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第5話「守ってやれなくて、悪かった」

「心当たりがあったら教えてください。もしも心当たりがないのなら、どこかに呪術師が潜んでいる可能性があります。警吏(けいり)を呼ぶべき案件になります」


 魔法の光がオーフィアさんの体を包み込み、彼女の苦しそうな表情が少しずつ和らいでいく。

 その様子を見て、大きな希望が生まれる。


再生の炎リーズブレイブネーション


 治癒魔法が効かなかったときは不安と疑念が、この場を渦巻いた。

 でも、今は患者を救いたい。

 その一心だけに、集中することができる。


(終わらせない、オーフィアさんの命は私が繋ぐ)


 杖から放たれる光は次第に強くなり、傷口がゆっくりと閉じていく。

 生きている人間をアンデッドに偽装するという呪術を解くことにも成功し、オーフィアさんの体に治癒魔法が行き届き始める。

 次第に彼女の呼吸が安定し、顔色も戻ってきた。


「やった……」


 息を吐き、疲れ果てた体を支えてくれた人がいた。

 私に治療を任せてくれた、いつだって頼れる仲間(フェル)が私を見て微笑んでくれた。


「お疲れ、ディアナ」

「ありがと」


 最後まで仲間の医療術師を信じてくれたのは本当にありがたいけれど、問題はここから。

 この場にいる、ほとんどの人たちは驚きと感謝の眼差しでオーフィアさんのことを見つめている。

 でも、パーティメンバーの中でも異様に幼い魔法使いの少年。

 彼だけは、今も違和感を覚えるような不安そうな表情が消えずにいた。


「すみません、人手を借りたいのですが……」


 あとはオーフィアさんの意識が回復するのを待つだけで大丈夫なところまで来たため、私は体格のいい男の人たちに声をかけた。

 大昔は待合室のソファとして使われていたと思われるけど、今はぼろぼろでとても体を休める場所じゃないとソファへとオーフィアさんを運んでもらう。


「先生……その……助かった、ありがとう」


 ぼろぼろのクッションが彼女の体を支えている様子を見て、申し訳なさでいっぱいになった。

 けど、仲間の人たちからの感謝の言葉を聞くことができて、胸がいっぱいになるのを感じた。

 この病院を、患者さんたちが安心して治療を受けられる場所に変えたいって展望を抱くことができるようになった。


「お大事になさってください」


 医療術師としての役目を果たし終えたことに安堵の気持ちを抱きたいけど、休むことを選べないからこそ気合いを入れ直す。

 オーフィアさんの傍に寄り添いながら、フェルと目を合わせ、大切な話し合いに備える。


「誰が、リーダー?」

「っ、私、です……」


 フェルの問いかけに反応したのは、ここまで一言も発しなかった魔法使いの女性。

 金色の髪の毛を三つ編みで整え、緑色のフレームの眼鏡をかけた女性。

 自分がリーダーだと名乗り出た割に、この中では一番、頼りなさそうな印象を受ける。


「どうやって、このパーティメンバーを募った? 容態が悪化したのは、いつから? ここらへんの階層に、呪術を使えるモンスターは生息しない。誰かが呪術を使わなきゃ、彼女をアンデッド化させるなんて不可能……」

「フェル、落ち着いて」

「っ」


 矢継ぎ早に質問を向けなければいけないほどのことが起きているのは事実だけど、仲間たちの影に隠れるようにしていた魔法使いの女性に気を遣った。

 彼女は未だに震えが止まらず、目は床を見つめたまま、声を出すことすら躊躇っている。

 少年よりも、更に深刻そうな表情を浮かべているのが気になった。


「オーフィアさんにかけられていた呪術に、何か心当たりがあるんですか?」


 魔法使いの女性は驚いたように顔を上げたが、すぐに目を逸らした。


「いえ、何も……」


 ただ、フェルの視線だけは鋭かった。

 彼女の声に疑念が込められているのは誰もが感じていて、様子の可笑しい彼女が最も怪しいと踏んでいるのかもしれない。


「なあ、俺たちは解散してもいいか?」


 成人を迎えている男性三人の中で、巨大な斧を担いでいる大柄の男性が退屈そうに声を上げた。


「俺たち三人は、そこのセレンに雇われただけなんだ。そこのメリルも、おんなじ」

「どう見たって、その……怪しいのはセレン」

「待って! 待って! 私は何も悪くない! 私は何もしていません!」


 白いローブをまとっているのセレンさんに、誰もが注目の目を注ぐ。

 即席で作られたパーティの中に、絆は培われてはいなかった。

 セレンさんは一歩ずつ後退していき、どんどん壁面へと追い詰められていく。


「残念だけど、呪術は魔力がないと使えない。この三人の男性は前衛職。魔力の欠片も感じられない」


 フェルが言う通り、この世界は誰もが魔法を使えるわけではない。

 魔法を使うには魔力と呼ばれる力が必ず必要で、魔力を持って生まれてこない人間は魔法を授かることができない。


「じゃあな、俺たちは先に行く」

「待って! お金は払ったはずです! まだ、まだ冒険を……」

「五十二階層まで連れてったんだ。それだけで、対価分の働きはしたはずだ」


 本当の意味でリーダー格の男性は険しい顔でセレンさんを見渡し、二人の男性は荷物をまとめて立ち上がった。


「オーフィアに伝えてくれ。守ってやれなくて、悪かったなって」


 成人男性三人の背中から、社交辞令ではない申し訳なさを感じた。

 何も情報を持っていないと確定するのは早いとは思うけど、この場でどう考えても怪しいのはセレンさんと少年の二人。

 彼らが旅立ったところで問題はないと、フェルと瞳を通じて互いの意志を確認し合う。


「なんで……なんで……? まだ何も功績を残してないのに、なんで私から離れていくんですか……?」


 セレンさんの首には魔法使いであることを象徴するような宝石のペンダントが下がっていて、そのペンダントを通して魔力を増幅させていることが分かった。

 魔道具の力を借りてまでダンジョンに潜りたい理由が彼女にあることが伝わってくるけど、仲間を危険にさらした罪をセレンさんは問われていく。

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