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第3話「王宮騎士団管制……以下略」

「落ち着いてください」


 躊躇いを感じながらも、私は彼女に諦めを与えなければいけない。

 私が無償で魔法を提供してしまったら、多くの魔法使いたちに迷惑をかけてしまう。


「私にも限界が……」

「助けてくれるのですね!」


 彼女の瞳が、期待という色で染まっていく。

 手に痣が残りそうなほど強い力で引っ張られ、私は彼女に体を引きずられそうになった。


「違法ですよ」


 バランスを崩しかけた足を支えてくれたのは、聞き覚えのある柔らかな声。


「魔法保護法第二十三条」


 月の光のよく似た銀白色の髪色と青紫色の瞳に、多くの少女たちが魅了されていた。

 次期国王候補であるクラレッド様は太陽のような希望ある存在で、目の前にいるアルノ・レイジェンスは月を思わせるような儚き存在。

 双子ではないのに、対になるために生まれてきたような二人が城にいたことを思い出す。


「魔法使いを脅して、魔法の使用を強要させることを……」

「アルノ様!」


 彼が私を助けるために現れてくれたのは、間違いない。

 けれど、ここで彼に場を支配されてしまったら、娘の目の前で母親が逮捕されるという展開を迎えてしまう。


「ここには、幼い子がいます。母親を取り上げるような行動は慎んでください」


 自分は危害を加えられていないと彼にアピールするために、私はしっかりとした声を発した。


「彼女が訴えないというのなら、僕が出る幕ではないね」


 彼は母親に向けた鋭い視線を和らげることはなく、大袈裟に溜め息を漏らして母親を軽蔑する。

 幼き女の子が母親に縋りつくと、母親はしっかりと娘を胸に抱いて立ち去っていった。


「ディアナ!」


 その声に、振り返る。

 街の人たちからの歓声を浴びていたフェルが視界に映るようになり、ようやく安堵の気持ちに包まれる。


「悪い、遅くなって」


 フェルは息を整えながらも、真っ先に私の心配をしてくれる。

 少しだけ心が軽くなるのを感じるけど、私はまだ自分の身を自分で守ることすらできないのだと痛感させられた。


「この人は……」

「アルノ・バレッタ。王宮騎士団管制……って、役職が長すぎるから省略するね」


 簡素でありながらも質のいい黒いコートを羽織り、アルノ様は控えめながらも気品溢れる装いで挨拶した。

 けれど、自分が聖女候補だったときに城で見かけたアルノ様とは印象が違う。


「ディアナに、何したの?」

「真っ先に僕を疑うなんて、随分と短絡的な思考をしているんだね」


 アルノ様の口調が軽いことに、私は目を丸くさせた。

 月のような儚さを持つはずの彼は、こんな挑発的な喋り方をする人だったのかと驚きを隠せない。


「僕は、国から捨てられたディアナ様を探していただけだよ」


 一触即発の雰囲気になりかけていたけれど、あっさりとアルノ様は引き下がった。


「ディアナに治癒魔法を使わせるために、モンスターの襲来を手引きしたとか?」

「だーかーら、なんで、僕をそこまで目の敵にするの?」


 驚くほど親しみやすい話し方をするアルノ様に呆然としてしまうけれど、これが本来の彼ということかもしれない。

 職務を全うするときの表情と、普段の表情が違うことを頭が理解し始めていく。


「城の人間は全員、信用できないから」

「そんなこと言ったら、ディアナ様も城の人間だよ?」

「は? もう聖女は決まったはず……」

「それは事実だけど、ディアナ様は二番目の聖女としての地位が残ってる」


 アルノ様が説明することに初めて耳にする話はひとつもなく、私は石畳でできた道へと視線を落とす。


「私はね、ポリー様の身に何か起きたときのための代わりになるの」


 聖女候補から落選したことは間違いない。

 元聖女候補として、聖女ポリーを支えるという役割すらも与えてもらえなかったのは事実。

 それでも私は、聖女に最も近いと言われていた治癒魔法の使い手。


「二番目の聖女って、世間だと称されるかな」


 いつまでも視線を落としているわけにもいかず、自分の意志で顔を上げた。


「ポリー様の身に何か起きる前に、次の聖女選抜試験が開催されると思うから……ほぼほぼ出番はないけどね」


 フェルと一緒に、開業医を始めたいという気持ちに嘘はない。

 新しく生まれた夢を大切にしているとフェルに伝えるために口角を上げてみたけれど、その口角を元の位置に戻すようにフェルが優しく頬に触れてくる。


「無理しなくていいんだって」


 唇を噛みながら、フェルは真っすぐな視線を私に向ける。


「フェルこそ、唇を噛まないで……」


 私を心配する気持ちが伝わってくるからこそ、噛み締めた唇に手を伸ばそうとしたときのことだった。


「こほん」


 アルノ様の咳払いが、私とフェルが作り上げた空間に割り込んできた。


「二人とも。ここ、公共の場だから」


 一瞬で、私たちは現実に引き戻された。

 耳に熱を感じられるほど自分が真っ赤になっていることに気づくと、フェルも一緒に耳まで真っ赤にしているのが視界に映った。

 一緒に苦笑いを浮かべて、私たち三人は落ち着いて話ができる場所へと移動した。

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