08 放課後の誘い
数日後――
今日もいつもと変わりなく、学校生活を満喫していた。
「おはよう」
金髪の男が俺の席の近くに来て、挨拶をしてきた。
先日闘技場で遊んでやったイザベルだ。
「おはよう。……それで今日は何の用だ?」
「今日の放課後、時間空いてるか?」
「ああ、空いている」
「一緒にカラオケでもどうかな、と思ってな。他の人も呼んである」
カラオケと言えば歌を歌い、競い、勝者を決めるやつか。
(そこまで、物騒じゃないよ)
(そうか)
俺は『思念伝達』で海に飛ばす。
⦅何かあったのか?⦆
少し時間が経つと、海から返事が返って来た。
この世界だと少々、魔法が使いにくいな。
⦅はい。実は気になることがあってな。この放課後の遊びを誘ったのはこのクラスの委員長、日村光希って奴でな。あいつが誘ったのは俺とお前と神崎だ。これは憶測だが、全員転生者だ⦆
⦅なるほど。それで光希って奴が何か企んでいると⦆
⦅そういことだ⦆
⦅ちなみに凛は誘ったか?⦆
⦅いや、まだだ⦆
⦅そうか。俺が誘っておく⦆
俺は『思念伝達』を切り、一時間目の準備をする。
しかし、いくら何でもこの学校だけに転生者が四人集まることがあるのか?
しかもこのクラスにだ。
「おはよう」
横を向くと、凛が席に着いていた。
いつも通りの冷たく、鋭い、挨拶だ。
「おはよう。最近は挨拶までするようになったな」
「何よ! 別に挨拶くらい普通でしょ」
少し、鋭い視線でこちらを睨んでくる。
「会ったときは名前すら教えようとしなかったのにか?」
俺が少しいじってやると、凛は更にこちらを鋭く睨んできた。
相変わらずその睨みは変わらないが。
「それは、それよ!」
別にいいじゃん、という感じで俺から目線を外した。
そこまで怒らなくても良いだろうに。
「お前、今日の放課後、暇か?」
「放課後? 暇だけど」
「海と光希に誘われてな。俺は生憎、常識に疎いもので良かったら来てくれるか?」
「ふーん。友達、本当にいたんだね」
そっちかい。というか俺に友達がいることをまだ信じてなかったのかい。
「それで、どうする?」
「いいわよ」
意外と乗ってくれるものなんだな。
冷たい声で断るという展開が容易に想像がつくのだがな。
「何よ。私が断るとでも思ったの?」
俺の考えていることを当てるとはなかなかすごいな。
それとも顔に出てしまったか?
「まあな。お前なら断っていてもおかしくはない」
「私をなんだと思ってるわけ」
凛は少し小さな声で言った。
***
帰りの会を終え、俺が鞄の整理をしていると、海がこちらに寄って来た。
「行こうぜ」
「ああ」
俺は凛の方を見て言った。
「行くぞ」
「分かったわ」
凛はそう言うと鞄を持ち立ち上がった。
「光希はどうした?」
「先に行ってる」
先に行かずに一緒に行けばいいのに。
これではどうぞ怪しんでください、と言っているものだぞ。
「そうか。では行こうか。待たせても悪いしな」
俺達は教室を出て、カラオケ館に向かった。
道中、道を間違えたりもしたが無事に辿り着くことが出来た。
(起きてるか?)
