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第2話「聖女候補の落選者でも、人々を幸せにできる……?」

「ダンジョンで病院を開業するからには、いっぱい稼いでみせるから」

「たくさんの贅沢をすればいいよ」

「患者が多いのは宜しくないことだけどね……」


 ダンジョンの開拓に勤しんでいた全盛期時代には、いろんな企業(カンパニー)がダンジョンへと進出していたらしい。

 当時は数十という数あった病院も、現在では百階層の一施設しかないという寂しい現状にある。


「百階層の病院にも、挨拶に行かないといけないよね?」


 世界に二社しか存在しない、ダンジョン病院。

 百階層の病院に勤務する人たちに挨拶に行くのはいつのことになるのかなんて、未来のことを考えるのも楽しみに思えるようになったのは大きな進歩かもしれない。


「五十一階層からは、戦力増やさないと厳しいかな」

「フェルの実力でも?」

「立派に魔法使いやってるように見えるかもだけど、やっぱり人間には限界があるなって」


 フェルの言葉の意味を噛み締める。

 十年近く参加してきた聖女試験の中でも、自分の治癒魔法に限界を感じる女の子たちの姿をたくさん見てきた。

 努力の果てに待っていたものが諦めだったときの心の痛みを、しっかりと記憶に刻んでいく。


「初めてのお給料で、フェルと一緒にご飯に行きたいな」


 誰もが夢を叶えられるほど、現実は甘くない。

 それを知っているのなら、夢なんて見ない方が幸せになれるかもしれない。

 でも、夢があるからこそ、未来に希望を抱くことができるのも知っている。


「自分に給料が出るくらい稼ぎたいなぁ」

「アルノ様の話を信じるなら、需要は見込めると思うんだけど……」


 私たちは互いに笑みを浮かべながら、未来に向けての希望を語り合う。


「食べたいのあったら、遠慮なく言ってね」

「俺も給料でディアナにご馳走したいけど、ディアナ食べなさそうだからなー」

「……もりもり食べるよ」

「ははっ、たのもしい」


 階層が深くなればなるほど危険度は増して、地上へ戻ってくるもの混乱になっていく。

 でも、かつての冒険者たちは、ダンジョンのあちこちに転移装置と呼ばれる機械を残してくれている。

 おかげ昔よりはダンジョンの中の行き来が容易になっているとはいえ、既に使い物にならない転移装置もあって徒歩での移動を余儀なくされる場合もある。


「夢を抱くと、人は強くなれるね」

「その夢が、ディアナの力になってくれたら嬉しい」


 自信を装っているように見えて、その夢を叶える自信はまだない。

 それでもフェルが傍にいてくれたら、叶わない夢も叶うんじゃないかって不確かな希望が生まれてくるのを感じる。


「聖女候補は基本的に無報酬だから、自由にお金を使うのも初めて」

「まあ、着るものも、食べるものも、住むところも国が支給してくれるからな」

「だから、治癒魔法を使って、対価をもらえるって初めてで嬉しいなって」


 聖女候補にも報酬は振り込まれる仕組みになってはいるものの、ダンジョンに赴かない聖女候補はほぼほぼ報酬がない。

 聖女候補になる前に祖父母からもらったお小遣いが銀行口座に残されている程度で、そのお小遣いは使う間もなく聖女候補になってしまった。


「フェルとご飯を食べに行くって夢、叶えさせてね」

「夢なんて許可をもらわなくても、いっぱい持てばいいんだよ」

「ふふっ、うん、好きにするね」


 ここから先の生活は、すべて自分でなんとかしていかなければいけない。

 成人年齢には満たなくても、聖女でも聖女候補でもなくなった私は社会人として生きていくしかない。

 明日、食べる物がなくなっても。

 明後日に住む家がなくなっても。

 それらすべて、自分の責任になる。


「聖女候補の落選者でも、人々を幸せにできるんだってことを私が証明できたらいいなと思って……」


 城を追い払われてからの私は、自分の人生に落胆することしかできなかった。

 でも、今の私なら、前向きな言葉も口にできそうな気がする。

 そんな前向きな言葉を発している最中に、新たな事件が舞い込んできた。


「あー、聖女候補のディアナ様だー!」


 私たちがいるダンジョンの五階層は曇り空のような天候が特徴で、お世辞にも明るいとは呼べない場所。

 相手の顔を確認するのも一苦労だと思っていたけれど、私の淡い桃色の髪は、誰かに見つけてもらうには十分な明るさを誇っていたのかもしれない。


「聖女候補? そういえば、最近、聖女様が選出されてたよな」


 ダンジョンの中では数少ない冒険者一行と、すれ違った。

 七人組のパーティを組んでいて、男性が四人と女性が三人。

 二人でダンジョンの中を探索している私たちは、彼らからすると無防備に映るかもしれない。


「聖女様に選ばれたのはポリー様。ディアナ様は二位だったってこと」


 凶悪なモンスターが出ない階層では、冒険者の人たちが怪我をしている様子は見当たらない。

 私が元聖女候補と分かったところで、冒険者の人たちにはなんのメリットにも繋がらない。

 それなのに私は、冒険者たちの注目を集めてしまった。


「つまり、ディアナ様は聖女候補から落選しちゃったの」


 残酷な言葉が告げられるけど、それらを否定することはできない。

 彼らが口にする言葉に、何ひとつ嘘は紛れていない。

 すべてが本当。すべてが真実。

 だからこそ、私は心を痛めてしまう。


「でも、二位ってことは、聖女様が亡くなったときの代えになれるか」


 確かに私は現段階で、聖女様に次ぐ治癒の力を持っている。

 聖女様が亡くなったときの代えにはなるけど、聖女様が寿命で亡くなる頃には新しい聖女候補が誕生している。


(聖女に落選した時点で、私は二番目にしかなれない……)


 聖女の代えが誕生したところで、誰も喜んでくれない。


「あ、の……すみません、あの……ごめんなさい」


 医療術師として職に就こうと意気込んでいるはずなのに、私の人生は変わらない。

 これからどんな場所に行っても、私は聖女に落選した人という扱い。

 いつまでも二番っていう数字が付きまとう。


「ディアナ、謝らなくていい」

「でも……」


 神様は私の人生が始まったときから、私に《《二》》という数字を背負っていきなさいって運命を授けたのかもしれない。


「行くよ」

「うん……」


 注目を集めたからって、危害を加えられるわけじゃない。

 冒険者たちの興味と関心から、逃げればいい。

 聖女候補としてもてはやされた頃の私に別れを告げたいのに、世間は二番手の私のことを忘れてはくれない。

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