「クッコロア家の存続が決まった」


 シュヴァリッタは堅苦しい口調で切り出した。


「それは朗報だな。皇城の荘厳なるたたずまいは見事の一言に尽きるが、それでも、雨ざらしになりながら首だけで見上げ続けるのは辛いだろうし」


「まったくだ。こたびの一件、斬首に火炙りでも足らぬ重罪と心得ている。私としても、なんの責めも負わぬことに、むしろ苦痛を感じているところだ」


 シュヴァリッタの白くなった唇にそれがよく表れている。


「アッシュファーデン家の皆々様にも大変なお骨折りをいただいた。この恩義には今後一生をかけてでも報いるつもりでいる」


 恩を着せて首根っこを押さえつけるのが、アッシュファーデン流だ。

 骨の髄までしゃぶり尽くされないように気をつけてくれ。


「フィル殿におかれても、私の度重なる失礼の数々、本当に申し訳なく思っている。どうか謝罪を受け取ってほしい」


 シュヴァリッタは立ち上がると、深々と頭を下げた。

 胸の谷間が、おお……。


「そのへんは水に流しますよフフフ」


 俺はこれ以上ないほどの清らかな笑みですべてをゆるした。

 とたんにシュヴァリッタの顔がこわばった。


「……き、貴殿、何を企んでいる? 弱みに付け込むような真似は騎士の道にもとるぞ」


「いやいや、これは悪巧みの笑顔とかではなくてだな」


 俺の糸目、どんだけ凶悪なんだよ。

 ほんと魔眼だな。


「信じよう」


 とシュヴァリッタは力強く頷いた。


「貴殿は命を賭して殿下を守ってくれた。多少の下心はあったようだが、貴族たるもの野心は持ってしかるべきだ」


「そう言ってもらえると助かる」


 顔の怪しさで疑われるのはもう仕方がないことだと諦めている。

 その疑念を、行動で信頼に変える。

 俺が目指す道はそこだろう。


「さ、さて」


 いささか緊張した様子でシュヴァリッタは座り直した。


「貴殿のお父君はその……、私を貴殿の側妻に据えようと考えておられるようだった」


 え?

 お前、俺の嫁になるの!?


「それは、なんというか……」


 さぞや顔面蒼白だろうと思ったが、シュヴァリッタは思春期の乙女みたいに赤面していた。


「なに? まんざらでもない感じ!?」


「い、嫌に決まっているだろう。よもやアッシュファーデンに嫁入りなど。それも正妻すら決まっていない男の側妻だぞ?」


 シュヴァリッタはばがん、とテーブルを叩いた。

 血走った目が怖い。


「……だがまあ、私も今年で21になる。そろそろ世間の目が厳しくてだな」


 21歳というと前世では大学3年生くらい。

 まだ若い。

 でも、この世界じゃJKくらいが結婚適齢期。

 農村部じゃJC婚とかもありうる。

 21だとそろそろ薹が立つとみなされる年齢だ。

 要するに、


「行き遅れ」


「ぐハ……」


 シュヴァリッタが血を噴いて倒れた。

 ように俺には見えた。


「まさか、新しい鉱脈でも見つかったとか?」


 俺は照れ隠しコミで真面目な話を振った。


「貴殿は頭がよく回るのだな。その通りだ。父が自爆した折、崩落現場から純度の高い魔石を含む地層が出土した。私もクッコロアの娘だ。一目でわかったぞ。あの鉱山はまだ死んでおらぬと」


 それで、嫁に来いという話になっているのか。

 アッシュファーデンは肥沃な大地を。

 クッコロアは豊富な鉱物資源を持っている。

 いがみ合いの歴史にさえ目をつむれば、両者はパチリとハマるピースなのだ。


「父上が私に遺してくださった遺産だな。まあ、鉱脈規模がどの程度のものか、商業ベースに乗るのか、将来性の有無もこれからの調査次第だ。今日明日に決まるものではないし、結果いかんでは嫁の行き先も変わるだろう」


 シュヴァリッタは大人な口調でティーカップを口に運んだ。

 俺も茶菓子に手を伸ばしつつ、向かいに座る女に目を走らせた。

 ちょっと肩幅があるが、美人だ。

 こいつが俺の嫁か。

 もしシュヴァリッタが俺の嫁になるなら、無理やり押し倒して、あれを言わせたい。

 ギュフフ……。

 そのとき俺はきっとゴブリンみたいな顔をしているだろう。

 糸目のな。


「シュヴィ」


「ぶフッ」


 紅茶を噴いてわたわたするシュヴァリッタはなかなか可愛らしかった。


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