ここ最近、悠太の様子がおかしい。
話す回数も少なくなり、どこか苦しそうだ。
この世界での魔法は効き目が悪い。
もしかすると死んでしまったかもしれない。
やはり反応がないな。
「悪い。トイレに行ってくる」
俺は海と凛にそう言って、トイレに行った。個室に入り、俺は目を瞑り、心の中に潜る。
心の中に潜り、直接、悠太が生きているかを調べる。
「悠太、いるか? いるならば返事をしろ」
真っ暗な空間で俺が叫んでも何も返事がなかった。
魔眼で見まわしても、誰もいなかった。
「悠太という人間はもういないねぇ」
どことなく不気味な声が響き渡った。
物語の神ではなさそうだ。
「どういうことだ?」
「彼は本来、死ぬ運命だったのさぁ。君が魔法で蘇らせたことでその運命がずれてしまったのだよぉ」
「何が言いたい?」
「この世界に本来、魔法は存在しないからねぇ。私が死へと導いてやったのさぁ」
「そうか。『死者蘇生』」
だが何も起こらなった。
「無駄だねぇ。彼は完全に死んだのさぁ。魔法のない世界では魔法の効果は薄いのさぁ」
確かに今まで魔法を何回か使ったが、魔法の効き目が薄く感じる。
完全に使えないわけではない、というのが疑問点ではあるがな。
「貴様は誰だ?」
「私かいぃ。私は生命あるものを死へと導く死神だねぇ」
この世界にもどうやら神はいるようだな。
全くどの世界でも神というものは厄介だな。
「私はこれで失礼するねぇ」
「逃がすと思うか?」
俺は手に魔法陣を描き、魔力を流しこむ。
その魔法陣から炎の鎖が出てくる。『赤鎖』の魔法だ。
赤い鎖が死神を捉え、拘束する。
「なかなかやるねぇ。君とは戦いたくないねぇ」
「悠太を戻せ。そうすれば解放する」
「無理だねぇ。彼はもう僕にはどうすることもできないねぇ」
死神は余裕そうな雰囲気だ。
姿は見えないが、確かに拘束している。それにあらゆる力をも封じられているはずだ。
「そうか。死ね」
俺は千を超える『火炎』を死神に撃った。
鎖が解け、死神が消えたようだ。
神なのだから死んだわけではなさそうだが、逃げたか?
まあ、おいおい分かることだろう。
俺は意識を覚まし、個室を出て、海達がいる所まで戻った。
「遅いわね」
待っているのに疲れたのか、凛は文句を言ってきた。
「そうか? それほど時間は経っていないと思うが?」
実際、トイレに行って、ここに戻ってくるまでに五分も掛かってはない。
それが遅いのだろうか?
「まあいいわ。行きましょう」
凛は先頭を歩いた。
「光希はもういるのか?」
「いるらしいぞ」
俺は『思念伝達』を使った。
⦅何か怪しい事はあったか?⦆
⦅今の所何もないな。まあ、ただカラオケをしに来たのかもしれねえな⦆
⦅そうか。何かあったら、剣を使え。この世界では少々、魔法の効果が薄くてな。魔剣の効果もあまりないかもしれん⦆
⦅分かった⦆
俺と海は凛の後について行く。
中に入ると黒髪の短髪で穏やかそうな顔をした生徒がいた。
「意外と早いね。今日は来てくれてありがとう。もう予約してあるから早速行こうか」
光希はそう言いながら、部屋を案内した。
何か企んでいる様子は今のところはないな。
部屋の中に入ると、中央にテーブルがあり、エル字型のソファーが置いてある。
中は涼しく、綺麗に掃除されている。
魔眼で見ても、特に怪しいものは何もない。
「今日はクラス皆で悠太君の歓迎会をやりたかったけど、集まんなくてね」
海が言うにはここにいる者だけを呼んだと聞いたが、何かの間違いだったか。
心がまるで読めんな。
「そのくらい平気だ」
俺が適当に種を返す。
「じゃあ、始めようか」
俺達は純粋にカラオケを楽しんだ。
本当にこのまま何もなければよいがな。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
四、五曲歌い終えると凛がトイレに行った。
「さて、何がしたい?」
俺はストレートに光希に尋ねた。
「何のことかな?」
「しらばっくれるのが上手いようだな。ここはカラオケ館ではないだろう」
「何を言ってるのかな」
ほお。これでもまだ知らんと言うか。
俺は少し、魔力で威嚇した。
「……バレちゃったか。まあいいや」
少し威嚇しただけでは白状とまではいかないか。
「何が目的だ?」
「君たちの実力がどれ程か見極めたくてね」
「本当の目的は何だ?」
俺が更に問い詰めるような質問をすると少し呆れた様子で言った。
「はあ。そこまで分かっちゃうのか。君は転生者でも別格だね。でも君の質問には答えられないよ」
ここまできてまたしらばっくれるか。中々度胸がある奴だな。
「なるほど。お前が俺に勝てるとでも?」
「君には敵わないよ。だけど今の時期はまだ戦えないしね。そんなことより、神崎さんの方に行かなくてもいいのかい?」
「その手には乗らないぞ。お前は偽物だからな」
俺がそう言うと、光希は霧となっていった。
「正解だよ。だけど君に僕を止められるかな?」
死神の喋り方独特だねぇ