10 んぎぉあやあああああああああ……!
「わーっ! 綺麗ですー!」
無邪気な声がぐわんぐわんと反響した。
クッコロア中央魔坑。
緑とも青ともいえる無数の光が見える。
まるで天の川だ。
でも、光っているのは星ではなく鉱石。
魔石の一種。
ホタル石とか、そんな名前だったはずだ。
綺麗だが、採掘すると輝きを失う。
商業的価値は皆無。
もっぱら坑道内で天然の照明として重宝されている。
と一般常識で知っている。
それでも見た目は綺麗だ。
名付けるなら、地底のプラネタリウム。
シュヴァリッタはこれをネタに殿下を誘ったのだろう。
「さあ、お姫様。わたくしと地底の星空を観に参りましょう」
みたいな感じで。
「ぇ? ええっと、……んむぅ」
ルノンはもじもじしている。
夜じゃなければ、赤く染まった狼娘のご尊顔を拝めたかもしれない。
俺はこの世すべての闇が、憎い!
壁面に触れると、ぼろりと石が崩れた。
魔石片がまじっている。
純度は低そうだ。
「ここはもう廃坑なのか」
バトラオはそう言っていた。
クッコロアで一番大きな坑道のはずだが、もう魔石を掘り尽くしてしまったのだろうか。
策略家の父上が知れば大喜びしそうな情報だ。
今はどうでもいいか。
先を急ごう。
地面におびただしい足跡が残されている。
足跡に名前が書いてあるはずもないが、一番新しいものを追えば、直近にここを通った者のいる場所にたどりつけるはず。
そうして、100メートルほど潜ったところで、絶景にぶち当たった。
広いドームのような場所。
天井はホタル石で覆い尽くされている。
まさに地底のプラネタリウム。
思わず見上げてしまい、地上の様子に気づくのが遅れた。
「さあ、お覚悟めされよ」
兵士が十数名。
兵を率いる太った後ろ姿はシイスルだろう。
壁際には女騎士シュヴァリッタ。
その背に守られるようにして銀髪の美姫がいる。
ヒエルフォーナ殿下だ。
間に合ったようだ。
「えー、こほん。お取り込み中のところ失礼します。どうもフィル・アッシュファーデンでございます」
俺はお茶会に招待されたくらいの朗らかさで割って入ろうとした。
兵士が気づいてゆく手を阻む。
俺は少し目を開いて、そいつを睨んだ。
「君、貴族の前に立ち塞がるとは度胸がありますねぇ」
「え、いや、その……。仕事ですから」
「仕事? クッコロア卿がそう指示したので?」
「え、いや、指示はされてなくて、その」
「君が勝手に自分で考えて粗相を働いてしまったと?」
「うっ。……も、申し訳ありません!」
兵士は平謝りで道を譲った。
バカ確定。
俺は澄まし顔で殿下をかばう位置に立った。
その兵士の頭をごがん、とシイスルが殴る。
「通してどうする!? 貴様は馬鹿か……!」
ほんとほんと。
相手が貴族ってだけで平民は委縮する。
この世界じゃ貴族は戦車なのだ。
大手を振って歩けば、たいていの人は道を開ける。
そいつが薄笑いした怪しい糸目だと、なおさらな。
「あの老いぼれめ。しくじりおったか」
シイスルはそう吐き捨てた。
「ひどい言いぐさだ。俺の見立てじゃ、バトラオはまことの忠臣だった。ウチで雇いたいくらいのな。ソニアも可愛かったし」
と付け加えると、ルノンが俺のふくらはぎを蹴った。
痛いよ?
「フィルはあたししか飼っちゃ、メッ!」
お前の自認は、俺のペットなのか。
狼の血が泣いてるぞ。
「さすがはアッシュファーデンといったところか。耳の早い貴様らのことだ。どこぞで暗殺計画を聞きつけ、止めに来たのだろう」
「え」
シイスルの言葉で、殿下が俺を見るのがわかった。
あなた、私を守ろうとしていたの?
みたいな視線を背中に感じる。
まあ、そういうことにしておこう。
「しかし、たった2人で乗り込んでくるとは。とんだマヌケがいたものよ。――それ、討ち取ってくれる!」
兵士がドッと動き、半月状に布陣する。
マヌケはお前だ。
昼間に20人を返り討ちにしたのを忘れたか。
「ルノン、豚以外は斬ってよし!」
「しゃああああ! デス!」
俺は地面に魔力を込めた。
ごおおおお、と地鳴りがして、兵士の前に土壁がせり上がる。
「まずは奴らを殺すのだ!」
とシイスルが号令をかけたときには、最初の首が宙を舞っていた。
土壁を蹴ったルノンが天井まで飛び上がり、鷹のごとく兵士らの中に斬り込んだのだ。
魔爪が闇に閃く。
切れ味・速度、段違い。
ルノンだけ倍速再生で動いているみたいだった。
殿下の御前だ。
俺も負けてはいられない。
俺は電撃の矢を放った。
斬り結んだ剣士が体を棒にして卒倒する。
その隣の兵士には土の槍で金的をくらわせ、そのまま天井に叩きつける。
斬りかかってきた兵士は魔力糸で雁字搦めにしてから、氷魔法で気道閉塞、窒息させる。
こうして、ものの10秒で決着した。
ルノンはシイスルに馬乗りになってタコにしている。
なるべく多くのダメージがいくように急所を正確に殴っている。
もちろん、最っ高の笑顔で。
俺はボコボコの顔を覗き込んでにっこり笑った。
「くっ、殺せ、とおっしゃってみてはどうです?」
「くぅ、こりょ、こりょさない、れぇ……」
「おやおや。当主のくせにクッコロアの風上にも置けないセリフですねぇ。――ルノン、教育!」
「はいデス!」
「んぎぉあやあああああああああ……!」
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