表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/16

1 糸目に人権はないんか?


 顔。

 大事だ。


 美男美女。

 それだけで人生楽勝。


 不細工。

 大丈夫。

 実力さえあれば引く手あまた。


 じゃあ、最悪な顔ってなんだろう?


 ヤクザ顔?

 違う。


 馬鹿ヅラ?

 違う。


 最悪な顔ってのは、……そう。

 裏切りそうな顔のことだ。


 ――糸目とか、な?





「お初にお目にかかります! わたくしはフィル・アッシュファーデンと申します!」


 俺はこれ以上ないほどの満面の笑みで快活に元気いっぱい挨拶した。

 気分は春のたんぽぽ。

 笑顔の煌めきは夏のひまわり。

 第一印象が肝心だ。

 だから、うんと背伸びして活き活きと挨拶した。


「顔が裏切りそう。追い出しなさい」


「ハッ! 殿下のおおせのままに!」


 そして、流れるような手際で皇城の外に放り出されたのだった。





 トラックに撥ねられ、気づけば異世界。

 魔法があって冒険者や魔物がいる世界の、小さな領地の領主令息に転生した。

 フィル・アッシュファーデン。

 それが俺の名前だった。

 年齢は15になる(前世と合わせりゃ三十路だが……)。


 元の世界のアドバンテージで皇都魔法学校を首席・卒。

 その功績を認められて皇国第三皇女ヒエルフォーナ殿下の『守護騎士』に大抜擢。

 自分でもびっくりするくらい出世街道まっしぐらだったのだが、


「それが、どうしてこうなった……」


 自分のまたぐらの間に青い空が見えている。

 俺はほかに類を見ないくらい惨めな格好で城門前に転がされていた。


「貴様の顔が裏切りそうだからだ。殿下もそうおっしゃっておられたであろう」


 仏頂面の女騎士が蔑みの目で見下ろしてくる(ご褒美かな?)。

 殿下の付き人を務める人物で、名前はシュヴァリッタ・クッコロア。

 美人に見下ろされる俺。

 ……悪くないな。


 少しHPが回復した。

 気を取り直して笑顔を作り、起き上がろうとすると、ゲシッ。

 蹴り倒された。


「なんで?」


「貴様の薄ら笑いに身の危険を感じたからだ」


「ひどい……」


「ひどいのは貴様の顔だ」


 シュヴァリッタはウンコを踏んだような顔でそう吐き捨てる。

 さっきからジャ、ジャ、と聞こえるのは、どうやら俺を蹴った足の裏を石畳にこすりつける音らしかった。


「貴様、いくらなんでも怪しすぎるぞ。目つきがあんまりだ」


「あんまりなのは、あんたの毒舌だよ」


「貴様のような奸物を殿下のおそばに置くなど狂気の沙汰なり。疾く消え失せろ」


 さんざんなセリフを叩きつけると、シュヴァリッタはフンと鼻を鳴らして城の中に引き上げていった。

 奸物だってよ。

 俺が何したっていうんだ?


「……」


「………………」


「…………」


 城門警備の衛兵と目が合った。

 無言で目をそらされた。

 なにこれ、辛いんですけど。


「やっぱ、この目だよなぁ……」


 城のそばにあるパン屋のショーウインドウと睨めっこしながら、俺は絶望的な気分になっていた。

 窓ガラスに映った自分の顔。

 転生して以来、毎日拝んでいるツラではあるが、何度見てもやはり、こう……。


「裏切りそうな顔だな」


 俺はいわゆる糸目だ。

 アニメや漫画に出てくる何考えているのかわからない不気味なキャラにありがちな、あの糸目。

 髪は灰色のストレート。

 一見地味なところが、黒幕感にイイ感じで拍車をかけている。

 そして、口元には薄ら笑い。

 これは標準仕様で変顔をしても解消されない。

 おまけに頑張って目を開くと、血よりも真っ赤で強烈な瞳がギラリと光る。

 とうの本人ですら正視に耐えない目つきの悪さだ。


「わかるわ。この顔、絶対裏切る奴だ……」


 この顔で裏切らないなら、どの顔なら裏切るんだ?

 そういうレベルの裏切りフェイス。

 約束された裏切りの顔。

 それが俺の顔だ。


 ヒエルフォーナ殿下はご英断をなされた。

 俺みたいなツラの奴をそばに置くなんて、私は人を見る目がありません、と喧伝しているようなもの。

 初見でバッサリ切ってくれたことで、むしろ俺の中で殿下の評価は上がった。

 殿下は自分の意思をはっきりと持ち、決断ができる御仁なのだと。


「でもなぁ」


 端麗な銀髪美少女の氷みたいな目が脳裏に蘇った。

 今夜あたり夢に出てきそうだ。


「はあ」


 郷里の両親には「気に入られてきなさい」と言われて送り出された。

 3秒で出禁くらったと知ったら、何を言われるかわかったものじゃない。

 両親揃って糸目だ。

 あの目に睨まれながら説教されたらメンタル死ぬわ。

 ただでは帰れない。

 打開策を考えないと。


「ちょいと、あんた! なんでウチの店を覗いてんだい!」


 パン屋の中から太ったおばさんが飛び出してきた。

 でかい。

 めん棒を握りしめた姿は怒り狂ったトロールだ。


「あんた、詐欺師だね!」


「めめめ滅相もない」


「何か企んでるだろ? 目は嘘つかないよ」


「あばば」


「コテンパンにされて衛兵に突き出されたくなかったら、さっさと消え失せな! この腐れ糸目野郎!」


「あ、泣きそう……」


 俺は這う這うの体で逃げ出した。


 顔か?

 この顔が悪いのか?

 裏切りそうで悪巧みしてそうだからいけないの!?

 こういう顔に生まれついたんだよ、仕方ないだろ。

 どいつもこいつも変えようのない短所で人をぶっ叩きやがって、チクショーめ。

 糸目に人権はないんか?


「おら、死ね! 死にさらせや、おら!」


 路地裏のほうから怒号が飛んできた。

 一瞬自分が言われたのかと思って胸がぎゅっ、となる。

 でも、違った。

 どうやら何か揉め事の様子だ。


 俺は暗くなった路地の奥をそっと覗き込んだ。

 もちろん、糸目で、な?


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

少しでも「面白い」と思っていただけましたら、

『ブクマ登録』と下の★★★★★から『評価』をしていただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