第6話「パーティメンバーは、お金で買うことができる」
「っ、ちゃんとお金は払った……まだ足りない? まだ足りないの……?」
オーフィアさんに呪術を使った犯人を突き止めなければいけないのに、セレンさんはパーティが解散したことに大きく混乱していた。
まともに話が通じる状況ではなく、セレンさんは怯えた目をした少年を視界に捕らえる。
「お金が必要と言っていましたよね? いくら払えば、私の仲間になってくれますか?」
セレンさんは金貨の入った袋を取り出し、ルトと呼ばれていた少年に寄りついていく。
寄りつくという表現なら、まだ優しい。
子どもたちに擦りつくような、まとわりつくような恐怖ある態度に、私もフェルも耐えることができなかった。
「セレンさん、もうやめてください」
これ以上セレンさんが子どもに近づかないように、少年の間に割り入る。
オーフィアさんに呪術をかけた犯人が見つかってもいないのに、軽率だとは思った。
けど、お金の力で物言わせようとしているセレンさんだけは、間違っていると信じたい。
「どうしてですか? パーティメンバーをお金で買うことは、法律上、禁じられていないはずですよ」
私とフェルは子どもを守るために割り入ったのに、私たちはルトたちの気持ちを考えることができなかった。
ルトと呼ばれた少年は自ら歩み出て、セレンさんが差し出した金貨へと手を伸ばす。
「ほら、見てください。この子は、お金が欲しいんです。だから、私は、この子に恵んであげているんですよ」
信頼や友情をお金で買うことができないとは言うけど、パーティメンバーはお金で買うことができるという現実を目の当たりにした。
「確かに、ルトの魔法には価値があります。セレンさんよりも、強い力を持っていると思います」
少年のルトが、お金に寄りつく様子を見つめることしかできない。
「でも、二人のうちのどちらかが、呪術を使ったのは間違いないです」
子どもたちの背中を見つめることしかできないことを歯痒く思っていると、セレンさんとの距離を縮めていたルトの動きが止まる。
「パーティを組む前……パーティを組む前の出来事かもしれないじゃないですか!」
動きを止めたルトに気を取られてしまったけど、セレンさんの声が屋敷に響いて我に返った。
「魔法も呪術も、継続して使うには魔力が必要です。ダンジョンに入る何日も前に呪術をかけたというなら、術者本人は魔力が枯渇して、今頃は廃人と化してます」
震えそうになる声をしっかり支えて、私はセレンさんと真っすぐに対峙する。
「犯人は、お二人のうちのどちらかとしか考えられません」
セレンさんは再び金貨の入った布袋を振りかざして、更なる対価を支払おうとする。
「私を助けなさい! 私はやっていないって、無実を証明しなさいっ!」
その言葉に対して、ルトは止まったまま動きを見せない。
金貨を欲していたはずの彼が、目の前の布袋に手を伸ばそうとしない。
伸ばしたくても伸ばせないルトの手は小さく震え、彼の視線は金貨の入った布袋ではなく、床をじっと見つめていた。
「ルト、怯えてますよ」
「だから、何っ? その子は、お金が欲しいの!」
彼の中に、躊躇いの感情があるような気がした。
彼が何を考えているかまでは読み取ることができないけれど、私は言葉を紡ごうと決意を固める。
「どうして、ルトは怯えているんですか?」
「勘違いよっ! 全部、あんたの勘違いっ!」
お金の力でルトの心を支配しようとしているセレンさんと対峙するために、私は彼女へ真っすぐな視線を向ける。
「怯えている子どもを、お金で言うことを聞かせるのは間違っていると思います」
セレンさんを追い詰めることができたのか。
大きく目を見開いたセレンさんは杖を取り出したけど、それよりも早く動いたのはフェルだった。
「麻痺の杭」
私はフェルに、この場にいる人たちを逃がさないでくれとお願いした。
既に杖を持って待機してくれていたおかげで、セレンさんが呪文を唱えるよりも早くフェルは攻撃をしかけることができた。
振りかざされた杖から青白い雷のようなものが放たれて、セレンさんに向かって一直線に飛んでいった。
「っ、ぁ」
セレンさんに魔法が命中し、杖を握りしめることができずにセレンさんは杖を手放した。
私はセレンさんの杖に駆け寄って、セレンさんの杖の回収を急いだ。
「こんなはずじゃ……こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったっ!」
杖を失ったセレンさんは床へと膝をつき、震える自身の指を広げて見つめていた。
指を見ているだけでは、何も起こらない。
「杖がないと、何もできませんか」
「っ! うるさいっ! うるさいっ! うるさいっ!」
杖には、自身が持つ魔力を増幅させる効果。魔法の安定性を補助する効果。
魔法の制度を向上させる効果がある。多くの魔法使いは杖の力なしでは、魔法を発動させることができない。
「お金があるなら、もっと頭を使うべきでしたね。魔法使いの数を増やせば、容疑者から外れる可能性も高まったのに……」
「ルトが力ある魔法使いだったからこそ、変なところで金をけちったってとこか」
「私を馬鹿にするなっ! 私はできる……私は崇高なる魔法使いよっ!」
丁寧な喋り方をしていたはずのセレンさんは本性を表したのか、頭が混乱して本来の自分を取り戻すことができないのか。
どちらにしたって、彼女は崩れた乱雑な喋り方で悪意を向けてくる。




