05 弱すぎる魔族
「どうだ? これは俺の魔法の中でも易しい『魔花畑』だ。この魔法は美しさの中に、力を秘めている」
俺は魔法の説明をする。
「花に覆われてしまったからには、簡単には出られない。これはただの美しさだけではないぞ」
「や、やめてくれ! こんなもの、俺には耐えられない!」
イザベルは目を見開き、必死に訴えかけた。
「お前が本当に四天王というならば、少なくともこの程度の魔法には耐えられるはずだ。だが、残念だがその程度の力では、俺の魔法には通用しないぞ」
俺はそのまま、花の中に魔力を流し込んだ。すると、周囲の花々が一斉に輝き始め、幻想的な光を放った。その光は、イザベルの周りに迫り、彼を包み込んでいく。
「何をするつもりだ!?」
イザベルは混乱の中、叫んだ。
「ただ試すだけだ。お前が本当に四天王であるなら、この魔法を乗り越えてみせろ。さあ、立ち上がれ!」
俺の声は、その場に響き渡る。
その瞬間、イザベルは何とか立ち上がり、剣を握りしめた。
「この程度の魔法、俺が……!」
「やってみろ。だが、無駄に自分を傷つけるなよ」
俺の言葉を無視し、イザベルは予備の剣を構え、前へ進んだ。だが、花に足を取られ、次第に力が抜けていく。
俺は、その様子を静かに見守った。
「お前が恐れているのは、この美しさの裏に潜む力だ。真の力とは、見た目では判断できない」
イザベルは必死に剣を振り回し、花を切り裂こうとしたが、全く効果がなかった。逆に、花の香りが彼の意識を曖昧にし、力が抜けていく。やがて、彼はまた膝をついた。
「まだ終わっていない。俺は……四天王だ!」
イザベルは再度立ち上がるが、その目にはもう自信がなくなっていた。
「四天王とは名ばかりだな。今の貴様はただの雑魚と変わりはない。もっと力を見せてみろ、俺は待っているぞ」
悠太の挑発が、イザベルを更に追い込んでいく。
彼は剣を地面に叩きつけ、地面に跪いた。
「……頼む、助けてくれ。俺は、もう……」
俺は、一瞬その言葉に耳を傾けたが、すぐに顔を背けた。
「そんな甘い言葉を聞くつもりはない。強者は強者であるために、試練を乗り越えなければならない。もしお前が本当に四天王なら、ここから抜け出してみせろ」
俺はさらに魔力を集めた。
ここでイザベルをさらに追い込むことで、彼自身の力をもっと引き出せるだろう。
「最後のチャンスだ。お前が本気で立ち上がるなら、俺もそれ相応で応じてやる」
その言葉に、イザベルは目を閉じ、心の中で何かを探し始めた。
彼の意識は、徐々に冷静さを取り戻していく。
己が四天王であることを思い出し、誇りを取り戻そうとしていた。
「……分かった、もう一度やる」
イザベルは再び立ち上がり、剣を構えた。
その剣は魔剣と変化する。魔剣イグニスだ。
「その意気だ! さあ、力を見せてみろ!」
「俺は、腐っても四天王だ! 俺の力を見せてやる!」
その言葉を受け、悠太は興味深く彼を見つめた。
「ようやくやる気になったか。さあ、やってみろ!」
イザベルは深く息を吸い、魔力を集中させた。
魔剣イグニスが再び燃え上がり、その周囲には赤い光が渦巻く。イザベルの体全体が、力強い魔力に包まれ、今までとは違った迫力を放っていた。
「燃え上がれ、イグニス!」
イザベルは叫びながら、一気に前へと飛び出した。
「来い、貴様の力を見せてみろ!」
俺は挑発的に言った。
イザベルは一閃の斬撃を放ち、迫った。
しかし、俺は軽やかに身をかわし、イザベルの剣撃を避けた。
「遅い! もっと速く! 本気で来い!」
俺の声は、闘技場に響き渡った。
イザベルは再度、斬りかかり、今度は斜めに剣を振るった。
俺はその動きを読み取り、瞬時に反応して後方に飛び退いた。
別に避けなくてもいいが、もう一度魔剣を折ってしまうのは流石に可哀想だろう。
「やるじゃないか、少しはマシになったようだな」
イザベルは更に力を込め、魔力を剣に集中させる。
「俺は負けない! まだまだ!」
