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第7話「真面目っていう共通項」

「そんなに元気なら、もう大丈夫かな」

「あの……ここはどこでしょうか?」

「二十階層」


 空が存在しないはずのダンジョンで、数えきれないほどの星々を観察することができる。

 相変わらずダンジョンに秘められた謎が解けることはないけれど、ダンジョンの造りの不可解さが星空との再会を導いてくれた。

 空が存在しない場所で星空を拝める二十階層の造りに、思わず涙を溢れさせてしまいそうになった。


「俺たちは、二十階層にある宿泊施設(タウンキャンプ)に宿泊中」


 ダンジョンには二十階層おきに、宿泊施設(タウンキャンプ)と呼ばれる建物が置かれている。

 冒険者たちだけでなく、私たち医療従事者も宿泊施設(タウンキャンプ)を拠点にダンジョンで活動をしていく。

 冒険者たちにとっては、ひとときの安らぎを得られる重要な拠点に私たちは辿り着いたということらしい。


「ここまで、フェルが運んでくれたの?」

「いや、ウォークバウトが手を貸してくれた」

「ウォークバウトか……そっか、そうだよね」


 淡々とした喋りのフェルに合わせようと思ったわけではないけど、目覚めたばかりの私はいつもより落ち着いた口調だったと思う。


「……って、え!?」


 でも、フェルは私にいつもの日常を取り戻すための言葉をくれた。


「怪我してたらしい」

「怪我……」

「それで殺気立って、人間を襲ったって流れ」

「そう……だったんだ」


 モンスターが生命活動を維持することができない階層に現れたということは、てっきり人間を食糧にするために現れたのだと思っていた。

 でも、それはウォークバウトの外見だけで決めつけた思い込みだったと気づかされる。


「気づいて、治癒魔法発動させたのかと思った」

「残念ながら、そこまで鋭い観察力は……」


 目くらましに治癒魔法を使用したら、偶然にもフェルの力になることができた。

 私が意識を失う前に発動させた治癒魔法は大迷惑を被るもののはずだったのに、結果的に上手くいってしまったことは幸運だったのかもしれない。

 さすがは、元聖女候補。

 少しは幸運に恵まれているってことなのかもしれない。


「フェルは、モンスターと話せる魔法が使えるの……?」

「使えないけど、なんとなく」


 なんとなくでも、私たちを殺しにかかっていたウォークバウトと意思疎通ができるフェル。

 それだけ彼はモンスターと関わってきた時間が長くて、やっぱり私は経験が少なすぎる。

 聖女選抜試験で城に閉じ込められていたとはいえ、十年近くも城の中で平和に浸りきっていたことに悔しさを抱いてしまう。


「ディアナに、助けてくれてありがとうって」


 フェルが宿泊施設内の庭に設置されている花時計に目を向ける。

 二十階層は太陽が顔を見せない、永遠に続く夜空が特徴的な階層。

 太陽がなければ命は輝くことができないのに、宿泊施設の花時計は美しい花々で彩られている。

 風が吹き抜けるたびに、魔法の力で命を保っている花たちがかすかに揺れ動く。


「吹き抜けの庭だから、星が見えるんだね」

「あ、悪い。寒かったら、早く中に……」

「もう少し、ここにいてもいい?」

「ディアナの体調さえ、大丈夫なら」


 夜空に輝く星たちが、吹き抜けの庭に降り注いでくるんじゃないか。

 そんな妄想に駆り立てられるくらい、たくさんの星たちが漆黒の空に煌いている。


「太陽が登らない階層に寂しさを抱いていたけど」


 これだけの美しさに包み込まれると、ダンジョンの中の不思議な自然環境に心が惹かれる自分がいることに気づき始める。


「素敵だね、ダンジョンの中」


 心と身体が、動き出す。

 もっと知りたいって訴えてくる。

 もっともっと、ダンジョンのことを教えてって気持ちが騒ぎ出す。


「素敵で済まないとこが、ダンジョンだけど」

「そのための病院、だったね」


 治癒魔法は特別、珍しい力でもない。

 それでも魔法を使える人と使えない人に分けられた世界だからこそ、魔法が使えることの意味を噛み締めていく。


「治癒魔法の使い手が真っ先にいなくなって、本当にごめんなさい」


 見上げた星たちのような美しい笑みを浮かべるのが元聖女候補なのかもしれないけど、私は表情を作り込むことができなかった。

 素直に自分の失態を謝罪することしかできなくて、聖女様特有の精神的な癒しをフェルに分け与えることができない。


「経験がないんだから、別に気にすることでも……」

「気にするよ! 医療従事者がいなくなったら、パーティメンバーに迷惑がかかるから」

「その、医療従事者を守れなかった俺にも責任はある」


 私と、フェルの心の中にある罪悪感。

 私もフェルも命を救われたのなら、その罪悪感すら抱かなくていい感情のはず。

 それなのに、私たちは真面目っていう共通項でも結ばれていた。


「できるなら……その、泣かないでほしいんだけど」

「……泣かないつもりだけど、泣きそう」

「ディアナは、そういう性格っぽそうだな」


 本当は、泣きじゃくってしまいたいくらいの想いに駆られている。

 それをフェルが上手に促してくるものだから、私の涙腺は崩壊してしまいそうだった。

 フェルに、そんなみっともない態度を見せるわけにはいかないと思って、涙を堪えてみる。


「大丈夫」


 自分の無力さが情けないと思って、手にぎゅっと力を込めたとき。

 フェルの口から、奇跡のような言葉が私に向けられた。


「ディアナの魔法は、これから多くの人たちの力になるよ」


 聖女選抜試験に落ちた私を、ダンジョンという未知なる環境に挑むことになった私を助けてくれたのは、出会って間もない魔法使い様(フェル)だった。


「ディアナ?」

「フェルの言葉が嬉しいのも本当。でも、やっぱり失敗ってものは……自分を責めるきっかけになっちゃうね」


 医療従事者として、もっと強くならなければならない。

 それなのに、さっきから何度も何度も瞳に涙が浮かび上がって、真正面から向き合いたいはずのフェルの顔がぼやけたまま視界に入り込んでくる。

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