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47 優勝祝い

10時頃にもまた更新します。

 球技大会から数日が経った放課後。

 冬の夕陽がゆっくりと沈みかける空の下、俺たちは駅前の喫茶店に集まっていた。こぢんまりとした店だが、木目調の落ち着いたインテリアと、ほんのり甘いココアの香りが漂う空間は、どこか懐かしい居心地の良さを感じさせる。


「よう、全員揃ってるな。じゃあ、改めて――」


 イザベルがテーブルに置かれたグラスを持ち上げ、にやりと笑う。その笑みには、いつもよりほんの少しだけ、柔らかさが混じっていた。


「優勝、おめでとうございますってことで、乾杯といこうか!」


「ジュースで?」


「当たり前だ。未成年が他に何飲むんだよ」


 笑いながらグラスを掲げるイザベルにつられ、俺も手元のメロンソーダを持ち上げた。透き通る緑が、店内の照明を反射してきらりと光る。


 かぐやはオレンジジュース。グラスの縁に添えられたオレンジスライスが、彼女の明るい髪色に不思議とよく似合っていた。鈴花はレモンティーを選んでいた。透明な琥珀色の液体に浮かぶレモンスライスが、彼女の静かな雰囲気に溶け込んでいる。


「乾杯」


 四つのグラスが小さくぶつかり合う、軽やかな音がした。その音は、小さな祝福の鐘のようにも感じられた。


「……なんだか、こういうの、初めてね」


 かぐやがぽつりとつぶやいた。グラスの中を見つめながら、目元に柔らかな影を落としている。


「みんなで何かを勝ち取って、こうして祝うなんて」


「悪くないだろ?」


 イザベルが片眉を上げて見せると、かぐやは少し照れたように笑った。その笑みは、彼女のいつもの勝ち気な表情とは違い、どこか幼さを残しているようで、見ているこちらが思わず顔を綻ばせてしまうほどだった。


「悪くないわね」


 その横で、鈴花は黙ってストローをくわえている。だが、ほんの少しだけ、口元がゆるんでいた。彼女なりの笑顔――それが何よりも彼女の気持ちを表していた。


「鈴花もお疲れ。あの試合、すごかったよ。マジで鳥肌立った」


 イザベルの言葉に、鈴花は小さくこくりと頷いた。その動作には、言葉以上の重みがあった。


「……ありがとうございます」


「バレーボール、ずっとやってたのか?」


 俺がそう訊くと、鈴花は一度視線を落としてから答えた。


「いえ……体育の授業で、少し。でも……動きやすくて、楽しかったです」


 言葉は少ないけれど、その目には確かな輝きが宿っていた。


「そう……それなら、またやればいいじゃない」


 かぐやが言うと、鈴花は彼女をじっと見つめ、わずかに目を細めた。


「……かぐや先輩こそ、すごかったです。最後のスパイク、読めませんでした」


「ふふん、当然でしょ? あれは私の必殺コースよ!」


 得意げに胸を張るかぐやに、思わず俺も笑ってしまう。


「なんにせよ、あの決勝戦は見応えあったな。あれはもう、人間同士の試合じゃなかった」


「それを言うなら、俺とお前の卓球もな」


 イザベルが俺に肘を突き出すように言い返してきた。「いや、あれはただの死闘だった」と思いながら、俺は無言で肩をすくめた。


 窓の外、空が夕闇に染まり始める。店内の照明が少しずつ暖かさを増し、テーブルに柔らかな影を落とす。ショーケースには、季節限定のチョコレートケーキが並び、甘い香りが漂っていた。


「……来年も、出るんですか?」


 ふと、鈴花が呟いた。


「ん? 球技大会?」


「……はい。来年も……バレーボール、またやりたい、です」


 その言葉に、かぐやは一瞬きょとんとした後――


「……なら、また私と勝負する?」


「はい。……次は、勝ちます」


 そのやり取りに、俺とイザベルは視線を交わす。やれやれ、また来年が楽しみになってきた。


「じゃあさ、そのときも、終わったらこうして乾杯だな」


「そうね。来年はもっと、派手にやりましょう」


「……甘いもの、多めがいいです」


「おい、それはお前の希望だろ!」


 笑い声が、テーブルを囲む四人の間に自然と広がっていく。


「なあ、こうして集まるのって、もっと日常的にやってもいいんじゃないか?」


 俺がふとそう言うと、イザベルがにやりと笑う。


「やっと気づいたか、ノエル。これが、青春ってやつだ」


 冬の風は冷たいけれど――この空間には、確かにあたたかい光があった。

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