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第1話「聖女にはなれなかったけど、新しく夢を抱くことは許される……?」

闇夜の魂(ノクトゥス・ソウル)


 ダンジョンに眠る秘宝が掘り尽くされつつあるだけの年月が流れているのに、ダンジョンの造りについて解明されることはない。

 なぜか階層ごとに太陽なものが存在し、その階層を特徴づけるように空も存在するという謎な造りの場所。

 かつて大昔に、このダンジョンを造った偉人たちの想いが解明される日はやって来るのか。


「凄い……」


 先へ進めば進むほど、モンスターとの戦闘は激化していく。

 普段のフェルはとても優しいけれど、ダンジョンでは長年の経験で鍛えられた冷徹な目を敵へと向ける。

 モンスターが咆哮を上げると同時に、波長の長い波のような巨大な闇が敵へと襲いかかる。

 杖から放たれた闇魔法が敵を一掃すると、フェルはようやく一息吐く。


「街での戦闘も凄かったけど、ダンジョンは迫力が違うね」

「建物に気を遣わなくていいところが楽かも」


 凄いという言葉で、フェルの魔法を語るのも失礼。

 それくらい彼は華麗に戦闘用の魔法を使いこなして、襲いかかってくるモンスターを討伐していく。


「戦えない私からすれば、凄いよ! かっこいい!」

「褒めすぎ」


 フェルはモンスターに対して、一方的に攻撃するだけじゃない。

 攻撃を仕掛けてこないモンスターが、どういう意図で待機しているのかも一瞬で見抜いてしまう。


「私は、治癒魔法の勉強しかしてこなかったから……」


 治癒魔法を使えるということは、魔法を使う才はあるということ。

 ただ、治癒魔法を使える人材は貴重。

 治癒魔法を才に優れている人は、幼い頃から治癒魔法に特化した教育カリキュラムを組まされることが多い。

 よって、治癒魔法以外の魔法は不完全なまま大人になってしまう人も多い。


「聖女候補だったんだから、教えてもらえないこともあって当然」

「うーん、そう言ってもらえるのはありがたけど……ほかの魔法を使うことができたら、フェルの助けにもなれるのかなって夢は見ちゃうかな」


 ないものねだりって言葉が頭を過って、また私は視線を地面に向けてしまいそうになった。


「できないことを補い合ってる。そう思えばいいのに」


 私とは正反対に、未来への期待感から顔を上げるフェル。

 そして、岩陰に隠れていた一つの存在にゆっくりと近づいていく。


「ディアナ、この子たちを治療してやってほしいんだけど」


 人間と戦う意志がないのに、私たちとの戦闘に巻き込まれてしまった小型モンスター。

 動物のうさぎのような容姿をしているモンスターからは殺意も敵意も微塵も感じられず、ただ生活の場を守るために居残っていたらしい。


「フェルにできないことは、私が……!」


 神様から授かった治癒魔法はモンスターにも有効。

 私は屈んで、岩陰に隠れていたモンスターに手を差し出す。

 ふさふさとした毛並みがくすぐったくて、自然と口角が上がってしまう。


光の生命(ルミナス・ルブレス)


 モンスターは怯えた目で人間(私たち)を見つめていたけれど、今では治癒魔法の青い光を気持ちよさそうに浴びている。


「ごめんね、人間がダンジョンにお邪魔しちゃって」


 どこかほっとしたような表情を浮かべるモンスターたちは人間に懐くことを覚え、柔らかな毛並みで私とフェルの頬を撫でていく。

 私が思わず笑い声を漏らすと、モンスターたちも一緒に微笑んでくれたような気がして心が温かい。


「優しい子たちだね」

「人間と共存したいモンスターもいるってこと」

「モンスターを見抜くことも大切なんだね」


 モンスターは人を襲うだけの存在じゃないってことを、自分の経験を通して学んでいく。

 お城に閉じ込められていた聖女候補生活では勉学の時間も与えてもらってはいたけど、やっと自分で体験することの意味を知ることができたような気がする。


「またね」


 手を振ることに、どんな意味があるのか。

 言葉は通じなくても、私が治療したモンスターたちは感じ取ってくれたらしい。

 私とフェルはモンスターたちと別れて、ダンジョンの奥へと進んでいく。

 私が治療したモンスターたちは、自分たちの住処へと戻っていく。


「聖女候補は閉じ込められていたようなものなんだから、知らなくても仕方ないって」

「うん……」


 一応は、元聖女候補。

 でも、私は聖女に最も近いと言われていたこともあって、特別な環境下で育てられてきた。

 治癒魔法を使える子の中でも、特に秀でた才能を持っていた私は安全の面を考えてダンジョンでの研修には参加できなかった。

 聖女に最も近いと少女を危険に晒さないための配慮だと理解はしていたけど、ほんの少しの特別が窮屈だった。私は、いつもみんなの帰りを待つだけだった。


「ダンジョンでの研修に参加できなかったからこそ、お荷物のままではいられない」


 元聖女候補として大切に扱われてきた私は、ダンジョンにおける知識も経験も欠けている。

 冒険者の全盛期ではないといっても、冒険者が滅んだわけではない。


「身につけていかなきゃ、知っていかなきゃダメだなって」


 ダンジョンのような、未知なる場所のことを知らなくてもいいのは聖女様だけ。

 聖女になれなかった元聖女候補は、自分を必要としてくれる人たちのためにダンジョンの知識と経験を増やしていかなければいけない。


「今から、本当の意味で学園生活が始まった気分」


 いきなり自分に自信をつけることは難しいけれど、少しずつ自信をつけることならできるのかなって前向きな思考を頭に残せるようにイメージしていく。


「聖女にはなれなかったけど、また新しく夢を抱くことは許されるよね」


 私は城の窓から、ダンジョンに出発するみんなを見送る係。

 聖女でもなんでもなかったのに、聖女様行ってきますって声かけに対して手を振り返していた。

 それが、私の日常。

 それが、私の魔法学園での生活。

 帰ってきたみんなの治療をするって役割が残されていればまだいい方で、大抵の治療はパーティに同行した聖女候補が終わらせてしまっている。

 最も聖女に近い少女()【私】の出番は、そうそう巡ってこない。

 聖女候補に落選した日だけは、負傷者の数が多かったけれど。

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