イザベルの周囲に炎が渦巻き、まるで小さな竜巻のように力強く舞い上がる。
俺はその様子を見て、少しだけ興味を抱いた。
「面白いな、そういう力も使えるのか。もっと見せてみろ!」
俺は挑発しながら、手をかざした。
イザベルは目の前の敵を見つめ、全力を込めた一撃を放った。
炎が燃え盛る剣が俺に向かって一直線に飛び、周囲の花々が揺れた。
「これが俺の力だ!」
イザベルは叫び、その剣を振り下ろす。
だが、俺は冷静にその攻撃を避け、瞬時に背後に回り込んだ。
「そういう単純な攻撃は通用しない。もっと工夫しろ!」
イザベルは慌てて振り返り、剣を構えるが、俺はすでに彼の隙を突いていた。
俺の拳がイザベルの腹に直撃する。
「ぐはっ!」
イザベルは苦しみながら膝をつく。
「まだ終わっていない!」
イザベルは魔剣を掲げ、周囲の炎を集め始めた。
「炎よ、我に集まれ!」
その瞬間、周囲の炎が魔剣イグニスの元に集まり、力を与えた。
「これが俺の力だ!」
イザベルは剣を振りかざし、周囲の炎が一斉に彼の元に集中した。
「なるほど、やっと本気になったようだな」
俺もまた、魔法陣を構築し始める。その魔法陣は、イザベルの周囲に暗い影を生み出し、次第にその影が強くなっていく。
イザベルの魔剣が、全力を込めた斬撃として放たれ、俺に向かって突進する。
魔法陣から小さな炎が飛び出した。『火炎』の魔法だ。
その炎は魔剣イグニスの炎を相殺し、その勢いのまま後方へと吹っ飛ばした。
「……くっ、まだまだ……」
イザベルは喘ぎながらも立ち上がろうとした。
しかし、もう剣を振るう力は残ってはいまい。
本気を出してもこの程度とは期待外れだな。
「まだ立ち上がるか、さすがは四天王と言うべきか。根性だけはあるな。さて、どうする? ここで負けを認めるか、再び立ち上がるか?」
俺は言った。
イザベルは疲れ切った顔を上げ、静かに言った。
「俺は……まだ戦える。だが、認める。これが俺の限界だ」
俺は頷き、イザベルの言葉を受け入れた。
「それでいい。次はもっと力を磨け。己の弱さを知り、初めてそこで強くなる。…………それと、俺と友達になってくれないか?」
イザベルは、驚いた顔をして彼を見つめた。
「友達……?」
「そうだ。もう一度言うが、俺が魔王だからと言って恐れる必要はない」
その言葉に、イザベルは微かに笑った。
「分かった」
俺は彼の手を取り、力強く握り返した。
「期待しているぞ、イザベル」
「試験終了。勝者、魔王ノエル・ルシファー」
上空から物語の神の声が聞こえてくる。
塞がれていた通路も現れていた。
「四天王イザベル・デュランは退場を。これから三十分の休憩を入れる」
イザベルはそのまま退場していった。
「三十分もいらん。次の対戦者を呼ぶがいい」
「では、二回戦を始める」
そう言って出てきたのは、黒髪ロングの男だった。
「始め!!!!」
俺は数歩歩く。
「俺の名はレオナルド・ロッシ。魔族最強の魔法使いだ!」
その男はいきなり名乗り始めた。
別に名前は聞いていないのだがな。
それに魔力も少ない。本当にあの魔力で魔族最強なのか?
「聞いているのか?」
「何、余りにも弱そうに見えてな。それでは十秒もかからんだろう」
俺が煽るように言うとレオナルドはこちらを睨め付けるように言った。
「弱いだと? 俺の実力を見せてやる!!!」
レオナルドは魔法陣を構築していく。何個もの魔法陣が重ねられ、そこに魔力が集っていく。
「実際にお前は俺の放った魔法に対応できていなだろう」
俺はそう言いながら、『火炎』を放つ。
「何のこと——」
そう言いかけて俺の放った魔法に焦がされていく。
「……こ、これ、は? まさか炎属性最強魔法の『地獄殲滅業火』か」
この威力を炎属性最強魔法と一緒にしては困るな。
「魔法陣をよく見ることだ。これはただの『火炎』だ」
俺がそう言うと、絶望に顔が染まった。
「お前は弱いな。先程の四天王とやらの方がマシだったぞ」
レオナルドは消し炭に成っていった。
…………瞬殺。